第124話 凶報

ビエロの街に入った第一王子レジルドと将軍達……

 

街の中には夥しい数の死体が転がっていた。

 

死体は全員、身体を両断されている。地面は血の色で黒くまだらに染まっていた。

 

……恐ろしい光景であった。

 

これをリューがすべて一人で行ったのかと思うと、誰も、リューに話し掛ける者は居なかった。

 

リューの表情も険しい。リューが参戦した期間は20日ほどであったが、その間に数千人の人間を殺したのだ。それはリューも初めての経験であった。


重苦しい空気の中、後は任せて帰るとリューが言い出すと、特に異議を唱える者はおらず、ほっとした表情の者さえ居た。

 

 

   *  *  *  *

 

 

王宮に転移で戻ったリュー


すぐに王と宰相に敵を殲滅し街を取り戻した事を報告した。

 

王から労いの言葉をもらうが、何故か、皆の反応が思いのほか暗い。もっと喜んでもらえると思っていたのだが……

 

ソフィとレイナードの表情も暗い。

 

何かと思っていると、ソフィとレイナードが話し始めた。

 

ソフィ 「リュー、悪い知らせがあるのじゃ……」

 

リュー 「?」

 

レイナード 「ミムルの街が壊滅したらしい」

 

リュー 「?!?!」

 

 

 

 

聞けば、王国の西側にある謎の国、赤魔大国が侵攻してきたのだと言う。

 

ガリーザ王国が北側からチャガムガ共和国に攻められ、そちらに軍備を割いている隙を狙って侵攻してきたと言う事らしい。

 

もしかしたら、北のチャガムガ共和国と組んで仕掛けてきたのかも知れないが、北側に戦力を移動して防備が手薄になったので攻めてきただけかもしれない。

 

赤魔大国の力は強大で、西の国境の街ヴァレード、その隣の街トロメ(ギット子爵領)、そしてミムルの街まであっという間に制圧されてしまったと言うのだ……。

 

 

 

 

「戻ってきたばかりのところを申し訳ないが……」

 

再び対応に向かうよう王から依頼を受けたリュー。

 

もちろん、言われなくともリューは行くつもりであった。ミムルにはシスターアンと孤児院の子供達も居るのだ。全滅したなど考えたくない。

 

そもそも、そんな短時間で、あれほどの大きさの街が壊滅するなど想像しずらかった。何かの間違いなのではないか?

 

……現実感のない話に、何かドッキリなのではないかとさえ思うリュー。

 

現地に行ったらサプライズが用意されていたり、などと前世の記憶から妄想してしまったリューであったが、冷静に考えれば、そんな大掛かりなドッキリを王族がリューに仕掛ける意味がなさ過ぎる。

 

考えていても仕方がない、攻め込んで来たという隣国の情報を宰相から大まかに聞いたあと、リューはすぐに現地に飛んだ。

 

だが、ドッキリの期待も虚しく、そこでリューが目にしたのは、人が誰も居ないミムルの街であった……

 

    ・

    ・

    ・

 

しかし、様子がおかしい。

 

隣国の軍隊が攻め込んできたというのが本当なら、占領した軍隊が街に駐留しているだろうと予想していたのだが、兵士の姿は全く見えず。街の内外に大量の魔獣が闊歩していたのである。

 

 

 

 

リューが聞いた赤魔大国についての説明では、隣国でありながら、あまり多くの事が知られていない謎の国であると言うことであった。

 

噂話のレベルであるが、太古の昔に魔族と人間の間に生まれた混血の者達の子孫が興した国であると言われているとか。

 

さらに、彼らは人間を食べる習慣があるとの噂も以前からあったらしい。(食人習慣についてはデマであろうと言われていたのだが……)

 

 

 

 

リューは街の中に一人で入ってみた。

 

魔獣が襲いかかって来るが、すべて次元断裂で瞬殺しながら進んでいく。

 

建物の中に入ってみると、肉片のついた骨が無数に落ちている。魔獣に食い散らかされたミムルの住民の骨か……

 

街の中のところどころに、人骨とともに武器や防具が落ちている場所があった。そういう場所は、よく見ると、人間以外の獣の骨もたくさん落ちていた。おそらく冒険者や騎士達が魔獣と戦い倒したのであろう。

 

だが、警備隊の詰め所や冒険者ギルドの周辺では、ほとんどの人間が無抵抗で殺されているように見えた。防具や武器も両断されて落ちているのだ。警備隊の兵士や冒険者を瞬殺するほどの強力な攻撃力を持った敵が、武力のある場所を優先的に攻撃・殲滅したということか。

 

 

 

 

リューは自分のアパートや教会が建っていたスラム街と一般外の中間辺りの「ボーダータウン」と呼ばれる地域に移動してみた。

 

しかし、状況は変わらず。

 

どこまで行っても骨になった死体ばかりで、生きている人間の姿は見えない。

 

周囲に居た魔獣を葬りながら、リューは教会のあった場所にも行ってみたが、無人の建物があるだけだった。

 

大規模スタンピードが起きたのではないのか? と疑うリュー。


だが、近くにあるダンジョンは、リューが管理するダンジョンであり、魔物は外に出られない設定にしてある。

 

そもそも、町中を闊歩している魔獣の種類が、地竜巣窟の魔獣とは異なるのである。これはダンジョンから出てきたモノではない。やはり隣国から入ってきたのか?

 

ただ、幸いにも、教会の敷地の中に、シスターや子供達のものと思われる骨は落ちていなかった。どこかに逃げ延びているのかもしれない。

 

リューは、街の中をサーチしてみる。

 

すると、貴族街に、人型ひとがたの生物が動いているのを発見した。さらに、領主の館にシスターと子供達と思われる微弱な魔力を感知したのだ。

 

即座にそこに飛んでみるリュー、しかしそこで見たのは驚くべきモノであった。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

街を襲った者の正体は?!

 

乞うご期待!

 

 

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