第574話 アリサ2

納品係 「おお、リューじゃないか」


リュー 「言っとくが、子供だからと不当に安く買い取ったりしたら許さんぞ?」


納品係 「そんな事はこのギルドではない、良心的なギルドなのは知ってるだろう? てかリュー、ここに顔を出すのは久しぶりだな」


リュー 「ああ、ちょっと忙しいんでな」


エライザ 「だーあ!」


腕に抱いたエライザ(当時1歳)の手を持って、納品係のほうに振らせるリュー。


納品係 「その子がエライザかい? 可愛いねぇ」


リュー 「そうだろう? エライザは世界一可愛いんだよ! ほら見てくれ、この輝く笑顔! それになぁ…」


しばらくリューの親馬鹿娘自慢に付き合わされる事になるギルドの納品係であった……。


アリサもそれが終わるのを、横で気長に待つ事になるが…


エライザ 「あー、あちゃ、アーちゃ…」


まだ「アリサ」と言えないエライザであったが、必死に手を伸ばしアリサに触ろうとしている。それを笑顔でアヤすアリサ。


エライザが来てからアリサにも少し変化があった。いつも仏頂面のアリサが、徐々に孤児院の弟妹達に笑顔を見せるようになったのだ。


アリサはリュー達と孤児院で半共同生活を送っている。家族が居ないアリサにとって、レスターやアネット、さらにその後受け入れた孤児達はみな、弟妹みたいなものであった。もちろんエライザもかわいい妹分となった。


暗殺者ギルドの奴隷として大勢の命の火を消す仕事を強いられて来たアリサだったが、トナリ村に来て、徐々に人間らしく生きられるようになってきたのだ。





結局、リューが保証してくれた事でアリサの持ち込んだ素材は買い取って貰えた。そしてその後、アリサは毎日のように魔物を狩って来る事になる。


やがて、高ランクの魔物を持ち込み続けるアリサの実力を冒険者ギルドも認めざるを得なくなり、数週間後には、未成年でありながら特例で正規の冒険者としてアリサは認められたのであった。


Fランクの冒険者となったアリサであったが、未成年であるため、ランクアップにも制限があった。


だが、狩ってくる素材を見れば、トナリ村で活動している冒険者達の中でも上位に入る実力があるのは間違いない。


そんなアリサを無視できなくなったギルドはアリサの昇級を認め、14歳になる頃には既にDランクとなっていたのである。(D以上はさすがに未成年で認めるのは手続きが難しかった。)


実は、まだ少女であるアリサに絡んでくる冒険者も多く、その度にアリサに血祭りにあげられる事を繰り返していたので、ギルドとしてもアリサをのランクを低いままにしておく事ができなかった事情もあった。


見た目は実年齢より幾分幼く見える少女だが、ランクだけでも上げておけば、絡まれる事も少なくなる。


…もちろん、外見だけでランクを信じずに絡む冒険者は一定数居るのだが。


    ・

    ・

    ・


そして、十四歳のアリサに話は戻る。


アリサは毎日、早朝に村を出て魔境の森へ向かう。そして魔物を狩り、午後の早い時間にはもう帰ってきて、ギルドで素材を売るのが日課であった。


今日も、いつものように納品を済ませてギルドを出ようとしたアリサであったが、声を掛けてくる者が居た。


『アンタ、納品見てたけど、凄いね!』


そのまま黙って行こうとするアリサ。


『ちょっ、待ってよ、無視しないで~』


コミュ障のアリサは、話しかけられても基本無視である。それでもしつこく絡んでくる下世話な冒険者には実力行使で痛い目を見せる事になる。


アリサは意外と容赦がないので下手をすると簡単に殺してしまいかねないので、そうなる前にギルド職員が飛んでくる事になるのがいつものパターンであったのだが…


この日は少し様子が違った。声を掛けてきたのは下心有り有りの男性冒険者ではなく、若い女性の冒険者だったのだ。


アリサは立ち止まってその女を見た。


『そんなに警戒しないでよ。アタイはビリンってんだ、これでもDランクの冒険者なんだよ』


アリサ 「……」


ビリン 「いや、その…、アタイより若い女の子が、アタイと同じDランクだって聞いてさ…」


アリサ 「……」


ビリン 「その、アタイ、仲間探しててさ、さすがに一人であの森で狩りは難しいからさ? でも、男性の冒険者だと色々と問題が起きやすいだろ? だから、できたら女性の冒険者でパーティ組みたいと思って探してたんだ。なぁ、アンタ、アタイとパーティ組まないか?」


アリサ 「……」


ビリン 「もしもし?」


アリサ 「…私はソロでいい」


ビリン 「ソロであの森に行ってるってのは聞いてる。でも、危ない事もあるだろう? やっぱり、仲間が居ると色々と助かることもあると思うよ?」


アリサ 「…必要ない。足手纏い」


ビリン 「うわ手厳しいね! アタイも結構腕は立つ方なんだよ? …ダメ? まぁしょうがないか、無理強いはできないしね。まぁ、でも、ちょっと考えてみてよ。考えるだけはタダなんだしさ」


アリサ 「考える必要ない」


話は終わりと去っていくアリサ。


ビリン 「まぁそう言わず! 気が向いたら声かけてよ、待ってるよ~」






ビリン 「…ファーストコンタクトは失敗か。まぁ、焦らず行きますか」


冒険者ビリン。調査系の仕事を引き受ける事が多く、調査屋とか情報屋なんて言われる事もある。ちなみにビリンは、調査系の仕事をする時はコードネームとしてビリーと名乗っていた。


今回は、パガルの執事、アケルの指示で、ジョーズの監視とマンドラゴラに関する情報を探りにトナリ村にやってきた。そして、冒険者アリサについて調べるため、アリサに接近してきたのだった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ガラの悪い男達に囲まれてしまうレスター


乞うご期待!



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