第40話 冒険者ギルドの再出発

リューとしても、別にキャサリン個人には恨みがあるわけではない。

 

この街の冒険者ギルドには、正確にはそこに所属していた古株の冒険者達にはそれなりに恨みもあったのであるが、それもほとんど解決している。

 

ミムルの冒険者ギルドについては恨みもあったが、冒険者ギルド本部まで含む組織全体にまで恨みを抱いていたかというと、そこまで考えて始めた事ではなかったのだ。

 

もちろん、こんな状況を長年放置していた事については不満があるが。長い間に利権と汚職にまみれた冒険者ギルドならなくなってしまったほうがいいんじゃないかとも思う。

 

そこでリューは「冒険者ギルドに存在意義があるか?」という根本的な疑問から、キャサリンにぶつけてみることにした。

 

そもそも、冒険者ギルドの役割と存在意義は何なのか?

それについてキャサリンから一通り考えを聞いたリューであったが、その話には、納得できる部分とできない部分があった。

 

キャサリンは、街の防衛力としての冒険者の役割を強調していた。だが、そもそも、冒険者は街の衛兵ではない。冒険者は街や国に雇われている存在ではないのだ。、臨時で雇われる事はあるが、それはその都度金を貰っての自由契約である。常に冒険者に国や街を護る義務があるわけではないのだ。そこをリューは指摘した。

 

戦争になったらなどとキャサリンは言ったが、基本的には報酬が折り合わなければ戦争に参加しないのも冒険者の自由なのである。(国によっては冒険者に徴兵の義務を課しているところもないわけではないが、そういう国は自由な出国を禁じている独裁国家のようなところが多い。そうでなければ、冒険者は皆逃げ出してしまうだろう。)

 

冒険者は、あくまで個人の利益が目的で動いているだけの存在なのだ。損得勘定抜きで人々を護りたいから冒険者をしている、などという者はいないはずなのである。誇りを持ってそういう仕事がしたいと言う者は、警備兵になればよいのであるから。

 

キャサリンは、商業ギルドがこれまで冒険者ギルドでやっていた業務を肩代わりするようになると、冒険者は営利目的でしか動かなくなる、それが危険だと強調していたが、そもそも、冒険者は営利目的でしか動かないのは当たり前だとリューは言った。

 

冒険者がダンジョンで間引きを行う―――時には依頼を受けて街の治安維持に協力したりすることもある―――のは、あくまで金が儲かるから、金が貰えるからなのであって、慈善事業でやっているわけではないのだ。

 

つまり、元から冒険者という存在は、商業ギルドの考え方に近いものなのだ。

 

では、冒険者ギルドという仕組みは、なぜ生まれたのか?

 

もし、本気で冒険者ギルドを立て直したいと思うなら、そこを考えるべきじゃないか?とリューは言った。

 

冒険者ギルドの始まりは、引退した冒険者達が、現役の冒険者達を支援する組織を作った事であったと言われている。

 

その原点に立ち返るべき、とリューは言うのであった。

 

現状では、冒険者ギルドという組織は長く続き、いつの間にか、既得権益を得てそれを守ろうとする者ばかりが増えてしまった。収賄など汚職に手を染め私腹を肥やすような人間が多く蔓延っている。

 

冒険者たちを支援するのではなく、支配し、搾取するような組織になってしまっているのだ。

 

そんな組織であるなら、潰れてしまうのは時間の問題だろうとリューは言い放つ。元から、あくまで損得勘定の利益のみで動く商業ギルドのほうが、冒険者の気質には馴染むのだ、と。

 

冒険者ギルドに所属しても、利権構造で固められ搾取されるだけという現状では、どれだけ理想論を訴えたところで、離れていった冒険者達は戻っては来ないだろう。

 

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だが、リューとて冒険者ギルドの存在意義を全面否定するつもりはない。冒険者ギルドは絶対に潰すべき悪の組織と信じているわけではない。冒険者ギルドだって、必要だから生まれ、役に立っていた部分があったはずである。

 

そこに立ち返り、偉そうにするのではなく、あくまで誠実に、冒険者達を助け、支援する活動を続けていけば、いずれ、冒険者達も戻ってきてくれるだろう。

 

そのような活動をするというのであれば、協力する事は吝かではないとリューは言った。リューに冒険者ギルドに協力する義理などないが、言い出した手前、話の流れである。もともとリューがキッカケでこのような事態を引き起こしているわけなので、それで困っている人が出てしまうのは、ちょっと後ろめたい部分もあった。

 

キャサリンはよく考えてみると言ってその場は終わりとなったが、後日、リュージーンの言うことを全面的に受け入れ、冒険者達を誠実に支援する組織として活動していくことを約束したのであった。

 

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― ― ― ― ― ― ― ―

キャサリンは冒険者ギルドの再生に着手する事にした。

 

まずは、ギルド本部に現状報告と改善案を報告したのだが、その返答は「キャサリンをミムルの冒険者ギルドのマスターとして正式に任命する」というものであった。

 

これは、キャサリンの功績を評価しての人事ではない。逆である。ギルド中央本部での仕事をしていたキャサリンが、片田舎のギルド―――しかも、傾きかけているギルド―――のマスターに押し込められる左遷人事である。ギルド本部の反感を買ったと考えるべきであった。

 

当然である。

 

「利権にまみれた冒険者ギルドの構造を改革し、本来の冒険者ギルドのあるべき姿に立ち帰るべき。」

 

キャサリンのした提案は一見素晴らしいように思える。建前上、反対できる者は居ないだろう。だが、当然、“利権にまみれたギルド上層部の人間”にとっては「余計な事を言うな」という話になるだけである。

 

もちろん、そうなる事はキャサリンも覚悟の上であった。

 

適当に無難な報告をし、街にいる冒険者の誰かをマスターに任命し、本部に帰るという選択肢もキャサリンにはあったのだが、生真面目なキャサリンには、ここまで関わってしまったギルドを放置して無責任に帰る事はできなかった。

 

おそらく、現状のまま放置しておけば、遠からず、この街の冒険者ギルドは潰れるだろう。

 

本部からマスターとなれる人材を派遣してもらうよう要請しても、本部としても、人材は豊富に余っているわけではないのだ。

 

片田舎の街のギルドなど、左遷扱いの人間しか来ないだろうし、あるいは、代わりの人間が来ないまま、キャサリンが代理のままずっと放置という状態になるかも知れない。

 

結局そうなるなら、自分がやるしかない。そもそも、どんな主張も、実績を示さなければ説得力が生まれないのだ。

 

この潰れかけた片田舎の冒険者ギルドを、自分が再興する。困難な仕事ではあるが、少しやりがいを感じている部分もあるキャサリンなのであった。

  

 

   *  *  *  *

 

 

キャサリンが正式にギルドのマスターとなり、誠実なギルド運営に立ち返ると約束してくれた。

 

それを受け、リューはキャサリンに全面的に協力する事を約束した。貧乏くじを引かされたとキャサリン自身も思っているのをリューは神眼で読み取っていたが、それでも愚痴も弱音も一切吐かず、前を向いていたキャサリンが気に入ったのである。

 

貧乏くじの役職に押し込められたのは、リューにも一因があるわけで、とはいえ、ギルド本部の人事についてはリューに責任があるとも思えないのだが、なんとなく後ろめたい気持ちがあったのも事実であった。

 

リューはまず、素材の買取を、全面的に冒険者ギルドへ委託するように変更した。

 

また、持ち去ったダンジョンの核を戻し、ダンジョンを再び活動させたのであった。

 

ダンジョン復活の噂が流れれば、すぐに冒険者達が街に集まってくるだろう。

 

冒険者ギルドは、ダンジョン内のマップや注意事項などを冒険者に提供し、低ランク冒険者や初心者の指導に力を入れる方針となった。

 

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キャサリンは、リュージーンにその指導的な立場を引き受けてもらえないかと打診した。

 

だが、即答で断るリュー。

 

では、新人パーティのサポートをするような“依頼”があれば受けてもらえるか?と聞かれたので、それならば、たまになら構わないとリューは答えた。

 

ただ、それもあまり意味はない、むしろ自分が指導してほしいくらいだと言うリュー。

 

そもそも、冒険者としての経験は、リューも素人と同じなのである。冒険者になって三年、ひたすら薬草摘みしかやってこなかったリューである。

 

過去世と転生時の記憶が戻り能力が目覚めてからは、その圧倒的チート能力で狩りをしていただけなので、普通の冒険者に必要な注意事項やノウハウを知らないままなのである。

 

リューは、薬草摘みの指導だったらベテランだから引き受けられるかもしれないと言った。リューとしては冗談のつもりだったのだが、それは良いと、妙に乗り気になるキャサリンを見て、しまったと思うリューであった。。。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

キャサリンはリューの実力を測りたい

 

乞うご期待!

 

 

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