第547話 真剣を抜くとか、殺される覚悟はあるんだろうな??

宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘したとき、鞘を捨てた小次郎に武蔵が「小次郎敗れたり!」と言ったという話は有名である。(まぁおそらくそのセリフは小説家の創作だろうとはリューも思っていたが。)


リュータ 「す、捨てたわけじゃ…」


だが背後の男達からリュータに声が飛ぶ。


『里の大事な剣を貸してやったのに、乱暴に扱うんじゃねぇ!』


それを聞いて、慌てて鞘を拾いに行くリュータ。


リュー 「まぁ、鞘は後で拾えばいいだけなんだけどな?」


リュータ 「…くそ! 誂ったのか?」


リュー 「なんだか素直過ぎるなぁ、大丈夫か?」


リュータ 「く…口は達者なようだな! さすが、下賤な “人間” 共の中で育っただけある」


煽り返そうとしたリュータだったが、そう言われてもリューは鼻で笑うだけであった。


リュー 「ふん。だがいいのか? 真剣を抜いたという事は……」


それまで飄々としていたリューの雰囲気が変わる。


リュー 「…殺し合いをするって事だぞ? 殺される覚悟はあるんだろうな?」


リューは光剣ライトソードを取り出し起動した。シュインという起動音がして光の棒がヒルトから伸びる。


リュータ 「なんだ、それは? 剣なのか……?!」


何かヤバそうな雰囲気を感じてリュータが焦る。


リューは光剣の切っ先をリュータに向けさらに殺気を放つ。その圧を受けビビるリュータ…


…だが、ふとその圧力が消えた。


リュー 「…やめた。これ・・だとオーバーキルになる。エライザの前であまりグロいのもなぁ…」


そう言うとリューは光剣を収納し、最近の愛刀、特殊合金製の模擬剣を取り出した。光剣では触れたものは全て切断されてしまうが、模擬剣ならばそこまではならない。それに極めて強度の高い特殊合金製なので、真剣が相手でもまったく問題ない。


とは言え、こんなモノで殴られれば骨が砕けて大怪我になるのは必至なのだが…。


この世界に来たばかりの頃は、転生ボーナス装備の魔剣フラガラッハを使っていた。それは今でもリューの収納の中にしまってあるが、フラガラッハの斬れ味は光剣にも劣らない。しかも治療阻害効果を持っているので、ある意味光剣より凶悪である。


普通の鉄製の安い剣も収納の中にないわけではないのだが、それだと逆に相手の剣の性能が優秀だった場合、打ち負けて折れてしまう可能性もある。里の大事な剣らしいので、安物でないほうがよいだろう。


リュータはリューが構えた模擬剣を見て、少しほっとしたような顔をした。


リュータ 「…模擬剣だと? そんなものでこの霊剣ラーズクオンデと戦えると思っているのか?」


リュー 「ほう、名のある剣なのか? ならばもったいないから折れてしまわないように気をつけろよ」


リュータ 「模擬剣でラーズクオンデが折られるわけないだろうが! 死ねっ!」


そう言いながら、リュータが切り斬り掛かってくる。


だが、リュータご自慢のラーズクオンデは、リューの模擬剣にアッサリ受け止められてしまうのであった。


リュータ 「何だその模擬剣……金属なのか?」


木製の剣など簡単に両断してしまえると思っていたリュータは驚く。


リュー 「里の自慢の名剣では、模擬剣すら断ち斬れないようだな? いや、剣じゃなくて腕が悪いのか?」


リュータ 「くそぉっ?!」


リュータがムキになってさらに猛攻をかけてくる。しかし、それを余裕で受け止めていくリュー。先程リュータは剣が得意だと言っていたが、竜人としての優れた身体能力に任せて押しまくっているだけで、剣の腕も言うほど大した事はなかったのだ。


身体能力が高いので他の種族と比べればそれでも十分強いと言えるのだろうが…、人間の世界で、様々な強敵(主にランスロット)との対人戦の訓練を行ってきたリューの剣技に比べれば稚拙としか言えなかった。


リュータ 「どうした! 反撃もできないようだな!」


リュー 「じゃぁそろそろ反撃していいか?」


リューが攻撃を受け流すと、そのままリュータの腕を撃つ。それなりに強く打ったので、普通の人間なら骨が折れるだろう打撃である。


だが、ドラゴンスケイルのおかげか、リュータは無事であった。苦悶の表情をしていたので痛みはあるようだが。


ならば手加減無用かと、リューは無造作にガンガンと打ち込み始める。リューの模擬剣は重量が100キロもあるのだ。それがリューの膂力で力任せに振られるのである。リュータの “名剣” はリューの打ち込みに耐えられずボロボロに刃毀れしていく。


さらにそこから、リューが変則的な技を織り交ぜ始める。するとリュータは対応できず、ついに胴を打たれ、薙ぎ倒されてしまったのであった。


エライザの前で、エライザの実の父をボコってしまうのはちょっと気がひけるところもあったのだが、当のエライザは「パパやれ~! もっとやれー!」と喜んで応援していたので、リューも遠慮なく続けることにした。


リュー 「俺の勝ちだな。お前の理屈だと、俺が父親って事だな」


リュータ 「まっ、まだだ、そんなの、認めないぞ……」


驚いた事に、リュータが根性を見せ、再び立ち上がる。


リュータ 「エライザは僕の子だ…エライザは僕が守る…」


リュー 「ほう…」


先程の打撃は手加減無用で打った。ドラゴンスケイルの上からとはいえ、肋骨が何本か折れた手応えはあったはずなのだが…。だが、リュータの構えた剣は、根本近くからポロリと折れて地に落ちた。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


エリザベータ 「あなたの事は嫌いじゃなかったけど…」


乞うご期待!



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