第597話 儂が呪い?するわけないでしょ

ヴェラ 「実は、この情報を教えてくれたのはランスロットなのです。そのため、モレム医師が居ないであろう夜にお訪ねさせて頂きました」


カルル 「ランスロット殿が? それはつまり、根拠があるという事か…?」


じわりと浮き上がるように姿を現したランスロットが答える。


ランスロット 「モレム殿が怪しいと睨んだのは、夫人に着けられていた魔力と同質の魔力をモレム殿から感じたからです。闇系の魔力については我々は詳しいですからな。


そこで、亜空間から部下にモレム殿を見張るよう命じておきました。すると、モレム殿が夫人を診察し、その後、再びの呪いの魔力が付着していたと報告を受けました…」


カルル 「まさか、モレムが……なんということだ……」


ヴェラ 「何か心当たりはありますか? モレム医師に呪われるような…」


カルル 「ない。 …いや、強いて言えば、彼の実家の件か…」


ヴェラ 「実家がどうかしたのですか?」


カルル 「実はな、クーデターを起こしたグリンガル侯爵家と、我がアレスコード家、そしてモレムの実家であるカーディアス家は、長く親しい関係があったのだ。


だが、父が病で急逝し。私が後を継いだ。その後、私は半ば強引に派閥を離脱し、エドワード王に味方したのだ。実は、エド王と私は魔法学園の同級生でな、彼が信頼できる王になる事を私は確信していたからな。


だが、モレムはずっと、私が恩義ある侯爵を裏切り、エド王に着くのを反対していたのだ。私を諌めようとモレムが激しく意見を言ってきて、口論になった事もあった。


まぁ、結果としてはグリンガル侯爵のクーデターは失敗に終わったわけだが……


実は、カーディアス家はクーデターに参加していてな。モレムの実兄であるサルタ・カーディアス子爵はクーデターに参戦して死亡、その後カーディアス家は取り潰しとなってしまったのだ…」


ヴェラ 「あちゃぁ……」


カルル 「クーデター後、モレムはその事について一切何も言わなくなった。私からも、ほれ見たことかとは言えなかったしな。


どちらが正しかったという事ではない、単に、政争で勝ったというだけの事。グリンガル侯爵が王となったとしても、それなりに政はしっかりとやれる能力のある人物であったと思う。裏で悪事を働いてたとは聞くが、貴族なら清濁併せ持つ強さも必要だろう。


まぁ、私が義理を欠いたのは間違いない。古い付き合いでそれなりに恩もあった侯爵家を裏切ったのだからな。そのおかげで、アレスコード家は生き残れたわけだが、自慢するような話ではないと思っている。義理を通したカーディアス家は滅んだが、ある意味、立派な貴族であった。


その後、私はモレムに男爵位を与えた。(この国では男爵位までは上位貴族が与えられる事になっている。)男爵位からのスタートではあるが、モレムがカーディアス男当主になって家を再興しないかと持ちかけたのだ。これは、エド王にも許可を取ってあるのだが…


ただ、男爵位は世襲できないからな。家を残すには子爵以上に陞爵する必要があるが、モレムはもう歳なので、今更手柄を立てて家を残すというのは荷が重いと言ってな…。


結局、我が家の主治医として引き続き働いてもらう事になったのだ…」


ヴェラ 「でも、内心ではアレスコード様を恨んでいた、という可能性はありますね…」


ランスロット 「逆恨みですがね」


ヴェラ 「ああ、モレム医師がランスロットを睨んでいたような気がしたけど、あれはつまり…」


ランスロット 「そうでしょうね。モレムの兄はクーデターで死んだ。つまり、兄を殺したのは私、という事になりますからね…」




  * * * * *




カルルは翌日さっそく、モレムを呼び出して問い質した。


正面から問い詰めても難しいのは分かっていたが、呪いの魔力を診察時に直接注入されていたのでは、証拠も掴みづらいので仕方がない。


魔力の質が判別できる者であれば、モレム医師の診察時に見張っていれば分かるかも知れないが、ヴェラが言ったところでモレムは嘘だと強弁するに決まっている。


だが他に、証言者としての能力を有する者を探すのは大変である。


なにより、モレムとカルルは浅からぬ仲であったのだ。カルルは、正直に腹を割って話せばなんとかなると信じたかった。


だが……


モレム 「情けない! 儂が呪いを? アレスコード家の奥様に? そんな事をするわけないではないですか…! 


ああ情けなや、これまでずっとアレスコード家のために尽くしてきた儂を、ポッと現れた怪しげな治癒師の詐言に惑わされて疑うとは…!」


最初は憤っていたモレムであったが、徐々に尻窄みになっていった。


モレム 「…確かに実家であるカーディアス家の事は残念に思いますが、儂はとうの昔に家を出た身。今はアレスコード様から爵位を貰い働かせてもらっている身ですぞ…。感謝こそすれ……、恨みなど抱くはずがないのに………」


最後の方は酷く落ち込んだ様子となってしまったモレムであった。その様子を見るに、とても嘘を言ってるようには見えなかった。


カルル 「…ああ、いや、モレム……疑って済まなかった。子供の頃から散々世話になったお前を疑うなど、私がどうかしていたよ……」


モレム 「では、私を信じて下さるのですね?」


カルル 「うむ! ああいや、だがしかし……


…では妻に呪いを掛けているのは誰なのだろうか…?」


モレム 「そもそも、本当に呪いなのですか? ヴェラ殿の診断の間違いということは…? この者達が儂を嵌め、追い出すために嘘をついているのかも知れませんんぞ?」


ヴェラ 「なんで私がモレムさんを追い出す必要があるんですか」


モレム 「アレスコード家の主治医の座でも狙っているのかもしれん」


ヴェラ 「そんなモノに興味はないです」


カルル 「モレム、私には、ヴェラ殿の言う事も嘘とは思えないのだ…。お前ではないにせよ、誰かが妻に悪意を持った魔力を注いでいるのは間違いないだろう」


ヴェラ 「モレム医師が奥様を診察した後、呪いが復活していたのは確かです。それ以外に接触があった人間は居なかったと。ランスロットの部下が報告していますから」


ランスロット 「あ~すみません……それ、違ったみたいです……」


カルル・ヴェラ 「?!」


ランスロット 「どうやら、私の指示がよくなかったようで…」


ヴェラ 「どういう事?」


ランスロット 「今日のモレム医師の様子を見て、私も彼が嘘をついているとは思えなかったので、何かおかしいと思い見張らせていた兵士に詳しく聞いてみたのですが、どうやらもう一人、別の人物がその場に居たようですな。


モレムさん、あなたいつも、荷物を専属の使用人に運ばせていますね?」


モレム 「ああ、荷物を運ばせるために鞄持ちを連れているが……まさか……アトキンが…?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


メイド 「逃げられますた」

ランスロット 「いえいえ逃しません」


乞うご期待!


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