第546話 半人前には使えまい
リュー (おっと…さすがに感覚を修正する必要があるか)
パンチを掌で受け止めたものの、予想より強い力に押し込まれて、リューは慌てて力を込め直す必要があったのだ。相手は竜人、これまで相手にしてきた “人間” とは、その身体能力が比べ物にならない。
一瞬の間、力加減を修正し、リューはなんとか顔の前で拳を止めた。
リュー 「しかしお前、子供の前でいきなり暴力振るうとか、教育上どうなんだ?」
とは言え、魔獣が闊歩するバイオレンスな世界である。エライザも暴力シーンを見てショックを受けるほど純粋培養というわけでもない。むしろ、リュー達もエライザに身を守る術をそれなりに教えてきた。実はウザ絡みしてきた冒険者をエライザ自身がぶちのめした事もあったくらいである。
しかし、リュータはそんな事は知らず、少し慌てたようであった。だが…
リュータ 「う、うるさい! 僕がお前より強いところを見せればエライザだって!」
…開き直ったようだ。
リュータのパンチが再びリューの顔に向かって伸びてくる。だが、リューも反応できている。手を伸ばし、早い段階で拳をキャッチしていた。だが、今回はパンチを
日本に居た頃、誰かに教わった―――半分は受け止め、威力と速度を半減させつつ、わずかに軌道を変えたところでスッと力を抜くという技術である。
それを言っていたのが誰であったかはもう覚えていないが、曰く。
『突っ込んでくる相手を、ヒラリと躱せれば格好良い。が、実際にやろうとするとそう簡単ではない。だが、一旦受け止めながら捌いてやるのはそれほど難しい作業ではない。これなら達人でなくても実行できる。』
最近その話を思い出したリューは、どこかで使ってみようと思っていたのだ。
パンチの場合は、軌道を僅かに逸してやるだけでよい。顔を狙ってくる拳は、手前で数センチ軌道が変わっただけでもう当たらない。角度が少し変わったところで、手の力を抜いて流してしまえばよいのだ。
結果はイメージトレーニングの通り。リューはまるでポイッと投げ捨てるように相手の拳を往なしてしまう事に成功した。
必要以上に力んでいたリュータは、明後日の方向へ拳を振り抜いてしまう。結果、伸び切った体がリューの前に晒される事になる。慌てたところで、勢い余った体勢は容易には戻っては来られない。
リューは前にある無防備なリュータの脇腹を小突いてやった。
軽くであったのだが、肋骨を小突かれたリュータは痛みに顔を歪めながら転がって行った。
リュー 「…打たれ弱いな」
リュータ 「い、今のは油断したんだ! 次はそうはいかない! エライザ、お父さんの格好良い姿を見ていてくれ! ドラゴンスケイル!」
リュータがドラゴンスケイルを身に纏いドヤ顔をした。
リュータ 「これが竜人の技だ!」(フフフ、半人前の竜人にはできまい)
だがリューが同じくドラゴンスケイルを纏ってみせると、リュータの顔色が変わる。
リュータ 「そ、それくらいは、できるのか……まぁ、当然、だな…」
リュー 「さぁ、格好良いところを見せてくれ?」
リュータ 「くそっ! 今度はさっきのようには行かないぞ!」
再び殴りかかってくるリュータであるが……
どうも、リュータは殴り合いは得意ではないようだ。単調で大ぶりな力まかせのパンチは尽くリューに躱されてしまう。時折キックも織り交ぜてくるが、それもリューの膝でブロックされてしまう。
そして、空振りするたびに、リューの小さく早いジャブがリュータの顔を幾度も叩き、動きが止まる。
リュータ 「…っ、そんな軽いパンチ、効かないぞ」
ならばと、今度はジャブに強打を織り交ぜる事にしたリュー。顔へのジャブからボディへのストレートのコンビネーション。
ボクシングのワンツーである。目に向かって飛んでくるジャブに視界を塞がれると、続いて来る
鳩尾にリューのパンチが突き刺さり、悶絶するリュータ。
リュー 「“拳で語り合う” なんて言うが、これでは俺が一方的に喋ってるだけだな」
リュータ 「…っくそっ、僕は剣のほうが得意なんだ」
よろよろと立ち上がったリュータは、収納魔法を使えるのかマジックバッグを持っているのか、いつの間にか手に剣を持っていた。
剣を鞘から抜き、その鞘を後ろに投げる。それを見たリューが言った。
リュー 「勝負を捨てたか」
リュータ 「?」
リュー 「鞘を捨てたって事は、剣をしまう気がないって事だろ?」
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
ポッキリ……
乞うご期待!
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