第598話 お前一体、なぜそんな事を…?
はっとした顔のカルルとモレム。
カルル 「その鞄持ちは今どこにいる?」
モレム 「控室にて待たせているはずです」
カルル 「すぐに呼んでこい!」
カルルは使用人控室に居るという青年アトキンを呼びに行かせたが、執事はなかなか戻ってこない。
そのうちメイドの一人が慌ててカルルを呼びに来た。そのメイドが言うには、どうやらアトキンが執事を害して逃げたという事であった。
カルル 「執事の怪我は? 大したことはない? それは良かった。それで、アトキンは?」
メイド 「執事を殴り倒したあと、部屋を飛び出して行きました…」
カルル 「逃げたか……」
ランスロット 「いや、逃しませんよ。部屋を見張っていた者が、責任を持って捕らえてくると張り切っていますので……もう捕らえたようです。ほら、あそこに…」
ランスロットが窓に近づき外を指差す。カルルたちも慌てて窓に近寄って見ると、屋敷の庭でスケルトン兵士に取り押さえられている青年の姿があった……。
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モレム 「アトキン! 奥様に呪いを掛けていたというのは本当なのか? お前一体、なぜそんな事を…?」
しかしアトキンは黙って答えない。
カルル 「隠そうとしても無駄だぞ。正式な取り調べになれば、隷属の首輪を使って強制的に真実を全て話してもらう事になる。その前に、自分から素直に喋ったらどうだ?」
モレム 「お前まさか…また悪い癖が出たのか? 最近はすっかり真面目になったと思い、診察の手伝いなどもさせてやっていたのに…」
アトキン 「…ふん、なにが診察の手伝いだ! いつもゴミみたいな仕事ばかりやらせやがって!」
モレム 「それは仕方がなかろう、お前は医師でも治療師でもないのだから、雑用を手伝ってもらうしか…」
アトキン 「それでも給料が高ければ我慢できたがな! 安月給じゃロクに飲みにも行けやしねぇ」
モレム 「お前、またマリアンの酒場※に出入りしているのか」
※女性が隣に座って接客するタイプの店
アトキン 「もう少しでサリーを落とせそうなんだよ! もう少し通えば…」
モレム 「ああいうところの女は、その気があるように見せかけて金を引き出させたいだけだと何度言ったら分かるんだ…」
アトキン 「いいや、サリーは違う! サリーは純粋な子なんだよ! 親の借金を返すために仕方なくあんな店で働いているんだ。だが、今回の仕事を成功させれば、サリーを店から救ってやれる!」
モレム 「…金と引き換えに依頼を受けたというわけか……依頼主は誰だ?」
カルル 「義理立てして隠す必要もなかろう? どうせ依頼は失敗だ。お前一人が罪を背負ったところで見捨てられるだけだぞ。依頼者は誰なんだ?」
アトキン 「……
……トリオム伯爵夫人のミーズ様だよ!」
モレム、「なんじゃと? なぜミーズ様がセリヌ様を呪う必要があるのだ?」
アトキン 「それは…アレスコード様が辺境伯に出世したから、らしいぜ」
カルル 「なんと……」
アトキン 「女の嫉妬ってのは怖ぇよなぁ」
トリオム伯爵夫人のミーズとアレスコードの妻セリヌは最近、社交界で交流を持つようになった。ミーズのほうが若かったが、セリヌは子爵夫人、ミーズは伯爵夫人。上の立場としてミーズは偉そうに振る舞っていた。まぁそれは当然の事なのでセリムも特に気にしてはいなかったのだが。
それが、アレスコードがクーデター後に飛び級で辺境伯へと陞爵した事で、立場が逆転してしまったのである。(※辺境伯は地位的には侯爵相当なので伯爵より地位が上になる。)
プライドの高いミーズは、これまで下に扱っていたセリヌに謙らねばならない立場になった事が許せなかったのだと言う。
セリヌ 「そんな……ミーズ様が、そのような事をする方だとは思いもしませんでしたわ……」
話を聞いたセリヌは驚いていた。聞けば、二人の間に特に確執はなく、二人の関係は良好であった記憶しかないのだそうだ。
最後に会った時も、立場は変わっても気にせず、これまでどおり仲良くしてくれるようお願いし、笑顔で別れたのだと言う。
だが、実はその時の会話が、ミーズをキレさせ、凶悪な計画に踏み切らせたのであった。
セリヌの言葉は
『立場は逆転し、私のほうが偉くなったけど、今後は下僕として尽くすなら、仲良くしてやってもよくてよ?』
とミーズには聞こえていたというわけである。
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次回予告
その後の顛末と新たな患者
乞うご期待!
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