第72話 戯曲 王女様の薬草摘み
○冒険者ギルド
(
ハリス 「ここが冒険者ギルドか! ……汚いところだな。」
(ハリスの後から騎士登場)
騎士 「王子、このようなところに足を踏み入れず、外でお待ち下さい。我々が聞いてまいります」
ハリス 「いや良い良い、私が行こう。たまには下々の者と交流するのも一興というものだ」
(ハリス、受付に近づいていく)
受付嬢レイラ 「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
ハリス 「ここに、我が妹、ソフィ王女が来ておるはずだ。どこに居る?」
レイラ 「お、王子様?! も、申し訳有りません、ソフィ様達のパーティは、朝早くにクエストに出てしまいまして、ここには居りません。」
ハリス 「クエスト?」
レイラ 「クエストとは、冒険者ギルドに持ち込まれた依頼の事です。冒険者はあちらに張り出されいる依頼票から自分ができそうな依頼を選んで請け負うのです。」
ハリス 「ほうそうか、どれどれ……」
(依頼票の貼ってある掲示板に近づいていくハリス)
ハリス 「汚い字だな……ん? ダンジョン内の魔物の討伐?! そんな危険な事をソフィは受けたのか?!」
(依頼票を手に受付に詰め寄ってくるハリス)
レイラ 「い、いえ、ソフィ様は、今日は比較的安全な薬草採集の依頼に出かけられました。」
レイラ(ハリスに聴こえないように)「本当は依頼内容を部外者に話してはいけないんだけど、王子様だし、いいよね。いいとしよう。」
騎士 「王子、行き違ってしまいましたな。一度屋敷に戻ってソフィ様の帰宅を待つのがよろしいかと」
ハリス 「うむ、そうするしかないか。」
暗転・閉幕
――――――――――――――――――
幕開き
○森の中
(舞台中央、腕組みをしているマリー)
マリー(独白)「しかし……
あのリューの強さはなんなのだ? 未だに信じられん。平民の中にも腕が立つ奴が居るものなのだな。
あやつがあんなに強いと知っていたら、決闘など申し込まなかった。
なるべく早くソフィ様を王宮に戻せという王の命令だったので、トラブルを起こして居づらくするつもりだったのだが……調子に乗りすぎた、少々無理な運び方であったか。
私の言動で王女の名誉が傷つく事に思いが至らなかったのは、我ながら稚拙としか言えない。ソフィ様には申し訳ないことをしてしまった……
しかし、困ったことになった。貴族を辞めると約束してしまった。
リューは約束を反故にしてもいいと言ったが……。そうしても何も問題ないと。ただ、名誉の問題だけだ、と。
たかが平民一人に軽蔑されるだけの事。何も困る事などないだろうと。
だが……
貴族にとっては、その名誉こそが問題なのだ!
ましてや、自分だけでなく、王女に恥を掻かせるなど、私には、絶対にできない。
絶対に……
名誉を守るには、約束通り、貴族を辞めるしかないだろう。
だが、それは王女が許してくれない。
だが、貴族を辞めずに、名誉も失わずに済む方法もある。
何かしら、別の代償を用意しろと奴は言った。
しかし、代償は何でもいいが自分で考えろと言いおった。
だが、貴族を辞めるのに匹敵するような代償とはなんだ?
適当に安い代償を用意して終わりにしてしまえば、結局、王女の名誉が傷つくことになるだろう。それは絶対にできない。
金か? だがリューは金はいらないと言った。
ああ、一体、どうすればいいのだ?!」
ソフィ(声のみ)「マリー!」
(振り返るマリー、
ソフィ 「あまり一人で先に行くでない! 危険じゃぞ?」
ベティ 「しかし……(周囲を見ながら)ソフィ様、不思議ですねぇ。この森は全然魔物が出ないと思いませんか?」
ソフィ(舞台下手を振り返りながら)「リューよ、この森には魔物は出ないのか? 街の外には魔物がたくさん歩いておるから、護衛無しで一人で外に出てはいかんと言われておったのだが?」
リュー(下手から登場)「ああ、この辺にはほとんど出ないな。ダンジョンが安定しているからな。」
ソフィ 「ダンジョンが安定していると魔物は出ないのか?」
アリス 「魔物はダンジョンの中で生まれ、外に出てくる。」
リュー 「ああそうだ、ダンジョンを放置して中の魔物が増え過ぎると、新しい住処を求めて魔物がダンジョンの外に出てくるんだ。だが、ダンジョンの魔物を定期的に冒険者が減らしていれば、あまり外に出てくる事はない。まぁ、中が安定していても、気まぐれに外に出たがる魔物もたまにいるがな。」
ソフィ 「魔物にも変わり者がおるのじゃな?」
リュー 「ソフィと同じだな、王都を飛び出してこんなところまで来てる。」
(リューを睨むマリーとベティ。)
ソフィ 「確かにそうじゃな!」(ソフィ笑う)
リュー 「ミムルの街の東の『地竜巣窟』は、魔物が外に出てこないように処置してあるから、この周辺はすっかり魔物の被害はなくなったんだ。……だが、油断するなよ? 処置される前にダンジョンから出て、外で繁殖している魔物がいるかも知れないからな」
ソフィ 「せっかくじゃから、魔物に遭遇してみたいものじゃのう……」
リュー 「まぁ、ソフィ達の実力なら、低ランクの魔物なら問題ないだろうがな。」
(全員、上手に退場)
○森の奥(セット微修正)
リュー(上手から登場)「この先に、薬草がたくさん生えている場所がある。教わった通り、ちゃんと薬草を見分けられるか?」
(リューの後からソフィ・マリー・ベティ登場 )
ソフィ 「問題ない、ちゃんと覚えておるぞ」
(ソフィ、しゃがみ込んで立ち上がる)
ソフィ(採った薬草をリューに見せながら)「ほら、これが薬草じゃろう?」
リュー 「それは毒草だ……」
(慌てて毒草を捨て、手を払うソフィ。)
(リュー、突然ソフィの手を掴み引っ張る。よろけるソフィ。)
(ソフィが先程まで居た場所を矢が通過する)
マリー 「矢だと?! 暗殺者か?!」
(一同、木の陰に身を隠しながら、矢が飛んできた下手方向の様子を伺う)
(下手側から弓を持ったゴブリン登場。そろりそろりとリュー達のほうに近づいてくる。)
(マリー、ゴブリンの前に飛び出し剣を構える)
(ゴブリンは驚いた様子、走って逃げていく)
マリー 「待て!……くそ」(舞台袖まで追うが諦めて戻ってくる)
マリー;「弓を持っていたぞ? ゴブリンの癖に。」
リュー 「ゴブリンアーチャーだな。」
ベティ 「魔物は出ないのではなかったの?!」
リュー 「珍しいな……最近は狩りつくされて、ゴブリンなどもほとんど見なかったんだが。昔ダンジョンから出た奴がまだ生き残っていたのか……? いや、他から来た可能性もあるな。」
ソフィ 「どうするのじゃ? 追うか?」
リュー 「街の人に被害が出るかもしれないから、放置しておくわけにも行かないな。当然、一匹だけではないだろう、泳がせて仲間が居るかどうか探るか。ソフィ達にもちょうど良い相手だろう。」
(一同、ゴブリンの後を追って下手に退場)
― ― ― ― ― ― ― ―
○森の中
(上手からリュー・ソフィ・ベティ・マリー・アリス登場)
ソフィ 「逃げたゴブリンは見えなくなってしまったのう?」
ベティ 「こっちであってるの?」
リュー 「大丈夫だ、俺には見えている。」
(マリーとベティ、遠くを眺めるような仕草)
ベティ 「見えないわよ?」
マリー(独り言)「どんどん森の奥に向かっているな……まさか!」
マリー(リューに向かって大きな声)「ソフィ様をどこかに連れ込んで、いやらしい事をするつもりではなかろうな?!」
リュー 「んナワケアルカイ!」
(思わずマリーのほうを振り返るリュー。リューの顔を見てマリーは驚いた表情)
マリー 「目から光を出すほど怒らんでもよいであろうに……」
ソフィ(リューに近づき顔を覗き込む仕草)「ほう、それは魔眼か?」
リュー 「まぁそんなようなものだ、これで逃げたゴブリンは見えているから大丈夫だ」
ソフィ 「お主は色々便利な能力を持っているのだのう」
リュー 「魔力はゼロなんだけどな」
ベティ 「嘘言わないでよ、魔力ゼロでどうして魔眼が使えるのよ?」
リュー 「ええっと、魔力がないから、魔力がよく見える……という説明では納得しないか?」
ソフィ 「なるほど! それで相手の動きが読めるのじゃな? だから剣が当たらないわけか!」
リュー 「まぁ、そんな感じだ。」
ベティ 「そんな話、信じられるわけ…」
リュー(手を上げながら・小さいが鋭い声で)「居たぞ!」
(全員木の陰に身を隠し様子を伺う)
アリス 「ゴブリンが十数匹程度。通常のゴブリンの他に、ゴブリンアチャー数匹……群れのボスとしてホブゴブリン……」
リュー 「目がいいな。これは……他のダンジョンから移動してきたようだな」
ベティ 「何故分かるの?」
リュー 「ミムルのダンジョンにはホブゴブリンは居ないからさ。さて、やるか。ホブゴブリンは危ないから俺がやろう。残りは研修と言う事で、お前達に任せる。大丈夫か?」
(頷く一同)
リュー 「では、行くぞ!」
(一同剣を抜くが、リュー、照明特殊効果と共に退場)
ソフィ 「なな?! 消えたぞ?」
ベティ 「まさか、転移魔法? 伝説でしか聞いたことがない古代魔法よ……信じられない」
マリー 「とにかく、行こう!」
(一同退場)
○ゴブリンの集落
ホブゴブリンの背後にリュー登場(※特殊効果)
剣を振るリュー、ホブゴブリンの首が地面に落ち、ホブゴブリン倒れる
それを見て周囲に居たゴブリン達が騒ぎ出す
リュー、下手に退場、ゴブリン達がそれを追って退場
上手からソフィ達登場
下手から再びリュー登場、ソフィ達の居るほうに走っていく。その後ろからゴブリン達が追ってくる
リュー 「あとは任せた!」
リュー、ソフィ達とすれ違い、ソフィ達の後ろに回る
リューを追ってきたゴブリンと対峙するソフィ・マリー・ベティ・アリス
交戦開始、リューは舞台端で観戦
ソフィ達が剣を振るたび、ゴブリンは次々と倒れていく
リューと逆側の端、矢で攻撃しようとするゴブリンアーチャー
リュー 「気をつけろ、矢を射てくるぞ!」
マリーが魔法を放つ(特殊効果)
戦闘終了(ゴブリン全員倒れたまま)
ソフィ 「ほ! 雑魚じゃったの!」
ベティ 「ソフィ様、ゴブリンの血でソフィ様のお体が汚れてしまいました。」
ソフィ 「これくらいどうということはない。」
リュー 「魔物を討伐したら、討伐の証明部位を切り取ってギルドに提出すると金が貰える。まぁ、ゴブリンははした金にしかならないがな。」
ソフィ 「討伐証明部位は確か耳じゃったか?」
剣を抜き倒れているゴブリンに近づくソフィ
それをアリスが押し留め、端へと移動していく
入れ替わりにマリーとベティがゴブリン達に剣を当てていく
マリー 「ゴブリンの血ですっかり汚れてしまったな。」
ベティ 「変な臭いがしますわ!」
リュー 「ゴブリンは臭いからな。そのうち慣れる……事はないかな?」
ソフィ 「それよりリュー、先程、転移魔法を使ったように見えたが?」
リュー 「ああ、使ったな」
ベティ 「転移魔法は今は失われた幻の魔法よ!」
リュー 「そうなのか?」
ベティ 「そうなのかじゃないわ。転移魔法が使える魔法使いなんて、王が知ったら確保して閉じ込めて絶対に逃さないようにするわよ?」
リュー 「籠の鳥ってやつか? 勘弁してくれ、俺は王宮に仕える気はないぞ?」
ソフィ 「たしかに、父上が知ったら黙ってはおらんだろうなぁ……。」
リュー(ソフィを見ながら)「……黙っていろよ?」
ソフィ 「黙っていてやってもよいが、貸しじゃぞ?」
リュー 「前言撤回、借りなど作る気はない。喋りたければ好きにすればいいさ。俺は逃げさせてもらおう。ソフィとも二度と会うことはないな」
ソフィ 「お、怒るな、冗談じゃよ、誰にも言わん。(マリー達のほうを見ながら)お前達も言うでないぞ?」
小さく頭を下げるマリー・ベティ・アリス
リュー 「まぁ、薬草摘みのクエストもこれで無事終了、思わずゴブリン退治までしてしまったが、これで新人研修も終わりだ。お姫様の冒険者体験も終わり、王宮へ帰るのだろう?」
ソフィ 「何を言うておる、まだダンジョンにも行っておらんではないか。」
リュー 「魔物狩りなら今やったろう? 王様達も心配しているんじゃないか?」
ソフィ 「嫌じゃ、妾はまだ王都へは戻らんぞ。」
ソフィ、上手に退場。
一同、後を追う。
――――――――――――――――――
○どこかの部屋
(椅子に座っているハリスと立っている騎士)
騎士 「王子、どうやらソフィ様には、メイド達だけでなく冒険者も同行しているようです。」
ハリス 「何者だ?」
騎士 「なんでも、リュージーンというFランク冒険者だそうで。」
ハリス 「Fランク? かなり低いランクではないのか?」
騎士 「はい、冒険者のランクとしては最低、駆け出しの新人のランクとなります。」
ハリス 「なぜそんな奴がソフィと同行しているのだ?」
騎士 「おそらく、森の案内役かと。一応、護衛も兼ねているようですが、何せFランクですから、大した役には立たないでしょうな。」
ハリス 「気に入らんな、そんな奴をソフィにつけるなど。もっと腕の立つ者だっているであろうに。それ以前に、男を王女につけるとは何事か。」
騎士 「御意にございます。ギルドには苦情を入れておきましょう。」
ハリス 「任せる。」
ハリス 「しかし、ソフィと森を歩くなど、私だってなかなか機会がないというのに、気に入らんな、その男……」
騎士 「御意。」
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
王子がリューに絡む?!
乞うご期待!
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