第69話 メイド・王女と模擬戦
まずは、ソフィが木剣でリューに攻撃していく。
ソフィは、必ずとは言えないが強力な魔法が使える者が多く出る王族の血統である。当然のようにソフィも強力な魔法が使えた。ただし、ソフィが得意なのは治癒系の魔法や支援魔法であり、戦闘向きの魔法は得意ではないのだった。
しかし、代わりにソフィは剣の腕に少し自信があった。ソフィはもともと頭を使うより体を使うほうが好きなタイプで、王族として文武両面の英才教育を受けてはきたが、どちらかというと魔法や知能を使うよりも剣の練習をしている方が好きなタイプだったのだ。幼い頃からソフィの剣技はメキメキと上達、現在では近衛騎士と戦っても勝てるほどのレベルなのである。
だが、そのソフィの攻撃も、ことごとくリューに躱され、掠りもしないのであった。
幾度かソフィの攻撃が空振りしたところで、アリスの攻撃が加わってきた。
アリスは、マリー・ベティが認めるほどの腕前であるが、騎士や剣士というタイプではない。それもそのはず、実は 「
アリスの剣技は正統派の騎士や剣士とは違い、ソフィの攻撃の合間に、死角から隙を突くような形で攻撃してくるのであった。ソフィの攻撃を躱したリューが不意を突かれるようなタイミングと角度から攻撃が繰り出されるのである。なかなかやっかいであった。
だが、やはりこれもリューには通用しなかった。
マリー・ベティとの戦いにおいてはリューは
二人同時に攻撃される、しかも片方は死角へ回り込むような戦法を採ってくる。普通であればかなりやっかいな状況であるのだが、リューは読心・予知能力に加え、
だが、軽快に二人の攻撃を躱してみせるリューの足元から、突然氷の槍が突き出されてきた。アリスの魔法攻撃である。
アリスとソフィ、二人の攻撃が上から襲ってきたタイミングに合わせての下からの攻撃である。
剣しか使わないと見せかけておいての魔法攻撃はベティと同じ不意打ちの作戦である。その程度は稚拙な作戦と言わざるを得ないが、上からの二人がかりの攻撃に気を取られている隙をついての下からの攻撃は凶悪である。並の冒険者では躱す事はできないであろう。
だが、手の内を全て読んでいたリューはこれも躱してみせる。
実はリューは神眼を使って試合前に二人を鑑定していたのである。一対一であればそこまでしなかったが、二対一になったので、慎重を期したのである。
そのため、ソフィが攻撃魔法を使えない事、アリスが
アリスは暗殺者として殺気を発しないスキルも持っていた。
最初からアリス一人で戦っていれば、もしかしたら、リューは鑑定をせずに戦いに臨んでいたかもしれない。そうなれば、神眼をフル稼働させずに表面の殺気だけしか読んでいない状態のリューであれば、奇襲攻撃は成功していたかも知れない。
もちろん、心が読めなくとも予知能力で不意打ちを回避できた可能性はあるのだが、意識を他に向けさせての多方面同時攻撃という、巧妙・凶悪な奇襲攻撃は、かなり危険性が高かったのも事実である。
だが、二人同時相手になった事で、リューが最初から神眼をフル稼働させたため、巧妙な奇襲攻撃もすべて無駄に終わってしまったのであった。
アリス 「ソフィ様、下がっていて下さい!」
不意打ちに失敗したアリスは、より強力な魔法攻撃を放つため、ソフィを下がらせた。
ソフィが離れたところで即座に範囲を広げた魔法攻撃が繰り出されてくる。アリスは土系と水・氷系の魔法が得意のようである。
リューの金色に輝く瞳が、どうやらアリスがリューを360度全方位から同時にアイスランスで攻撃するつもりである事を見抜いていた。なかなか凶悪な攻撃である。そこでリューは少し意地の悪い躱し方を選択することにした。
素早く距離を詰め、後ろに下がったソフィに急接近したのである。
アリスがソフィに当たらないように下がらせた意図は分かっていた。ならば、ソフィに近づいてしまえば、全方位からの攻撃などという戦法は取れないと踏んだのでる。
リューの読みは当たり、仕方なく、アリスは全方位からの攻撃を中止した。代わりに、ソフィに当たらないよう気を使いながらの攻撃を放ち始める。
当然、余裕で躱すリュー。
だが、アリスはそう単純には攻略できない相手であった。
リューからの反撃がないという余裕もあるのだろうが、アリスの攻撃は巧妙に計算されていたのだ。
アリスの攻撃を交わし続ける内、いつのまにか気がつけば、リューは訓練場の真ん中に独りの状況に誘導されていたのだった。
心を読んでいればアリスの魂胆にリューも気づいただろうが、絶え間なく多方向から繰り返される攻撃を予知能力で読み躱す事に意識を割かれ、その意図を読むまで気が回らなくなっていたのである。
次の瞬間、全方位から―――水平方向だけではない上からも足元からも―――全天球方向から無数の氷の槍がリューに襲いかかってきた。
これでは逃げる隙間はどこにもない。
そのまま、大量の
砕けた無数の氷の矢が霧散したあとに、リューの姿はなかった。リューは数百の氷の槍に貫かれて細切れになってしまったのか?!
『アリス! やりすぎじゃ!!』
思わずソフィーが叫んだ。
リュー 「いやぁ、今のはちょっとだけ焦った。」
だが、気がつけば、アリスの背後にリューが立っていた。
リューの転移魔法を知っているキャサリンとレイナードには何が起きたか分かったが、他の人間達には何が起きたのか分からなかった。
まったく察知できずに背後を取られていた事に焦ったアリスは、咄嗟に、振り返りざまに大量の氷の槍をリューに向けて放った。背後に張り付いてきた敵を振り切ろうと必死だったのだろうが……
リューの背後にはソフィが居るのがアリスの目に入る。
このままリューが避ければ後ろにいるソフィに被害が及ぶだろう。慌ててアリスは攻撃を中止しようとしたが、遅かった。放たれてしまった鋭い氷の塊はもはや止まらない。
だが、無数の鋭い氷がソフィを襲うことはなかった。自分が避ければ背後に被害が及ぶ事に配慮したリューが、避けるのではなく、魔法障壁を展開したのだ。
次元障壁。異なる次元の空間を挟み込む事で、絶対不可侵の壁となる。次元を超える能力があるモノ以外は通り抜けることはできない。その壁に当たって、すべての氷の槍は砕けて粉となり消えていった。
障壁ではなく収納のほうが良かったなとリューはちょっとだけ後悔していたが。ただのバリアでは防いだだけで終わりだが、亜空間に取り込んでしまえば、後で取り出すことができる。先程ベティが放った炎の魔法は、リューが作った亜空間の中に収納されたままである。それをいつかどこかで取り出して使う事もできるのだ。魔法はなるべく 「収納」したいリューなのであった。
アリス 「ア……、ソ、ソフィ様、ご無事でしたか……」
ソフィが無事である事を見て、アリスは安堵した。そして、キャサリンから
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次回予告
マリーついに土下座
乞うご期待!
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