第140話 ヴァンパイア土下座

ネムロイ 「……待て」

 

リュー 「ちなみに、ダンジョンモンスターだから定期的にリポップする。その度に何度も送り届けてやる事ができるぞ?」

 

ネムロイ 「頼む、待ってくれないか……


…人間の街を襲った責任は私が取る、民には罪はない」

 

リュー 「ミムルの街の人間達にも罪はなかったと思うがな」

 

ネムロイ 「……頼む、この通りだ」

 

なんと、ネムロイは座を居りて、手をつきリューに向かって土下座した。

 

リュー 「謝られても簡単に許せるわけがないだろう。自分達がした事の報いを受けるがいい。頑張って退治する事だ」

 

ネムロイ 「確かに、我ならばヒュドラを退治する事はできるかも知れないが、それによる街への被害が大きすぎる。毒に侵された街は長い期間、使い物にならなくなるだろう。報復としては釣り合わない、人間達の街は残っているし、人間はすぐに増えるだろうが、魔族は人間のようには増えないのだぞ……」

 

リュー 「勝手な言い分だな。人間は増えるかも知れないが、死んだ者は戻ってこない。俺の家族や友人達は帰ってこないのだぞ」

 

ネムロイ 「済まなかった、謝って済む問題ではないが、できる限りの償いはする。私の首が欲しいなら切って持っていくがいい。私は不死身に近いから首を斬られた程度では死にはしないがかえって好都合だろう。首だけ持っていって晒し者にでもなんでも気の済むようにしてくれてよい。だから、どうか……」

 

正直、ヴァンパイアロードがそんなに民思いである事がリューは意外であった。魔族の長というのは、もっと尊大なイメージを抱いていたのだが、元々ヴァンパイアは好戦的ではなく、知性的であるという話を思い出した。

 

しかしそうなると少し不思議である。民を守るために自分の首を差し出す覚悟があるような者が、何故、突然街を襲ったのだろうか……? 食料にするため、にしては、これまで数百年襲っていなかったのも腑に落ちない。

 

リュー 「・・・何故、人間の街を襲った?」

 

ネムロイ 「……国境を越えて我が国に侵入してきた人間が居たのだ。以前からそんな人間は時々居たが、魔獣を狩る程度であれば黙認していた。だが……ついに魔族の街まで来て略奪や誘拐を始めた人間が居たのだ。魔族の子供が拐われたという訴えを聞いた下級ヴァンパイア達が、それを取り戻しに行ったのだ」

 

リュー 「……え?」

 

ネムロイ 「子供たちは助け出した。だが、その過程で人間の味を覚えてしまった魔族が居た……。そして、止まらなくなった。人間の味を知った魔獣達も暴走してしまった。

 

私が事態を知った時には既に街が全滅していたのだ。予想外だったのは、思った以上に人間が弱かった事だ・・・以前、魔族と戦争をしていた頃とは違うようだな」

 

リュー 「先に人間が手を出していたというのか……」

 

ネムロイ 「嘘はついていない。とは言え、言い訳をしても仕方がない。下の者のやった事は長である私の責任だ。街三つ分の人間の命を奪ったのは事実だ。人間も獣や魔物を食べているのだから、と言うのは、殺された側からすれば言い訳でしかないのも理解できる」

 

神眼を使って心を読み、ヴァンパイアが言っている事が本当である事は既に確認した。ロードもリューが何らかの鑑定能力を使用しているのを知っていて、黙って受け入れていた。


リューは少々困ってしまった。魔族の側の一方的な侵略ではなく、先に手を出したのが人間の側だったとなると、話が違ってきてしまう。

 

確かに、この世界の人間の冒険者や商人なら、金目当てに何をするか分からない。おそらく魔族の子供も奴隷にして高く売るつもりだったのだろう。

 

とはいえ、そうだったのかとリューも簡単に許せる話でもない。家族にも等しかった者たちを殺されたのだ。その怒りは、振り上げた拳は、簡単に下ろせるものではない。

 

…ないのだが、過ちを認め謝罪し、賠償もすると言っている相手を、それも自分の判断ではなく部下の暴走であったのに責任をとって命を差し出すとまで言っているのに、それを無視して魔族の民を滅ぼすのも酷く横暴な話となってしまう。

 

すぐに判断ができず、逡巡してしまったリュー。

 

とりあえず、もうひとつ気になったことを尋ねてみる事にした。

 

ロードはヒュドラについてやけに詳しそうであった。それはつまり……

 

リュー 「……ヒュドラと戦った事があるのか?」

 

ネムロイ 「父が、な…。もう2千年以上も昔の事だが。

 

それが原因で、私の親族はみな寿命を著しく縮めたのだ。当時幼かった私は戦いに参加できなかったのでこうして生きながらえているが……」

 

資料を調べても、結局、ヴァンパイアの弱点を掴めなかったリューであったが、実はヴァンパイアも不死身ではない。限りなく不死身に近いのではあるが、実は、ヴァンパイアは、ある種の毒に弱かったのである。


そして、その毒を生成放出するのがヒュドラなのである。リューがヒュドラを使う事を決めたのは偶然の思いつきなのだが、見事に相手の弱みを突いていたのであった。


ただ、弱いと言っても、即死するほどではないので、弱点とまでは言えないかも知れないが。しかし、何もなければ無限とも言える寿命を持つヴァンパイアが、その毒に侵されると、徐々に肉体が弱っていき、あたかも“寿命”が与えられてしまったかのように、やがて命が尽きる時が来るのである。(それでも百年~二百年という単位の話なのだが)

  

ネムロイ 「人間と違い、魔族は増えるのが遅い。そこから、長い時をかけてやっとここまで街を復興したのだ……」


リュー 「2千年前……? それって、人間と魔族の戦争があった時の話か?!」

 

ネムロイ 「そうだ。あの時、我々ヴァンパイアは人間達と協力して魔王軍と戦っていたのだ」

 

ちょっと待て。随分話が違う。てっきり人間はヴァンパイアを王とする魔物軍と戦ったのだと思っていた。だが、そうではなく、なんとヴァンパイアは人間の味方であった? 魔王はヴァンパイアではなく他に居た???

 

ネムロイ 「もしかして、人間の世界ではもうそんな事も忘れられてしまったのか? そうか、人間の寿命は短いのだったな。魔族の寿命は長い。まだあの時の戦いを知るものも多く生きているが…」

 

リュー 「だが、魔族は人間を食べるのではないのか? ヴァンパイアも人間の血を吸うのだろう?」

 

ネムロイ 「食料であるからこそ、絶滅させてしまうわけにはいかないだろう? お前達だって食べるために動物を狩るが、その動物を絶滅させてしまったら困るだろう。人間がヴァンパイアの食料であるなら、人間とヴァンパイアは運命共同体とも言える。

 

だが、魔族の中には、人間などこの世界から根絶させるべきと考える種族も居るのだ。そういう者達が、人間を攻撃し始めた。

 

人間達は必死で抵抗していた。我々は、人間と仲は決して良くはなかったが、絶滅させたいとまでは思っていなかったので、手を貸す事にしたのだ。人間の血を吸えなくなるのも困るしな。そして、ヴァンパイアと人間の技術が合わさる事で、禁忌の技術が生み出され、使用された。ヒュドラだ。」



― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

チャガムガ共和国にも落とし前をつけさせないといけません

 

乞うご期待!

 

 

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