第606話 偽物?!

街に入れたので、そのまま伯爵邸を目指す事にしたヴェラ。ただ、頼みのルチアは出掛けていると言っていた。戻っていればいいのだが…様子を伺って、戻っていなければ、少し待つ必要があるかも知れない。


ところが、伯爵邸に近づくと、なにやら騒がしい様子がする。


そして、伯爵の私設騎士団が大挙して屋敷から出てくるところであった。


ヴェラ 「門で止められなかったのは、こうやって迎え打つ予定だったからなのかしら?


…ってあれ?」


だが、屋敷から出てきた騎士団は、ヴェラに目をくれる事もなく、別の方向に走り去ってしまった。


何が起きているのかよく分からず、伯爵邸に入ってみるヴェラ。すると、庭に老騎士が血だらけで倒れているのを発見した。


ヴェラが駆け寄ると、まだその騎士に息がある。すぐさま治癒魔法を使うヴェラ。


かなり重症であったためヒールではなく、エクスヒールを使った。みるみる騎士の傷が治っていく。


敵か味方か分からない状態で無闇に治療して良かったのかは分からなかったが、目の前で傷つき倒れている人が居たら放っておけないのが元看護師のヴェラの性分なのであった。


傷が治った騎士は、突然目を見開くと言った。


老騎士 「ルチア様は?! ルチア様を助けてください!」


ヴェラ 「落ち着いて! 一体何があったの?」


意識が回復したばかりで混乱していた老騎士は、やがて正気を取り戻し、状況を理解して叫ぶ。


老騎士 「いかん、ルチア様が危ない!」


ヴェラ 「チョ待ってよ、何があったのよ?」


老騎士 「伯爵が! 騎士団を使って! ルチア様の命を狙っているのだ!」


ヴェラ 「なんで伯爵がルチア様を???」


老騎士 「いや違う、奴は伯爵ではない! 騎士団も、伯爵家の騎士団ではない!」


ヴェラ 「え? まさかの偽物?」


老騎士 「詳しく説明している暇はない、行かなければ! 


あ、そこに部下が二人倒れているので治療しておいてください。じゃっ!」


そう言うと老騎士は馬に飛び乗り騎士団が走っていった方向に向かって駆けて行ってしまったのであった。


ヴェラ 「ちょっと、何なのよ???」


仕方なくヴェラは倒れている老騎士の部下二人を診てみると、二人共まだ息があったので、治癒魔法で治療してやり、二人からやっと何があったのか聞くことができたのであった。




  * * * * *




時は少し遡り、ヴェラが街に入るために検問の列に並び順番待ちをしていた頃。


外出先からもどったルチアはエゴーリと対峙していた。


エゴーリ 「ルチア……生きていたのか」


ルチア 「まるで、私達が峠で賊に襲われたのを知っているみたいな口ぶりね?」


エゴーリ 「いや、知らん! 何?! そうなのか? 大丈夫か、よく無事で……」


ルチア 「もう三文芝居はいらないわよ。襲撃が失敗した時点で分かってるはずだけど。賊の一人が白状したわよ、あなたの指示だって、エゴーリ?」


エゴーリ 「ちっ、失敗したら自害しろと言ってあったのに…」


ルチア 「そんな命令、きくわけないじゃない。忠誠心もない街のゴロツキどもを雇うからよ。ちょっと脅したらすぐに白状したわよ」


エゴーリ 「そうか、もうすべて分かっているんだな、ルチア…」


ルチア 「ええ、残念だわ」


すると伯爵家の騎士達が部屋の中になだれ込んできて、ルチアを伯爵を取り囲む。


ルチア 「せっかく…。伯爵家の仕事に真面目に取り組みたいと言うから、伯爵代理・・を任せてあげたのに。残念だわ…エゴーリ。あなたを伯爵代行から解任します」


エゴーリ 「ふん、できると思うのか?」


ルチア 「この状況から逃げられると思っているの? さぁ、この男を逮捕しなさい!


……?」



だが、周囲に居る騎士達は誰も動こうとしない。


ルチア 「何をしているの? 伯爵命令よ、この男を逮捕しなさい」


エゴーリ 「ルチアよ、どうやらお前はまだ、全てを知ったわけではないようだな」


エゴーリがニヤリと笑い、手を挙げる。すると、騎士達が剣を抜き、ルチアに向けた。


ルチア 「あなた達、一体……」


エゴーリ 「こいつらは、俺が雇った騎士達だ。伯爵家に雇われているわけじゃない、俺の私設騎士団なんだよ」


ルチア 「そんな…」


騎士達の顔を見回してみるルチア。そこでルチアもようやく気づいた。全員、顔に見覚えはあるものの、ここ一~二年ほどの間に騎士団に入団した者達であったのだ。古株の騎士が一人も見当たらない。


ルチア 「古くら仕えていた騎士達はどうしたの?」


エゴーリ 「全員解雇したさ。急にやるとバレるからな、何年も前から準備していたんだ。もう引退の年齢だのなんのと言って、少しずつな。そして、俺の息の掛かった連中を入団させていったというわけさ。苦労したんだぜ、お前の目につくところに新人を配置して顔を覚えさせるようにして、違和感を感じさせないようにしてな」


ルチア 「そんな前から……


…あの病気もあなたの差し金…?」


エゴーリ 「いや、あれは偶然だった。だが、お前が何週間も外出しなくなったのでな、利用できるとは思った。病死という事にしちまえばいい。それなのに、まさか勝手に治療師を呼んで治しちまうとはな。


治療師も抱え込んで口封じするつもりだったが逃げられちまったし、賊に襲わせる作戦も失敗し、もうめちゃくちゃだ。だが、最後の最後で運が味方したようだ。ここでお前を殺って、軌道修正完了だ…」


騎士達の殺気が増す。


ルチア 「はぁ、伝統あるトリオム伯爵家もこれで終わりのようね……」


エゴーリ 「安心しろ、俺が引き継いで発展させてやるよ」


ルチア 「あんたじゃ没落する結末しか想像つかないんだけど…」


エゴーリ 「うるせぇ! いつもいつも俺の仕事に駄目出しばかりしやがって! おしゃべりは終わりだ! やれ!」


だがその瞬間、部屋の中に爆発が起こり、煙が充満する。


エゴーリ 「くそ、なんだ!」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ルチア逃亡


追うエゴーリ


ヴェラ 「私も応援に行くわ! ルチア様に死なれると困るからね」


乞うご期待!



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