第420話 もうちょっとだけ街に居る事に

リュー 「街に貢献という姿勢は立派だが…、それは “できれば” という努力目標みたいなものだろ? 嫌がってる者に無理やりタダ働きを強要するもんじゃないと思うが?」


ハンス 「だから別にタダ働きとは言ってないだろう。金額は今すぐには決められないが、指名依頼となったら、報酬は領主から支払う事になる」


リュー 「報酬も決まってない、いつまで、何をすればいいかも決まってないんじゃあ返事のしようがないなぁ」


ハンス 「それは、これからギルマスと相談してハッキリ決める」


リュー 「俺が街に居る間に具体的な依頼の内容がはっきりして、正式な依頼となったら、話くらいは聞いてもいいがね。…まぁ、多分、断るけどな」


ハンス 「だから、指名依頼は断れないはずだろう?」


リュー 「別に? 気に入らない依頼なら断るさ」


ハンス 「断れば、」


ハンス(Gのほうを見て) 「ペナルティがあるんじゃないのか?」


リュー 「べつに構わんよ。Sランクなど返上してもいいし、なんなら冒険者など辞めてもいい。実際、一度辞めてるしな。その時はギルマスから王都の冒険者ギルド本部に報告しておいてくれよ、指名依頼を断ったのでSランク冒険者を降格または除名しました、とな。俺は一向に全然構わん」


G 「そんな報告できるわけないだろ。そんな処分は、ギルドマスターの権限を超えている」


リュー 「とにかくだ。スタンピードが起きているならともかく、現状、はっきりしないというだけで、本来自由なはずの冒険者を無駄に拘束しておける道理はなかろう?」


ハンス 「むう…」


リュー 「ダンジョンはひとつひとつ、すべて違っている。ダンジョンは日々変化するんだ。何が起きるかなんて分かりはしない。それを観察し、対応するのはギルドと街の領主の役目だろう。いち冒険者にすべての責任を押し付けるなよ」


ハンス 「…確かに……その通りだな……すまん、道理の通らない事を言ったようだ。代官が不在で街を任されて、テンパってしまってな…


…正直に言うと、不安なんだ。もし、代官も不在の時に、本当にスタンピードが起きたら、俺の采配だけで街を守りきれるのか……」


G 「まぁ正直に言えば、不安なのは確かだな。今回のようなケースは前例がないんでな。スタンピードが起きようとしてる時―――魔物がダンジョンから溢れようというタイミングで浅階層の魔物を一掃してしまった、などという事例はないからな。その後、ダンジョンがどうなるかは予想がつかない。


…やはり、やがて、深い階層の魔物が溢れてくるのかもしれない。


もしそうなったら、深い階層にいる魔物は、当然これまでより凶悪な魔物という事になるだろう。五階層までの到達記録しかないこの街の冒険者では、正直、対応できるかどうか…」


リュー 「そもそも、俺達が居なかったら、スタンピードにどうやって対応するつもりだったんだ?」


G 「それは、冒険者達と、街の騎士団で協力して対応するしかないだろう。まぁ、まずはダンジョンの門を閉ざし、魔物が出てこないようにする。もし門が破られたら、街まで撤退して籠城してやり過ごすだな」


リュー 「だったら予定通り、そうすればいいじゃないか。浅層の魔物の対応で疲弊した後に、深い階層の魔物に対応する事にならずに済んだんだ。魔物を減らして感謝されこそすれ、義務とか責任とか言われる覚えはないと思うが?」


G 「この街の城壁が、持ちこたえられればいいんだがな…」


ハンス 「…頼む、もうしばらくの間、代官が戻るまででいいから、この街に留まっていてくれないか? Sランク冒険者が街に居てくれれば心強い。この通りだ!」


ハンスは腰を九十度曲げて頭を下げた。


ミィ 「ハンス……」


ハンス 「俺もダンジョンには何度も潜ったから、あのダンジョンの深層の魔物の恐ろしさはよく分かる。そして今は俺は、街を預かる代官の代理なんだ。街を守る責任がある。無理を言ってるのは承知しているが、どうか、少しでもいいから、力を貸してくれないだろうか?」


リュー 「悪いが、現状では、俺が街にとどまる理由がみつからないな。現時点で魔物が襲ってきてるわけでもなし。予定通り出発させてもらうよ」


ハンス 「……そうか。仕方ないな……」


ハンスはため息をついた。


リュー 「だが、何か問題が起こったらその時に呼んでくれりゃあいいだろうが。俺は転移が使えるから、別の街に居ようとすぐに駆けつけてこられるからな」


それを聞いてハンスとGが顔を上げた。


ハンス 「そ、そうか! 助かる!」


G 「だが、どうやって呼ぶ? 緊急時に伝令を走らせてたんじゃ間に合わないだろう」


リュー 「連絡用の魔道具はないのか? 俺はあちこちの王族・貴族から持たされているが」


G 「連絡用の魔道具なんて高価なモノ、そうポンポン用意できるもんでもない」


ハンス 「…ひとつはある。代官と領主の連絡用のものが……ただ、今は代官が持ち歩いているが……。代官が戻ってきたら、それを貸してもらえないか聞いてみよう。」


G 「それを渡してしまったら、領主との連絡で困るんじゃないのか?」


ハンス 「それはまた別に用意すればいいだろう、確か予備を発注してたのが、間もなく納品される予定だったはずなんだ。


というわけで、代官が戻ってくるまで、もうしばらく待ってもらえないか?」


リュー 「…やれやれ。何日だ?」


ハンス 「三日ほどで代官は戻るはずだ」


リュー 「待ってやってもいいが……ならば、待機料をもらおうか」


G 「待機料だと?」


リュー 「高額な稼ぎを叩き出せる冒険者を拘束するんだ、当然だろう? 嫌なら明日の朝には街を出る」


ハンス 「分かった、出そう。いくらだ?」


リュー 「…じゃぁ一日100Gで」


G 「高いなおい!」


ハンス 「そんなには……」


リュー 「はは、待機してるだけで100Gはさすがにふっかけ過ぎか。じゃぁ、一日1Gでいいや」


G 「そりゃまた安いな」


リュー 「掛ける人数分だぞ?」


G 「う、まぁそれでも、払えない額ではないな。どうせ払うのは代官だしな?」


ハンス 「もちろん、ギルドも半分持ってもらうぞ?」


G 「そう甘くはないか…」


リュー 「安くする代わり、上限は三日までだ。それを過ぎたら出発するぞ」


ハンス 「代官が戻るまで待ってくれないか?」


リュー 「別に、出発した後になるなら、後から魔道具を届けさせればいいだろ。俺はトナリ村に向かう予定だ。追ってくればいい」


ハンス 「そうか……分かった、とりあえず、三日は居てくれるんだな?」


リュー 「…ああ。その間に、ダンジョンの調査も進めておけよ。何よりそこが肝心だろ?」


G 「ああ、そうだな…分かってる」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「待ち伏せするぞ。たとえSランクだろうが、不意打ちなら一溜りもなかろうよ」


乞うご期待!



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