第540話 女王はつらいよ
リューの話を楽しそうに聞いていたソフィであるが、やがてタイムリミットが来る。
『女王陛下、そろそろ出発のお時間です』
女王を迎えに来た宰相が言った。
リュー 「どこかへ出かけるのか?」
宰相 「女王陛下はこれから近隣諸国を歴訪する予定になっております」
ソフィ 「もうちょっと待って。明日、明日の朝出発することにしましょう」
宰相 「なりません、既に出発の予定を二日過ぎております。これ以上遅らせては、約束の日時に間に合わなくなってしまいます」
ソフィ 「馬車を急がせればいいでしょう?」
宰相 「女王陛下…
…普段あまりわがままをおっしゃらない陛下のご希望ですから、なんとか叶えて差し上げたいのは山々なのですが……現状の遅れだけでも既に、限界ギリギリの状況なのです……。陛下の移動には騎士団の護衛も帯同いたしますので、彼らには既にかなりの負担を強いる行程となっておりまして……」
ソフィ 「それは……無理強いはできないわね…
そうだ、リューが居るのなら! 転移で移動させてもらえば……」
マルケス 「それも無理があるだろうねぇ、いきなり相手の国に転移で押しかけたら、相手側も驚いてしまうだろうからね。相手側にも準備というものが必要だろう? それに、騎士団を置いてソフィだけ行くわけにも行かないだろう」
ソフィ 「ならば、騎士団だけ先に行かせて、そこまで転移で送ってもらえば良いのでは? リュー? リューならば可能でしょう?」
リュー 「ああ、その、すまない…。今は事情があって、転移魔法はしばらく使えないんだよ……」
ソフィ 「……そう…なのですか……?
…それでは…仕方ないですね…」
元々リューが訪ねてくると聞き、かなり無理をして時間を作っていたのだ。これ以上部下達に自分のワガママで無理を強いる事もできない。
リューに城で待っていてもらい、また後日…という事もできそうになかった。次にソフィが国に戻って身体が空くのは数ヶ月先になるとの事だったのだ。
この世界では近場の国であっても移動には数日掛かる。ましてや王族の移動となると簡単ではない。訪問先に着いてからも、外交的な行事をこなしてから帰るとなれば、数週間から数ヶ月単位になってしまうのだ。
国同士の約束ごととなれば、簡単に予定の変更もできない。歴史は古いが大国とは言えないガリーザ王国は、外交を蔑ろにする事もできないのである。女王の両肩には国民の生活や命という責任が乗っているのだ。好き勝手は許されない……。
リューと久々に会って、冒険の話を聞き、数年前の無邪気な気持ちに戻っていたソフィであったが、名残惜しさを無理やり断ち切り女王の顔へと戻らざるを得ないのであった。
リューには、また必ず旅の話をしに来るように、また、時々で良いから連絡をくれるようにと約束させて、女王は公務へと戻っていったのであった。
* * * * *
ソフィと別れた後、リューはガリーザルムへは泊まらず、すぐに旅立った。隣のフェルマー王国へと向かったのである。
目指すはバイマーク。ミムルが復活した事によって、マイマークにもどのような影響があったか確認しておきたかったのだ。
リュー 「イライラ! 久しぶりだな!」
イライラ 「…これは、珍しい来客だな。元気だったか?」
冒険者研修所の教官だったイライラは、教官を引退し、今は子供達に剣術を教える教室を開いていた。(※昔とは違い、鬼教官ではなく優しい先生をしているらく、教室は盛況であるらしい。)
イライラと思い出話などしながら探ってみたリュー。統合前の世界では、ミムルが全滅したのにリューが生き残っていた事でイライラはリューに疑いを持ったはずだった。
だが、統合後は、リューがミムルで冒険者だったのに一度辞めて、初心者のフリをして再登録しようとした、と言う事で疑いを持った、という事になっていたようだ。
それ以外は、それほど差異はなかったようである。
リュー (…なるほど、世界の統合は、極力、影響が最小限に抑えられているわけだな…)
イライラの息子のラアルは冒険者を辞め、魔道具の製作者になったそうだ。ラアルにはそちらの方面の才能があったようで、今では魔道具の製作者としてそこそこ名前が売れているらしい。
冒険者ギルドのマスターだったネリナは、ギルマスの地位を後任に譲り、今は子供達を預かる幼稚園のような事をしているとの事であった。
リュー 「ネリナは子供の扱いがうまそうだったからな……」
リューは、自分も子ども扱いされていた事を思い出した。
リュー 「まぁ、みんな元気そうで何よりだ」
イライラ 「ネリナには会っていかないのか?」
リュー 「いや、少し急ぐんでな」
統合後の状況はなんとなく分かってきたので、リューは懐古旅を切り上げて、ロンダリアへと移動することにした。
リューの飛行能力も多少は上達したので、移動にはそれほど時間が掛からなかった。
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次回予告
魔法の特訓編?
乞うご期待!
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