第136話 公爵の最期

リューは、ソフィは二つ返事で「一緒に旅に出る」と言うと思っていた。しかし、ソフィの返答はリューの予想とは違っていた。

 

ソフィは、父と兄の仇を討ち、自分が王位につくと言ったのだ。

 

ソフィに王位に対する執着があるのは意外だったが、よくよく聞いてみるとそういうわけではなく、公爵とその息子たちは基本、私利私欲しかない人間なので、国を任せたら酷いことになる、最悪、滅んでしまう事になるだろうと言うのだ。

 

事実、公爵が摂政の地位について間もないのに、既に平民に課される税金は3倍になったと言う。一応、国の軍備を立て直すために資金が要るという名目ではあるのだが、実際には増えた税収の大半は公爵家が贅沢をするために使われているらしい。公爵家は金持ちなのかとリューは思っていたが、意外と財政はきびしかったのだとか。(弟のラルゴ王が過度な贅沢を許さなかったのもあるらしい。)

 

王族の責任として、民が酷い目に遭うのが分かっていて見過ごせなかった。小さい時からラルゴ王に王族としての責任と気概を教わってきたソフィには、国を見捨てるという選択はどうしてもできなかったのである。

 

だが、そうなると少し難しい話になる。ソフィを連れ去るだけならリューなら簡単な事だが、公爵をどうにかしてソフィを王座につけるとなると、それなりの手順を踏む必要があるだろう。

 

まぁ、最悪、リューが公爵を暗殺してしまえば済む話ではあるのだが……。ただ、関知しないと約束してしまった手前、すぐに約束を破るのも躊躇われる。それに、それだと大義名分がない。王位につくソフィにダーティなイメージをわざわざつける必要もないだろう。

 

そこで、リューは一計を案じた。ベティ達に頼んで、リュージーンが王都に舞い戻っており、ソフィを救出しようとしているという噂を流してもらったのだ。

 

王と王子を暗殺するような大胆な事をしでかす公爵である。リュージーンという爆弾が王宮近くを彷徨いているとなれば、拙速に愚かな判断をするだろうと読んだ。

 

そして予想通り、リューを排除するように公爵から指示を受けた暗殺者がリューを襲撃したのである。

 

リューはこうも約束していた。「リューの自由を奪おうとするならば、全力で排除する」と。

 

晴れて堂々とリューは約束を果たさせてもらう事にしたわけである。まぁ、約束を守ったとしてもそれはリューの個人的なこだわりに過ぎないところもあるのだが。

 

公爵はまんまとリューの罠にはまったわけではあるが、そもそも、公爵がリューに手を出さなければ、リューに大義名分を与える事はなかったのだから、自業自得である。

 

暗殺者を倒したリューは、王宮へ乗り込み、ソフィを救助、一緒に摂政である公爵のもとへ向かった。

 

ソフィの希望は、ひとつは、父と兄を殺した公爵とその息子たちを討つ事。ただし……


…本当に殺したのが公爵であれば、である。

 

もし違っていたなら問題である。特に、王を殺した真犯人がどこかに野放しになってしまうのは危険過ぎる。

  

ただ、答えは簡単に分かる。心が読めるリューの前に捜査は必要ない。

 

ただ、神眼によって相手の心が読めるという事は誰にも明かしていない秘密である。ソフィにも明かすつもりはない。(そんな力が知れ渡ってしまえば、人間関係がまともに築けなくなるだろう。)

 

そこで、リューはソフィに、相手が嘘をついているかどうかを見破るスキル【嘘看破】(ライクラック)を持っていると伝えた。(たしかこれは以前も誰かに言った事がある。)

 

ライクラックは高レベルの【神官】のクラスを持つ者が持っているスキルである。心を読むような高度なモノではなく、単純に嘘をついているか否かを判定できるだけの能力なのであるが。

 

その能力が決して間違う事はない事を信じてもらうために、ババ抜きをやったり、嘘をついてもらったりしてそれを見破るゲームを行って、ソフィに信じてもらった。

 

そしていよいよ、確認と仇討ちである。

ソフィはリューと一緒に公爵の居る玉座の間に向かう。

 

リューは神官に化け、顔が分からないようにフードで隠した。さらにもう一人、ソフィを心配してウロウロしていたレイナードを見つけたのでリューが拉致してきて、神官の従者に化けさせた。

 

いよいよ公爵を詰めに玉座の間へ向かった。公爵が連れてきた家臣達が居たが、ソフィの顔をみた公爵は、人払いを命じた。ソフィに余計な事を口走られたくないのだろう。

 

 

 

 

公爵 「ソフィ王女? 勝手に出歩かれては困りますな」

 

ソフィ 「黙るのじゃ、お主には訊きたい事がある。父王と兄上を暗殺する指示を出したのは公爵、お主じゃな?」

 

公爵 「な、何を言ってる、儂はそんな事は知らんよ。現在犯人を捜索中だが、おそらくチャガムガ辺りから来た暗殺者であろう。王と王子には気の毒であったが、儂は関係ない。」

 

ソフィはリューのほうを見る。リューは黙って首を振った。

 

ソフィ 「ここに神官を連れてきておる。【ライクラック】のスキルを持っておる神官じゃ。その神官がお主が嘘をついていると言っておるぞ?」

 

公爵 「ライクラックだと……監禁しておいたのにどうやって外と連絡をとったのだ……? ああ、まぁ、バレてしまっては仕方ない。そうだ、儂が命じたのだよ」

 

意外にも、公爵は素直に認めた。

 

ソフィ 「おのれ……実の弟を殺してまで王位につきたいのか?」

 

公爵 「そうだ、もともとは長男である儂が王位につくべきであったのを、ラルゴは愚弟の分際でうまく父を丸め込み、王の座を掠め取ったのだ。儂は正当な王位を取り戻したいだけだ」

 

ソフィ 「おのれ……父と兄のかたき! 許せない!」

 

公爵 「ふん、小娘と神官二人で何ができる。ワルド! こいつらを殺せ!」

 

控えていたワルドが出てきた。素直に罪を認めたのは、もうここで一息にソフィを殺してしまうつもりだったのだろう。

 

ワルド 「本当にいいんですか?」

 

公爵 「構わん、死人に口無しだ! この小娘が居なくなれば、正式に儂が王だ!」

 

公爵はいざとなったらソフィを殺してしまうつもりで人払いしたのだった。

 

フンといやらしい笑みを浮かべながら、ワルドが剣を抜いてソフィ達のほうに歩いてくる。

 

だが、ソフィの隣に立っていた神官が剣を抜きワルドの前に立ち塞がった。

 

ワルド 「やめておけ、神官ごときが俺の相手になるか。おれは【剣聖】になる男だぞ、無駄死にするだけだ」

 

神官 「いいや、お前などに【剣聖】の称号が与えられることはないだろうさ」

 

神官がフードを剥ぎ取り顔を覗かせる。

 

ワルド 「レイナード!?」

 

公爵 「レイナード、お前は辺境の防衛任務を与えたはず! 何故王都に居る?!」

 

レイナード 「王女を守るのが近衛騎士団だからな。ワルド、俺と戦いたがっていたな、相手をしてやろう」

 

飛び退いて距離を取ったワルドであったが、すぐに気合を入れ、望むところだとばかりにレイナードに斬りかかった。

 

キンキンキンキン

 

切り結ぶレイナードとワルド。

 

ソフィがそれに目を奪われているのに気づいた公爵は、そっと短剣を抜きソフィに忍び寄って来た。だがソフィに凶刃が振るわれる直前、公爵の腕をソフィの傍らに居たもう一人の神官が掴む。

 

神官にそのまま力任せに引き倒され、公爵は派手に床を転がって行き、壁にぶつかって止まった。神官にしては恐ろしい腕力である。

 

公爵 「貴様、神官ではないのか?」

 

フードを取ってみせるリュー。

 

公爵 「リュージーン! 騙したのか!」

 

リュー 「別に騙しては居ない、嘘を見破るスキルも持っているのは本当だからな」

 

公爵 「貴様は! 今後一切関わりを持たぬと約束したのではなかったのか? 約束を破る気か?」

 

リュー 「約束? 俺は約束を守りに来ただけだ。言ったろ、俺の自由を奪おうとする者は全力で排除すると。俺を暗殺するように指示を出したのはお前だよな?」

 

公爵 「…っ! そんな事は知らん!」

 

リュー 「はい、嘘。言ったろ、俺は嘘を見破る能力があると。約束通り、排除させてもらう」

 

公爵 「わ、悪かった! もう二度と手は出さない、約束する! だからもう我が国の王位継承に口を出すな!」

 

リュー 「…もう遅い。今更お前の約束など信じられるか」

 

次の瞬間、公爵の両手両足と首が胴体から分離する。切断ではない、断面部分はまだ亜空間を通して繋がったままの状態である。

 

ふと見ると、レイナードとワルドも決着がついていた。床に手をついたワルドの首にレイナードが剣をつきつけている。レイナードはワルドを殺さなかったようだ。

 

リューは床に転がっている公爵の頭をつまみ上げるとソフィのほうに向けた。

 

ソフィ「……公爵。お主には、正当な罰を受けてもらう。ローダンも既に捕らえて牢に入れてある」

 

そこに、一人の少年が入ってきた。公爵の息子、三男のマルケスであった。

 

五体がバラバラになってパニックに陥っている公爵であったが、マルケスの姿を見て叫んだ。

 

公爵 「おお、マルケス! 助けてくれ! 反乱だ!」

 

首だけになったまま叫んでいる父親にドン引き状態のマルケスだったが、やがてゆっくり首を振り、言った。

 

マルケス 「ソフィ様の指示で、隠れて全てを見ていました。まさか、父上達が王と王子を暗殺していたなんて……」

 

マルケスはソフィ王女の前に跪いた。

 

マルケス 「女王、私マルケス・ダ・ガリーザは、貴女に忠誠を誓います。父の犯した罪の告白を確かに聞きました、私が証人となります。父と兄には厳正なる処罰を」

 

リューが心を読んで調べた所、兄のローダンは真っ黒であったが、マルケスは何も知らされていないのが分かった。マルケスにはあまり野心はなく、むしろ王家に対して忠誠心を持っており公私混同はしない性格である事が分かったので、事情を話し、証人になってもらう事にしたのだ。


(マルケスがこのような性格になったのは、生来の気質もあるが、どうやら偶々マルケスについていた家庭教師が好人物であったらしい。)

 

 

 

 

数日後、王族暗殺の罪で公爵ジョルゴと息子のローダンの処刑が行われ、ソフィが女王へと就任した。

 

こうして、ようやくガリーザ王国の政変は終わったのであった。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

まだ終わってなかった?

リューが向かうは…

 

乞うご期待!

 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る