第438話 本物だった

マツ 「まぁ、そんなわけで、ここに居るガフリッケ・・・・・が決闘を申し込みたいと言ってるわけなんだ」


ガフ 「ちょ、決闘じゃないぞ、模擬戦だ」


リュー 「別にいいぞ、ちょうど訓練の最中だったんだ、相手をしてやろう」


トーゴ 「いや、ここでじゃなく、冒険者ギルドの訓練場でやってもらう」


リュー 「なんでだ?」


マツ 「いや、賭けで盛り上がっててな。ガフの奴が、ホラ吹きSランクに勝てるかどうかってな。そんなわけで、みんなが見てる前で試合をしてほしいってわけだ」


リュー 「それに付き合うメリットが、俺のほうにないような気がするんだが…」


マツ 「怖気づいたなら、戦わずに負けを認めてもいいぜ? みんなの前で、Sランクなんて嘘をついて申し訳有りませんでしたって手をついて謝るならな」


リュー 「下手くそな煽りだな。別に信じてもらわんでも俺は一向に構わんのだが……


まぁいいだろう、余興で付き合ってやっても。最近暇だしな」


マツ 「そうこなくちゃな。じゃぁギルドへ行こう」


リュー 「いいだろう」




  * * * * *




冒険者ギルドに向かうリューとランスロットとガフリッケ達。


ガフ(小声で) 「おい、さっきの見たろ? あれはヤバいって……やっぱり本当にSランクだったんじゃ」


マツ 「確かに動きは多少速かったが、それだけだ。軽い剣を高速で振り回すタイプなんだろ。だが、そういうタイプは重い攻撃は受けられないもんだ、お前なら勝てるさ」


ガフ 「金属製で、随分重そうな剣に見えたんだけど……?」


マツ 「何言ってんだ、重い剣を使ってあんな高速で打ち合えるわけないだろ? 現に、身体に当たってるのに平気な顔してたじゃねぇか」


トーゴ 「そうだよ、あの細い身体だ、お前ならパワーで圧倒できるさ」


ガフ 「そうかなぁ…」


マツ 「速いだけの軽い剣でお前の戦斧が受け止められるわけねえ、吹き飛ばしちまえば圧勝さ。エランク冒険者になんか負けんじゃねぇぞ? 俺はお前に賭けたんだだからな」


ガフ 「うーん…酔って余計な事言わなければよかった……」


全部聞こえているが、リューは聞こえないフリをしていた。




  * * * * *




冒険者ギルドに到着したリュー達。


ガフ達に続いてギルドの扉を抜けると、中に居た冒険者達の視線が一斉にリュー達に集まる。


マツ 「おいみんな! 噂の冒険者様のお出ましだぞ!」


冒険者A 「噂の…? Sランク冒険者か!」


トーゴ 「そうだ、名前は……なんだっけ?」


リュー 「リュージーンだ」


冒険者B 「おい、マツ! ガフがソイツの化けの皮を剥がすって話はどうなったんだよぉ? まさか負けて尻尾巻いて帰ってきたんじゃあるめえな?」


マツ 「ちげぇよ、これから訓練場でその実力を確かめようって寸法さ、本当にエスランクなのか、はたまたエセランクなのか、な? さ、行くぞ」


『待って下さい! この街に来たばかりの冒険者をリンチするなんて、許しませんよ!』


叫んで呼び止めたのは、受付嬢のレベッカであった。


マツ 「リンチとかしてねぇだろ。模擬戦だよ、訓練だ。一対一で正々堂々、腕試しをするだけだよ」


レベッカ 「それでも、まだ受付に声も掛けていない新顔の冒険者を連れてきて、訓練所に直行とかおかしいでしょう。立派な新人イジメですよね?」


マツ 「イジメじゃねぇって、そんなつもりじゃ……」


レベッカ 「じゃぁ、まずはこちらでお話を伺ってからでよろしいですね? Cランク冒険者のマッツさん?」


マツ 「ちっ、しょうがねぇなぁ……」


レベッカ 「では、こちらにどうぞ、ええっと、リュージーンさんと言いましたよね? …え~おほん! 


リュージーンさん、冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」


リュー 「…そのセリフは、いちいち言わなきゃいけないルールなのか?」


レベッカ 「そうなんですよ~マニュアル通りやらないと怒られるもので」(てへ)


リュー 「へぇ、そうなんだ。ご用件、は、俺のほうには特にないんだがな。そこに居る連中に、模擬戦に付き合ってくれと言われてな。義理はないが、暇だから余興に付き合ってやる事にしたんだ」


レベッカ 「そっ、そうなんですね。…申し訳有りません」


リュー 「別にアンタが謝る事でもないだろ? 冒険者がやんちゃする度にギルドの受付嬢が責任を感じてたらキリがないだろう」


レベッカ 「いえ、まぁ、そうなんですけどね……失礼ですが、リュージーンさんも冒険者なのですよね? Sランクだと村長から伺っていますが」


レベッカのその言葉で、ギルド内の冒険者達が静まり返ってしまう。受付嬢が村長から公式に聞いているという事になると、Sランクという噂はデマではない可能性が高くなるからである。


レベッカ 「失礼ですが、ギルドカードとか、お見せ頂く事は……」


リュー 「ああ、構わないよ。どうぞ」


突然、手品のようにリューの手の中に金属質の光沢のあるラメ入りの黒いカードが現れる。


レベッカ 「! あ、ありがとうございます」


冒険者C 「おい、やっぱり本当にSランクなんじゃ…堂々とカードを出したぞ?」


冒険者D 「偽造カードかもしれねぇだろ?」


冒険者E 「レベッカは何してるんだ、早く確認しろよ…」


レベッカはそんな冒険者達の囁きが聞こえたのか、慌てて受け取ったカードを読み取り機にかけてみた。


レベッカ 「…ありがとうございました。確認できました。本当にSランクですね…いえ、疑っていたわけではないのですが。なにせ、Sランクの冒険者なんて、こんな辺境の地で見かける事はないものですから、すみません…」


リュー 「ランスロット達のも見せてやったらどうだ?」


リューの後ろに黙って立っていたランスロットも、リューに言われるより早く、カードを既に手に持っていた。さらにランスロットの左右にパーシヴァルとエヴァンスの姿が徐々に顕れ、カードを差し出した。


レベッカ 「え、今どこから……」


リュー 「カードを確認してもらえば分かるが、彼らは俺の従魔だ。冒険者としても登録していて、ランクは俺と同じSだ。彼らはスケルトンだから、姿を消したり顕れたりするのはお手の物なんだよ」


レベッカ 「スケルトン!? スケルトンを従魔にしていらっしゃるのですか?」


リュー 「カードを見てくれれば分かる」


レベッカは言われるままに三人のカードも確認する。


レベッカ 「確かに、冒険者として登録されています。でも、本当に? スケルトン…?」


ランスロット 「本当ですよ?」


仮面を取って素顔を見せるランスロット。ドクロの仮面をとってもまたドクロ顔が出てくるだけなのではあるが。


レベッカ 「シャベッタ~!」


リュー 「そりゃ喋るさ、そうでなければ冒険者登録などできないだろう?」


レベッカ 「そ、そうですね……」


一連のやり取りを注視していた冒険者達は全員フリーズしていたが、その後、驚きの声をあげはじめる。


冒険者A 「ほ、本物だ…」


冒険者B 「おい、本物だよ。本物のSランクか、初めて見た」


その中で、一番焦っているのはガフリッケであった。


ガフ 「やっぱり! 本物なんじゃないか! どうすんだ、エセランクとか言って喧嘩売っちまって…」


マツ 「ま、まだ…、ランクが本物だとしても、まだ実力のほうは分からんじゃないか。案外通用するかも知れんだろう?」


ガフ 「そんなに甘くはないと思う…」


トーゴ 「まぁ、模擬戦だ。殺し合いじゃない。胸を借りてこいよ」


ギーム 「俺達もSランクの実戦を見てみたいしなぁ、せいぜい頑張ってくれ」


ガフ 「くそ~お前らは見てるだけだからいいだろうけどな~」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


模擬戦でリューの実力に驚愕する冒険者達


乞うご期待!



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