第392話 リリィの正体

ヴェラ・ミィ 「リリィ?!」


ヒショー 「言ったでしょう、作戦は二重三重に仕込んで置くものだって」(ニヤリ)


リュー 「ぐわあああああ!


り~り~い~~~


裏・切っ・た・の・かぁ~~~!」


やたらオーバーに “見栄” を切るリュー。


リュー 「ぐわああああ……


…なんてな」


リリィ 「リュー、演技、くっそ下手だね…」


リュー 「わざとオーバーにやってるんだよ! 歌舞伎風だ」


リリィ 「カブキ?」


リュー 「演劇の一種だよ! って言っても分からんか、まぁいいや……」


ヒショー 「なっ、どういう……?!」


よく見れば、リューの身体に刺さったように見えた短剣は、刃先が引っ込む玩具であった。


リュー 「リリィの秘密は事前に聞かされていたからな。せっかくだから知らないフリをしてたんだよ」


ヒショー 「だましたのか! ってかリリィ、何故命令を聞かない!? お前は命令を聞くだけの人形のはずでは……」


リリィ 「アタイは人形だけど人形じゃないからだよ!」




  * * * * *




時は少し遡る。ヒショーの命令を受けて動き出した暗部の人間は、宿に居るリリィに接触してきたのだ。


暗部 「コレを使え。タイミングは指示する」


渡されたのは短剣であった。合図があったらリューをその短剣で刺せという。


暗部 「気をつけろ、鞘に入れたままにしておけ。刃に猛毒が塗ってある、指で触れただけで死ぬぞ」


リリィ 「……」


暗部の人間は言うだけ言ってさっさと帰っていったが、暗部が姿を消したのを見届けたリリィは、そのままリューの泊まっている部屋を訪ねたのであった。そして、自らの正体と目的を明かし、リューに協力をお願いしたのである。


リリィは実は、奴隷ギルドが使う自動人形であったとカミングアウトしたのだ。


リュー 「……人間にしか見えないが?」


リリィ 「ほぼ完全に人間と変わらないからね。人形とは思えないでしょう?」


くるくるとリューの前で回ってみせるリリィ。


リュー 「…完全に人間にしか見えない。本当に人形なのか?」


外見だけ見れば完全に人間である。神眼で見れば判別できるだろうが、肉眼で見た限りは、まったく見分けがつかない。


リリィ 「正確に言うと、元人間って事になるのかなぁ? これは、アタイの家に伝わってた、超古代文明の遺物なのよ。複製人形コピードールって言うんだけどね。どういう仕組みなのか、今ではまったく分からないんだけどね。家宝として長らく保管されていたんだけど、命の危機になって、使わせてもらっちゃったんだ」


この人形は、複製した人間とそっくり同じ容姿・同じ能力を持って、人間と同じように自律して思考・行動できるようになるのだそうだ。


リュー 「ああ、昔、日本のマンガに出てきたアレか? 鼻を押すと元に戻ってしまう…」


リューは試しにリリィの鼻を押してみた。


リリィ 「ちょ、ボタンとかないから。


一度複製対象を決めてしまったら、そのまま固定になって元には戻せないんだよ」


リュー 「そうなのか」


リリィ 「多分、影武者作るのとかに利用してたんじゃないかしら? この人形、自律して動く事もできるんだけど、意識を乗り移らせて操る事もできてね。


結局私は殺されちゃったんだけど…、殺された時、意識を人形のほうに飛ばしたんだ。成功したのかどうかは分からないんだけどさ……


最初は、人形の意識だったと思うんだ。それが、徐々に、自我が目覚めてきたというか。ある日、乗り移らせたアタイの意識が完全に目覚めて、アタイだって自覚したんだ。


本当にアタイ本人なのかハッキリしないんだけどね。記憶も性格も全部受け継いだせいで、この人形の意識が自分が本人だと思いこんでるだけなのかも……?


まぁアタイはアタイだから、どっちでもいいかって」(笑)


リュー 「アバウトだな」


リリィ 「元からそういう性格だから(笑)


まぁそんなわけで、アタイは死んだ事になってるわけ、奴隷ギルドではね。そして、複製人形だけが残った事になってる。


貴重な複製人形を起動して使ってしまった事は大問題だったけど、アタイはもう死んでるから責任取らせようもないし、起動してしまったら戻せないからどうしようもないしね。


結局その後、残った人形は奴隷ギルドの所有って事になって、エージェントとして使役する事になったんだ。


だから、リリィの意識が完全に目覚めた後も、その状況を利用して、奴隷ギルドの複製人形として活動する事にしたわけ」


なるほど……以前、リリィの心が読めなかった事があったが、あれは人形だったからか。


リリィ 「もう完全にリリィの意識が目覚めてるから、命令されても使役モードにはならないんだけどね。一応、命令された時は従ってるフリをしてたんだ。


ただ、なるべく使われないように、闇属性の隷属の魔法を使って、気付かれないように “リリィ人形” を使うのはタブーって雰囲気を奴隷ギルドの中に蔓延させてたんだ」


リュー 「人形なのに魔法が使えるのか?」


リリィ 「そうなのよ、人形だった時は使えなかったけど、意識が目覚めたら使えるようになった。だから多分、本人だと思うんだけどねぇ……どうかしらね? 魂は本人で、新たに複製された肉体に乗り移ったのかも?


まぁ、そんなわけで、エージェントゼロ号、アタイの事ね、ゼロ号を使うのはタブーって雰囲気にしてあったはずなのに、それを使う指示が出たって事は、よほど追い詰められているって事だと思う」


リュー 「なるほどね。で、これが毒の塗られた短剣?」


ランスロット 「リューサマ、それは取り替えておきましょう」


リリィ 「…っ、いきなり出てきたわね、ランスロット。内緒話もできやしない」


ランスロット 「影に耳あり、闇に眼有り。リューサマのあるところ、ランスロット有りです」


見れば、ランスロットが持ってきた短剣は、リリィの短剣とそっくり同じデザインであった。


ランスロットは剣を鞘から抜き、刃の先端を指で押すと、刃は柄の中に引っ込んで行く。刃も、どう見ても鋼鉄のように見えたが、柔らかい素材でできているようで、曲げるとゴムのようにぐにゃりと曲がった。


ランスロット 「細工が得意な部下に作らせました」


リュー 「相変わらずなんでもありだな。じゃぁ、奴隷ギルドを逆に騙してやるか。だが、お前が人形じゃない事がバレたら困るんじゃないのか? なんで殺されたのか知らんが」


リリィ 「うーん、隠しておくのもそろそろ限界っぽいんだよねぇ…疑われてるらしいんだ。そこで、こうなったら全部正直に言って、リューに協力してもらおうと思ってさ。実は、アタイは―――」


   ・

   ・

   ・


リュー 「なるほどねぇ……道理で、奴隷ギルドについて詳しいわけだ」


リリィの秘密を聞いたリュー。神眼を使って心の中を覗いてみたが、嘘は言っていないようだった。(普段、身近な人間の、特に女性の心の中は覗かない事にしていたリューだったが、事が事だったので確認してみたのだ。)


以前神眼を使ったときは心が読みにくい感じがしたが、神眼の力をフル稼働すれば問題なかった。


そして、リューはリリィのお願いを聞き入れ、協力してやる事にしたのだった。奴隷ギルドとの関係が浅からぬリリィの問題を解決する事は、リューにとってもメリットがありそうだからである。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


次は、奴隷ギルドのマスター・キロイバを詰めます


乞うご期待!



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