第419話 無責任じゃないか!

話は売上金の配分に戻るが、スケルトン達が辞退したので、リューとミィとヴェラの三人で割ると、一人あたり金貨四百四十枚になる。これは、中堅どころの冒険者の年収くらいにはなる金額である。


だが、それを聞いたミィが驚いて、そんなに貰えないと言い出した。


そもそも、ダンジョンでは、魔物はほとんどリューとスケルトンが斃したのであり、自分はほとんど役に立っていない。マンドラゴラもリューが発見して採集した、自分は見ていただけだったのだから、自分は貰う資格はないとミィは言うのだ。


パーティとしての活動なのだから山分けでいいんだとリューも説得したのだが、どうしてもミィが遠慮するのだ。


それでは出来高制で配分比率を決めてはどうかとランスロットが提案した。魔物を斃していた数に応じて比率を決めて、その比率で儲けを分配するのだ。


例えば、リューが九十九匹魔物を斃し、ミィがその間に一匹斃したなら、九十九対一の比率で金を分けるわけである。それならとミィも納得してくれた。


リューは、ミィの貢献度比率は全体の十分の一と設定、その分だけ分け前を払う事にした。


マンドラゴラの金額の十分の一で、ミィの取り分は金貨百三十二枚となる。最初の額よりは大分減ったが、それでも何ヶ月かは働かなくてもよさそうな金額である。


自分の貢献度ではそれでは多すぎるとミィは言ったが、リューが十分の一で押し切った。


(ミィは奴隷から解放された時点であまり金を持っていなかったので、これで当面の金は確保できたと、正直、ミィも少しほっとしたのであった。)


実は、他にも、マンドラゴラの上位種を王都のオークションに出せば、その落札金額や、他に狩って収納してある魔物の分け前も、十分の一はミィに権利がある事になる。それがすべて支払われると、かなりの大金を手にする事になるのだが、この時点ではまだミィは気付いていないのであった…。






リューは支払いを全部現金で要求したため、ギルドの金庫はスッカラカンになってしまった。


リュー達は収納魔法が使えるので、金貨を現物で持っていても問題ないのである。逆に、ギルドに預けておくと、ギルドから除名されたり、嫌がらせされたりで金を引き出せなくなる可能性がある。リューはそこまで冒険者ギルドという組織を信用していない。


ただ、ミィだけは、大量の金貨を持ち歩く事ができないので、貰った金の大半をギルドの預金口座に入金しなおす事にしたので、ギルド職員が少しだけほっとした顔をしていた。


そこにギルマスのGがやってきた。


G 「…しかし、Sランク冒険者というのは、やはりとんでもない存在なのだな。外見からは……お前の顔を見ていると、未だに信じられないが」


リュー 「別に、信じようが信じまいが好きにすればいいさ。


金もある程度稼げたので、俺達は出発する事にするよ」


G 「なぁ、この街に根付く気はないか? この街はダンジョンが近くにある、Sランク冒険者が居てくれたら心強いんだが」


リュー 「いや、悪いが、今は旅をしたいんだ、世界を見てみたい。それに、今はトナリ村に行かなければならない、仲間の家族が待ってるんでな」


G 「そうか……仕方ないな」


『いや、君達にはもうしばらくこの街に居てもらう』


振り返ると、急に声を掛けてきたのはハンスであった。


リュー 「どういう意味だ?」


ハンス 「君達が魔物を処理してくれたのは聞いたよ。そのおかげでスタンピードが収まったと。…だが、本当に、スタンピードはなくなったのか? 完全終息を保証できるのか?」


リュー 「そんな事は知らんよ。俺たちは1~4階層の魔物を掃討しただけだ。スタンピードが終息したなんて言った覚えはない」


ハンス 「それは無責任じゃないか。浅い階層の魔物を掃討しただけだとしたら、一時的に沈静化したように見えても、ダンジョンの奥から、再び魔物が溢れてくる可能性はあるんじゃないのか? 君たちは、責任を持って最後まで見届けるべきじゃないか」


リュー 「そんな義務は無いと思うが?」


ハンス 「君達はSランクなんだろう? なら街を守る義務があるだろう?」


リュー 「初耳だな? たまたま街に立ち寄っただけの旅の冒険者にそんな義務はないだろ? Sランクをなんだと思ってるんだ?」


ハンス 「え、いや…Sランクのような高位の冒険者は、スタンピードのような街の危機においては、国やギルドからの指名依頼を受ける義務があるはずだろ? そうだよな、マスター?」


G 「…あ? ああ…、そうだな。Cランク以上の冒険者には指名依頼が出せる。特に、Aランク以上の冒険者には貴族や王族からの指名依頼、ギルドからの指名依頼があり、それは基本的には断る事は出来ない」


リュー 「だからって、報酬もなしに高ランクの冒険者をこき使っていいわけじゃなかろう?」


G 「そりゃそうだ。指名依頼を高ランクの冒険者に出すには、相応の報酬が必要になる…」


ハンス 「別にタダでやってくれとは言ってない、報酬はもちろん支払~」


G 「それなりに高額な報酬がな?」


ハンス 「っ、……どれくらいの額になるんだ?」


結局、Gの言葉に尻窄みになるハンスであった。代官から対応を任せるとは言われたものの、あまりに高額な報酬をすぐに約束する事は、ハンスの立場では勝手にはできないのであった。


それを横目に見ながらリューが質問する。


リュー 「質問なんだが…


…例えばの話だが、お偉い貴族様が、大金を使って構わないから、気に入らない高ランクの冒険者に嫌がらせのために下らない仕事の指名依頼を出す、なんて事も、不可能じゃないわけだよな? そういう場合はどうするんだ?」


G 「貴族と言えども、高い金を払ってどうでもいい仕事をさせるような物好きはいないと思うが……もちろん、内容を吟味して、明らかにおかしな依頼だったら断るさ。冒険者ギルドは、協力関係にあるとはいえ、国からは独立した組織だ。無茶な依頼は受け付けんよ」


ハンス 「別に、嫌がらせの依頼などでは……」


リュー 「まぁ、何にせよだ。俺は旅の途中だ、行かなければならないところがある。それを曲げて街に留まれと言われても、曖昧な理由では承諾できんさ」


ハンス 「スタンピードの対応という明確な理由があるじゃないか」


リュー 「具体的には? 俺は何をすればいい? いつまで留まればいいんだ?」


ハンス 「それは……スタンピードの終息が確認されるまでだ」


リュー 「それはいつなんだ?」


ハンス 「そんな事は分かるわけないだろう」


リュー 「それまで、俺に、期限も決めずにぼ~っと街で待っていろと言うのか?」


ハンス 「…っ、だが、冒険者は…! 冒険者が街に貢献するのは当然の義務だろう? 私はそう思っている、私も昔は冒険者だったんだ」


リュー 「ああ。そして今は、代官の娘と結婚して、代官補佐まで出世したんだよな?」


その言葉に、一瞬ハンスとミィの視線が交錯したが、ハンスは思わず目を逸した。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー 「じゃぁ待機料は一日につき100Gで」


乞うご期待!



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