第437話 酔った勢いでつい

冒険者ギルドは、リュー達の教会のある場所から見ると、村の反対側にあった。


トナリ村は小さな村ではあるが、辺境で魔物が多い事から、魔物の素材収集のため訪れる冒険者は意外と多い。そのため、村人の人口に比べて冒険者の割合は一般的な街よりずっと高くなっており、冒険者ギルドは活発なのであった。


村長が、世間話のついでに、Sランクの冒険者が街に来たという話を冒険者ギルドの関係者にしてしまったため、冒険者の間でもSランク冒険者の噂が登るようになっていたのだ。


リューの事を話してしまった村長については、特に口止めはしていたわけでもないので責める事はできない。というか、リュー自身、別に噂に登ろうが何も気にする事もないので、特に口止めもしなかったのである。


冒険者は、通常、その街についたら冒険者ギルドに顔を出し、そこで依頼を受けるものだ。だが、その噂の冒険者は、いつまで待ってもギルドに顔を出しに来ない。そのため、色々な憶測も飛び交い始めた。


「Sランクって言ってるが嘘なんじゃないか?」


「そもそもただの噂だろ? Sランクだってのデマなんじゃないのか?」


「実はSランクは肩書だけの名誉ランクで、実力は大した事ないのでは?」


「実は見栄張って嘘ついちゃって引っ込みつかなくなってるだけだったりしてな」


そしてついに


『ホラ吹きの化けの皮を剥がして懲らしめてやろう』


等と言い出した冒険者が出てきたのだ。


力自慢のガフリッケである。ガフリッケはBランクで、筋骨逞しい体軀で戦斧を振り回す、典型的な脳筋冒険者であった。


ガフリッケは酔った勢いでそんな事を言ってしまったが、シラフでは意外と小心者であり、後で自分がそんな事を言ったと聞かされ青くなっていた。


だが、


『件の冒険者は本当にSランクか、あるいは偽物か?』


また、


『ガフリッケが件の冒険者に勝つか負けるか?』


で、既に冒険者の間で賭けが始まってしまっており、引くに引けなくなってしまったのだ。


そんなこんなで、ある日、ガフリッケと仲間の冒険者、マツ、トーゴ、ギームがリューの家を訪ねてきたのであった。




  * * * * *




ガフ 「た、たのもぉ……」


マツ 「声小さいなおい。もっとでかい声で出せよ。『頼も~!!』」


トーゴ 「……返事がないな。居ないのかな? 頼も~!!」


だが、やはり返事がない。


実はその時、リューは裏庭で木刀を使ってランスロットと模擬戦をしていた。


身体強化や魔法は一切使わず、練習用の模擬剣を使って打ち合う。


木剣ではリュー達が振るうと簡単に折れてしまうので、非常に質量の重いレアな金属を使った、スケルトン軍団冶金部特製の合金製の模擬剣を使っている。


リューの能力があれば剣技はそれほど必要ないのだが、純粋な剣の技術はやはり鍛錬を続けないと維持も向上もないので、リューは時々ランスロットに相手をしてもらって鍛錬していたのだ。


軽口の目立つランスロットであったが、その剣の腕は相当のモノなのだ。純粋な剣の技術ではリューよりはるかに上、人間で言えば剣聖級を凌駕するレベルであった。


人間として生きていた頃から剣技を磨いていたランスロットは、その後、スケルトンになってからも修練を続け、長い時を経て、様々な剣士と戦い、様々な剣技を身に付けていたのだ。


お互いに次元障壁の鎧を纏っての模擬戦なので、手加減無用、本気の打ち合いである。時折こうしてランスロットに相手をしてもらっていたおかげで、リューの剣技もかなり上達していたのであった。


   ・

   ・

   ・


ガフリッケ 「な、なんだありゃあ?」


訪ねてきた冒険者達は、ガンゴンと重い金属音を響かせながらリューとランスロットが斬り結ぶ音を聞きつけて、裏庭まで侵入してきたのであった。


マツ 「スケルトン?! 襲われているのか?」


※ランスロットは普段は服を着て仮面を着けているが、練習の時は服が傷まないように脱いでいたのだ。そのため、スケルトンである事は丸わかりであった。


次元障壁をリューが張っているので服を着ていても傷つく事はないのだが、高速で激しく動き回るとそれだけで服が傷むのだ。替えの服などいくらでもあるが、ランスロットにもお気に入りの服があり、普段はそれを着ているので、傷まないようにとランスロットは脱いでやっている。意外とモノを大事にするランスロットなのだ。


トーゴ 「しかしなんてスピードだ……かろうじて目で追うのがやっと……あ! やられた!?」


ギーム 「いや…平気そうだな。今度はやり返した? スケルトンのほうも平気そうだ。剣も刃がついてない模擬剣のようだし、もしかして……練習してるのか?」


トーゴ 「魔物を相手にか?」


マツ 「練習とは言え、町中にアンデッドを呼び出すとか、危険過ぎるだろ」


ランスロット 「おや、お客様のようですよ?」


ガフ 「しっ、シャベッター!」


リュー 「勝手に敷地に入ってきて、何か用か?」


ガフ 「い、いや、呼んでも返事がなかったんで、つい、物音のするほうに…」


リュー 「ああ、うるさかったか? 音は敷地の外には洩れないように障壁を張ってあったはずなんだが…」


ランスロット 「敷地の中に入ったので聞こえたのでしょう」


マツ 「一体何をしているんだ? てか、そっちのは…喋っているが、スケルトンじゃないのか?」


リュー 「ああ、コレは俺の従魔のスケルトンだ」


ランスロット 「ランスロットです、よろしく……アナタ方は?」


ガフリッケ 「ガ……ガフリッケ…」


マツ 「コイツはガフリッケ、俺はマッツソー、こっちに居るのがトーゴとギームだ。この街で冒険者をしている」


リュー 「ほう、それで、その冒険者達が、何か用か?」


マツ 「この街にSランクの冒険者が来たって噂になっててな。しかし、いつまで経っても冒険者ギルドに挨拶に来ねぇから、こちらから出向いてやったまでだ」


ランスロット 「それはそれはご丁寧に。ご挨拶が遅れて申し訳有りません」


リュー 「別に街に来たからって冒険者ギルドに挨拶しなければいけないルールは無いと思うが?」


ガフリッケ 「ぼっ、冒険者として活動するなら、ギルドを通すのは当たり前じゃ?」


リュー 「冒険者活動をしないなら、ただの村人や旅人と変わらんだろ?」


トーゴ 「お前達は冒険者じゃないのか? しかもSランクだと聞いたが?」


リュー 「一応、冒険者として登録はしてるがな。この村には冒険者をしに来たわけじゃないんでな。まぁ必要になったらその時に顔を出すつもりだったんだが」


マツ 「Sランクなんて、信じられねぇ」


ランスロット 「はい?」


マツ 「…っ、て、噂になってたんだよ、冒険者達の間でな。村長にSランクだって名乗ったらしいが、ギルドにまったく顔も出さないから、実はハッタリ、ただのホラ吹きだったんじゃねぇか? ってな」


ギーム 「そこで、化けの皮を剥がしてやろうって……確かめてやろうと……」


ランスロット 「ほう?」


ギーム 「と! ここにいるガフリッケが息巻いててな」


ガフ 「ずるい……」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


受付嬢エルザ 「冒険者ギルドへようこそ!」


乞うご期待!



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