第236話 お前らごときが敵う相手じゃない

ドロテアがギルドを出た後、なんとか早くリュージーンを見つけてドロテアに会わせなければと焦ったブラギエフは、ギルド併設のバーで飲んでいた冒険者数人に、二人を見つけてくるよう依頼を出したのであった。


翌日から、依頼を受けた冒険者達がリューの捜索を始めた。二人は街の中を観光しているだけなので、二人を発見するのはそれほど難しくはなかったのだが……


冒険者 「おい、アイツじゃねぇか?」 「女と二人連れ、歳格好もあっているな、おまえ、訊いてみろよ」


冒険者 「おう、おめえがリュージーンだな?」


リュー 「ああ、そうだが? 何か用か?」


冒険者 「ギルマスから、お前を捕らえろと命じられてきた!」


リュー 「何…? ギルマス、ブラギエフか? そのブラギが俺を捕らえてこいと命じたと言うのか?」


冒険者 「ああ、一体何をしでかしたのか知らんが、大人しく捕まるなら痛い目を見ないで済むぜ? 俺たちはEランクだ、お前はFランクだそうじゃねぇか、歯向かわねぇほうが身のためだぜ?」


リュー 「何か勘違いしていないか? 本当にブラギは俺を捕らえてこいと言ったのか?」


冒険者 「ああ、間違うわけねぇだろ、ギルマスから直々に命じられたんだ」


リュー 「今日、朝から何人かに襲われたのはそのせいか。妙に治安が悪い街だと思ったが、そんな事だったとはな。だが、悪いが虜囚になる気はない、理由もないしな。お前たちのほうこそ、大人しく帰れば痛い目を見ないで済むぞ?」


当然、魔法王国の冒険者も、Eランク程度でリューに敵うわけもなく。痛い目を見て這々の体で冒険者達は逃げ出す事になったのであった。


リューに軽く一蹴された冒険者達は仕方なくギルドに戻り失敗を報告したところ、ギルマスに大目玉を食らう事になってしまったのだった。


ブラギ 「リュージーンに喧嘩を売ったのか!」


冒険者 「ギルマスが言ったんじゃねぇか、捕らえ来いって!」


ブラギ 「俺は連れて来てくれと言ったんだ、捕らえてこいなんて言ってない! だいたいお前らごときが敵う相手じゃない!」


冒険者 「そんなん知るかよぉぉぉ!」


リュージーンがFランクであると聞いた冒険者達は、無意識の内に、おそらくその冒険者が何かマズイ事をしでかして手配されているのだろうと勘違いしてしまったらしいのであった。


これは、ブラギのミスであると言えよう。


皆、酔っていた時の話であった。そして、ブラギもちゃんと「丁重に連れてこい」と念を押さなかった。勘違いされても仕方がない。むしろ、正しい指示を与えられず、痛い目にあってしまった冒険者達は被害者と言えよう。


その時、自分が指名手配されている事を聞いたリューが冒険者ギルドにやってきたのだった。


リューは受付に向かった。


受付嬢 「冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件ですか?」


リュー 「リュージーンだが、俺が指名手配されていると聞いた。ギルドマスターを出せ」


リューが不機嫌そうに言った。


受付嬢はピンコではなかったため、リューの顔を知らなかったが―――リューはこの国に入ってからは常に銀仮面を着けているが、仮面の魔力でそれが素顔だと認識されているので問題ない―――名前を聞いた受付嬢は慌ててギルドマスターを呼びに走ったのであった。


(朝の朝礼でリュージーンという冒険者が現れたらすぐに知らせるようにと指示が出ていたのを受付嬢はちゃんと覚えていたのは幸いであった。)



   **  **  ** 



ブラギ 「すまん!」


リュー 「まったく、指示が悪すぎるだろう」


ブラギ 「いや、アイツラがな、酔っ払ってて人の指示をちゃんと聞いてなかったんだよ」


リュー 「そんな状態で指示を出したのが悪いだろう。中には問答無用で襲ってくる者も居た、殺されても仕方ない状況だぞ?」


ブラギ 「いやぁ……そのぉ、スマン」


テーブルに手をついてブラギは謝るしか無いのであった。


リュー 「で、どうかしたのか? 俺を呼んでいたのは?」


ブラギ 「実はな、お前に会いたいという人物が居てな……」


ピンコ 「マスター、リンジット様がお越しです」


ブラギ 「おお、通してくれ」


部屋に入ってきた男装の女性がジロリとリューとヴェラを射抜くように見た。


ドロテア 「君がリュージーンか?」


リュー 「アンタは?」


ブラギ 「こちらは宮廷魔道士長のリンジット卿だ。リュージーンの話を聞いて是非会ってみたいとおっしゃられてな」


ドロテア 「ドロテア・リンジットだ」


リュー 「リュージーンだ」


ヴェラ 「ヴェラです」


ドロテア 「早速だが、君達についてはこちらのブラギエフ氏に聞いたよ、君がこの街に来た日に何をしたのか、すべて、詳らかにね」


リューは眉を顰めてブラギを見た。バツが悪そうな顔をして目を逸らすブラギ。一応軽く口止めはしておいたはずだが……小心者のブラギでは、お偉いさんに問い詰められたら嘘はつけなかったんだろう事は想像に難くない。リューは諦めてため息をついた。


ドロテア 「君たちには色々と訊きたいことがある。何せ、ブラギの報告だけでは信じられない話ばかりでね、申し訳ないが、しばらく付き合ってくれるか?」


リュー 「面倒だが、何が訊きたい?」


ドロテア 「ぶっちゃけて言おう、君たちには他国のスパイである嫌疑が掛かっている」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リューの実力に驚愕するドロテア


乞うご期待!



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