第280話 奴隷商から金貨一万枚で子供たちを買い取る

リューは神眼を発動して子供達の心を読んでみた。


その結果、どうやらガーメリアが奴隷商にこの子達を売ったというわけではなかった事が分かった。


ガーメリアは急遽王都に戻らなければならなくなり、この街の領主にこの子達の処理を任せて街を出てしまったらしいのだ。


領主がまとも・・・であれば問題なかったのだが……


あの・・領主のもとに残された兄妹は、面倒くさがった領主によって街の警備兵に渡され。そして警備兵は、美味しい小遣い稼ぎだと奴隷商に売り飛ばしたのである。


その理不尽な流れを、隷属の首輪を着けられたままの兄妹二人はどうする事もできずに受け入れるしかなかったのだ。


リュー 「この街の領主や警備隊ではそうなるのは当然だな。ガーメリアめ、無責任な事をしやがって……」


ガーメリアはこの街の領主がそんなに根性が腐っているとは知らなかったのだから仕方がない面もあるのだが、それでもリューはガーメリアに対して腹を立てずにはいられなかった。


リューは子供たちをジッと見ていたが、急に奴隷商の顔を見た。


奴隷商 「…? なんです?」


リュー 「この子達は、嘘を言うように命じられているのだろう?」


奴隷商 「少なくとも私はそのような命令はしておりません。確かに、売りに来た者がそのような命令をしている可能性はあります。ですが、それを証明する事もできませんからな」


リュー 「ならば、貴族に証明してもらったらどうだ? この子達の保護は宮廷魔道士のガーメリアに任せてあったのだ。ガーメリアならばそれを証言してくれるはずだが」


奴隷商 「ガーメリア……? 宮廷魔道士四天王のガーメリア様ですか? 確かにそのような方の証言があれば認めざるを得ないでしょうな。そうであるなら、この子達は解放致しましょう。


……宮廷魔道士四天王を証言者として本当に連れて来る事ができるのであれば、ですが」


ヤン 「リュー様、ガーメリアとかいう宮廷魔道士は確かにこの街に入りましたが、既に街を出てしまったと聞いていますぜ」


奴隷商 「それではどうにもなりませんな。ご理解頂けましたら、お引取り願えますか? 商売の邪魔です。あまりゴネられるようなら衛兵を呼びますぞ?」


すると、部屋の奥から強面の男達が数人出てきた。この奴隷商の雇っている用心棒というところか。


だが、用心棒達はリュー達の後ろに立っているスケルトン三体を見て驚いた。


ランスロットは元から居たが、パーシヴァルとエヴァンスも不穏な空気を察知して姿を顕したのである。


スケルトンが放つ強い殺気に、男達はビビって及び腰になってしまった。


だが、奴隷商の男は状況に気づいていない様子である。どうやら殺気も感じる能力がないようである。あくまで商売人で戦闘能力がないならば仕方がないところであろうか。


ヤンが奴隷商にやめろ逆らうなと必死に目で訴えていたが、残念ながら奴隷商には意味が通じていないようだ。実は奴隷商は少し空気が読めない男なのであった。


リュー 「……ヤンよ、この国の奴隷の扱いはこれが標準的なんだな? 違法奴隷の売買は、知らなければ罪に問われないので、普通に行われている?」


ヤン 「そういう事に、なります……」


なるほど、現状で、この奴隷商の責任を問える法律がないならどうしようもない。


リューならば用心棒など全員ブチのめして子供達を無理やり奪うことも可能であろう。衛兵は現在街には居ないのでそもそも問題ではない。


だが、そんな事をしても、リューのほうがお尋ね者になるだけだ。最悪の場合、それでもリューは構わないのだが、さすがにそれは最後の手段であろう。


あるいは暴力に訴えずとも、ガーメリアを転移で王都から無理やり攫ってくる事だって、リューがその気になれば可能である。ただ……


リューは神眼を使ってこの奴隷商が地下室に抱えている奴隷を調べてみたが、他にも違法奴隷が何人も居るようであった。


この国にはどれだけ理不尽に奴隷にされた者がいるのであろうか?


リューはかつて、自分が奴隷となった経験があるせいか、奴隷制度についてはあまり良い印象を持っていない、むしろ許せない気持ちを抱いている。


この場だけ切り抜けても奴隷制度の状況は何も変わらないだろう。先程少しムキになって国王に会って言うなどと言ってしまったが、どうせなら、ここは合法的なやり方で制度を改めさせられれば、とリューは思ってしまった。


リュー (この国の王に会わなければならない理由ができたようだ……)


リューは正義の味方をするつもりなどないのだが、しかし別に、世の中のためになる事は絶対にしたくないという訳でもないのだ。むしろ、それもたまには悪くないと思うリューであった。


奴隷商 「さぁ、出ていって頂けますかな?」


リュー 「ならば、俺がその子達を買い取ろう。それなら問題はないだろう?」


奴隷商 「買う? お客様が? 高いですよ、払えますかな?」


リュー 「いくらだ」


奴隷商 「……一人金貨六千枚、二人セットならまけて金貨一万枚といったところですな」


ヤン 「おい! そりゃ高すぎるだろう」


奴隷商 「いえ、まだ子供ですから、将来性を見込んでの価格です」


奴隷商が提示した金額は、実は相場よりも相当に高かった。子供だから将来性を加味して価格が高くなるなどという慣習はこの世界にはないのである。むしろ、奴隷の子供は大人になれず死んでしまう事のほうが多いので、安くなる傾向すらあるのだ。


奴隷商はリューの足元を見て高額な金額をふっかけて・・・・・来たわけである。


リュー 「いいだろう」


奴隷商 「そうでしょう、諦めてください……って、え? 買うんですか?」


リュー 「ああ、金貨一万枚でいいんだな?」


奴隷商 「言っておきますが、現金一括払いでなければ売れませんよ?」


リュー 「ここに出していいか?」


リューはテーブルの上に亜空間から取り出した金貨を積み上げ始めた。高額なインゴット型の金貨も多数含まれている。


奴隷商 「なんと……収納魔法?」


リューがこれまで稼いだ金は金貨にして二十万枚以上になっていた。そのすべてを亜空間に収納しているので、金貨一万枚程度なら余裕で出せるのである。


奴隷商は慌ててお抱えの鑑定士を呼び、金貨が本物であるか鑑定させた。


リュー 「奴隷の鑑定はしないのに、金貨の鑑定は積極的にするのか」


奴隷商 「そりゃあね、偽金を掴まされたら大変ですからね、商売の基本です」


奴隷商は金貨が本物であると確認すると、嬉々として契約書を交わし、取引を完了させたのであった。


リュー 「あ~言っておくが、後で購入金額が適正な価格でない、不当に高額であった事が判明した場合は、それなりの覚悟をしておくのだな」


奴隷商 「えっ?! いや、その、それは……お客さんも納得して契約書にサインしたわけですし……」


リュー 「結局お前は、俺の足元を見たわけだよな? 先程ヤンも高すぎると言っていたしな」 


奴隷商 「いっ、いえ、そのような事は……もっ、もし!


もし仮に足元を見て金額を変えたとしても、それはお互い納得の上の金額、契約ですから、違法性はありませんよ?」


リュー 「違法ではないかも知れんが、俺は気分が悪いわなぁ」


ヤンがまたしても渋い顔で首を振っている。


奴隷商 「ああ! そうだった、忘れていました! その奴隷たちには特別割引の特典があったのです! 二人で金貨二千枚に致しましょう、今すぐお釣りを持ってきますね!」


リュー 「いらんよ、契約はもう成立しているんだ。今更金を返すなどと言っても受け入れる気はない」


奴隷商 「な……それで、その、どうするおつもりで?」


リュー 「さぁな、今のところは何も考えてない!(笑) ところで。買い取った奴隷を解放するのは、買ったものの自由と言う事でいいんだろう?」


奴隷商 「えっ、ええ、まぁ、そうなりますが……奴隷を買ったそばからすぐ解放する事を考える人は珍しいですぞ?」



― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

奴隷商 「あいにく、隷属の首輪を解除できる術者が今、街に居ないのですよ」

 

乞うご期待!

 

 

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