第567話 並の冒険者相手なら余裕で勝てる
だが、レスターも決して弱くはない。
調子が出ず、防戦一方の状態ではあったが、相手の攻撃を防ぎ切るだけの地力は持っていたのだ。
そして、なんとか攻撃を防いでいる内に、徐々に身体も温まり緊張も解けてくる。そうなると、本来の実力が発揮できるようになってくる。
受けとめていただけの攻撃を、徐々にレスターが受け流すようになっていく。
さらに、ジョーズの剣の軌道を僅かな接触で変えつつ、足捌きも加わるようになる。
ついには、レスターは最低限の動きだけでジョーズの剣に空を切らせるようになっていた。
空振りするようになると、連続では攻撃しにくくなる。体勢が崩れて隙も生まれる。その隙をついてレスターの反撃が始まると、ジョーズは驚く事になる。
あくまでジョーズの攻撃を往なして反撃する形なので、レスターから積極的に攻めるわけではないのだが、ジョーズは連続攻撃を封じられ、それどころか攻撃すれば際どい反撃を受ける事になり、必死で防御せざるを得なくなる。
確かにジョーズはかなりの剣の腕を持っていたが、レスターがその実力を十分に発揮できれば、勝てない相手ではなかった。
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ジョーズ 「くそっ、馬鹿な! こんなガキを、この俺が仕留められねぇなんて……ありえねぇ」
ガキなど簡単に仕留められると思っていたが、事が思い通りに運ばない。苛つき始めるジョーズ。
レスター 「おじさん、僕程度に勝てないようじゃ、リューには絶対に勝てないよ?」
ジョーズ 「リュー? 誰だそりゃ?」
レスター 「だからマンドラゴラの納品者だよ」
ジョーズ 「今考えたんじゃねぇのか?」
レスター 「違うっての! 言ったろ、リューに迷惑掛けたくなかったって。だからオジサンを村から誘い出したんだよ」
実は、レスターは、子育て中のリューにおかしな人物を近づけたくないと思い、自分だけで対処する事にしたのだ。
もちろんレスターも、たとえ子連れであってもリューが負ける事など無いとは思っていたのだが……
実は、レスターは、自分の腕を試したかったのだ。
だが狭い村の中で暴れると目立ってしまい、リューの耳にも入って心配させてしまう。そこで、誰かに見つからない場所で戦うために村を出たのであった。
もちろん、その時点ではまだ戦いになるかどうかは分からなかったが、まぁ調子にのった冒険者同士のトラブルならば、最後は荒事になるのは予想できる。
だが、そうなっても、それくらいは自分で対処できるとレスターは思った。
相手の腕がDランク級よりもずっと上であったのは計算外であったが、しかし、いくら腕が立つと言っても、レスターが普段練習している相手にくらべれば大した事はないはずである。なにせ、レスターの練習相手は剣聖超級のスケルトンだったのだから。
トナリ村に到着した時、レスターは六歳だった。それから四年、教会で勉強を教わったり仕事を手伝ったりする傍ら、スケルトン達を相手に剣の練習もずっとしてきたのだ。
レスターには残念ながら、魔法や特殊なスキルの才能はなかった。しかし幸いにもレスターには剣の才能はあったのだ。
飛び抜けた天才というわけではなかったが、努力した分だけ着実に成長する秀才であった。
そして、練習相手をしてくれているのはランスロットやパーシヴァル達である。(リューが子育てに夢中だったため、ランスロット達も暇になってしまったのだ。)
おかげで、レスターの剣の腕はメキメキと上達していったのである。そして、最近では
『並の冒険者相手なら余裕で勝てる』
とランスロットにお墨付きを貰えるほど強くなったのだ。
だが、そうは言われても、いつも格上の相手ばかりなので、練習で勝った事はなかったので、本当に自分に実力がついているのか、実感がなかったのだ。
本当に自分の剣が冒険者相手に通用するのか?
やがて、自分の腕を試してみたいという気持ちが芽生え、レスターの中で膨らんでいたのであった。
そんな時、絡んできそうな冒険者が現れた。このチャンスに、自分の力を試してみようとしたのである。
ただ、計算外であったのは、ジョーズが想定よりかなり強かった事である。
ジョーズが『剣の腕ならAランク級』だと自慢していたのは嘘ではなかった。Aランクは盛り過ぎであったにせよ、Dランクのレベルをはるか超えているのは確かで、初太刀の勢いに飲まれてしまったせいで、レスターは予想より苦戦を強いられる事になってしまった。
だが結局、最終的にはレスターが圧倒しつつあると言えた。実力を発揮できれば、剣技ではレスターは十分にジョーズを上回っている。
このまま行けば勝てると思うレスター。
その判断は間違ってはいない。それが、練習試合であれば…
だが、練習と実戦は違う。
ジョーズはまだまだ奥の手を残していた。
ジョーズもベテランと言われるDランクである。それなりに長く生き残れたのは、駆け引きや搦手、奥の手など色々な引き出しを持っているからである。やはり、腐ってもDランク。一筋縄で倒せる相手ではなかったのだ。
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次回予告
勝ったと思った瞬間に落とし穴があるもので
乞うご期待!
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