第529話 リューは犬派だからしょうがない
ただ、別の問題もあった。
リューはこれまで、スキルであれば何も考えずに自由自在に時空魔法を使えていた。だが、仮面を使って魔法を使うとなると、制御に慣れるのに時間が掛かるだろうと不死王には言われていた。時空魔法は制御を誤ると大変な事になるので慎重になる必要があるのだ。
そのため、スキルを失った後、不死王の監督の元、ある程度使いこなせるようになるまで練習する予定だった。
だが、その前に、エリザベータという先生が現れたのだから、竜人としての能力を身につける事を優先にする事になったのだ。そのため、その
ぶつけ本番になるが仕方がない。死んだ者を生き返らせるには、タイムリミットがあるのだ。魂がこの世界を離れてしまったら、もう生き返らせる事はできない。子犬達を助けるためには、悠長に練習している時間はない。
リューは一度も使った事がなかったその金色の仮面を取り出し、初めて装着した。
そして、自身に課されていた制約を解除する。
実は、世界の統合とは別に、不死王の助言はもう一つあった。それが、魔力生成能力の使用の制限である。
不死王の見立てでは、仮面を使って魔法を使っていれば、すぐに仮面がなくとも魔法が使えるようになるはずであった。だが、リューの魔法は、多少の上達はあったものの、それは微々たるもので、不死王が思ったほどの成長を見せなかったのである。
その原因は何かと不死王が分析したところ、無限の魔力生成に問題があったのだ。魔力をいくらでも生成できてしまうため、リューは膨大な魔力を使って
魔力が少ない者は、魔力を無駄にしないよう、また効率を少しでも上げるよう、繊細にコントロールするのが普通である。だが、リューにはそれが必要なかった。つまり、リューは繊細なコントロールなどした事がなかったし、しようとも思わなかったのである。
例えば、エネルギーを5しか持っていない者にとっての1の違いは非常に大きく感じられるが、エネルギーを一億も持っている者にとって、1程度の差はよく分からないというのと同じである。
そこで、リューにその違いを覚えさせるため、生成できる魔力量に制限を掛ける魔道具を不死王が作ってくれた。(それは同時に、竜人の使う竜闘気を扱う技術を向上させる事にも恩恵があった。)
つまり、最近のリューは、分解能力は常時開放されているが、魔力の生成能力は制限を掛けられ、ほとんど使っていなかったのである。
もちろん、どうしても必要になった時はその制約を任意に解除できる。
リュー 「スキル開放、魔力生成…」
リューは腕に嵌ったっているリングに魔力を流すと、魔力生成のスキルに掛かったロックが解除される。
久々に、
その膨大な魔力を使って時空魔法を発動する。
リュー 「巻き戻し!」
果たして…、巻き戻しはなんとか成功し、子犬達は全員生き返ったのであった。
そして、ランスロットに頼んで、生き返った子犬達をすべて捕まえて、トナリ村へと連れて行ってもらった。突然たくさんの子犬を押し付けられてヴェラとモリーは目を白黒させていたが、子供たちは大喜びであった。
さすがに多すぎるので、村人で飼いたいという人が居たら里子に出して良いとヴェラには伝えたのだが、意外と欲しいという村人が多く、この世界では珍しく、犬が妙に多い村となったのであった。
ところで、子犬を殺していた男爵家の庭に降り立ったリューは、弓を向けてきた騎士達と、ついでに男爵の首を、ドラゴンクロウの一閃で切り飛ばしてしまった。(子供は身長が合わなかったので生き残ったが、子供は見逃すことにしたのだが。)
おそらく、犬を殺しても、罪には問われない国がほとんどだろう。誰かのペットの動物を殺したら、財産を毀損した罪には問われるだろうが。
野良犬を集めてきてそれを狩りの練習で殺したところで、動物愛護法のような法律のないこの世界では、罪とはならないのは当然である。
にも関わらず、犬を殺した事を理由に人間を殺してしまえば、殺人罪に問われる事になるだろう。
しかも、殺した相手は貴族である。かなり大きな問題になる可能性が高い。
だが、リューはこれに関しては、まったく躊躇もなく、後悔もしていなかった。はっきり言ってリューの中では、人間の命より犬の命のほうが重いのだ。
リューは日本の実家で猫を飼っており、とても可愛がっていた。なので猫も好きだったが、実は、リューはどちらかと言うと犬派であった。
猫のグレ子を飼う前、実家では犬を飼っていた。リューは幼い頃からその犬と一緒だったのだ。その犬は長生きしたが、結局リューが高校生の頃に亡くなってしまった。その犬は、リューにとっては兄弟あるいは親友と言っても過言ではない存在だったのだ。
その頃から、犬猫を虐待するような人間は許せないとリューは感じていた。とは言え、日本では、思っていてもさすがに人間を殺すなどできなかった。
だが、異世界に転生し、価値観は大きく変わった。
人間以外の知的生命体が複数存在し、魔物が闊歩し、命が簡単に失われる世界である。死後の転生も確信している。クズみたいな人間を殺す事に抵抗感は少ないのであった。
(本当であれば、子犬を虐殺していた人間など、簡単に殺さず苦しめてやりたいところであったが、リューがそれをアッサリ殺したのは、子犬達を助けたかったからである。)
ただ、リューが貴族を殺した事は、後々問題になるかも知れない。
そうなる事が分かっていたので、巻き込まないようにエリザベータには手を出さず待機しているように言ってあった。エリザベータも犬は大好きで、実はかなり憤っていたのではあるが、二人がかりでやるほどの強敵も居なかったので、リューに任せた。
リューが男爵を殺した事が公になれば、リューはお尋ね者になってしまうだろう。まぁ、だからといってリューが負ける事はないと思われるが。
ただ、科学捜査もない、文明的には中世の地球程度の世界である。黙って逃げてしまえば、そう簡単にバレないかも知れない。だが…
天網恢恢疎にして漏らさず。悪事というのはどこからかバレるものなのである……
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次回予告
目撃者を全て消してしまえば完全犯罪
門番・男爵の息子・屋敷の使用人「…え?」
乞うご期待!
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