第359話 ダイジョブ、ヂャナイデス…

ロウフ 「やはりおかしいですよっ!」


ユーセイ 「何がおかしいというんだ? いや、確かにおかしいと言えば、おかしいんだけどな、色々と……規格外過ぎてな」


ロウフ 「この測定器は、触れた瞬間に自動的に測定されるはずですよね? それは間違いないですよねウテナさん?」


ウテナ 「え? ええ、そうだけど」


ロウフ 「コイツが水晶に触れても、測定されなかったんです」


ユーセイ 「さっきは測定されていたじゃないか?」


ロウフ 「いえ、触れた後、コイツが何かしたら急に反応しだしたんです。二度目はうまく誤魔化したんでしょう。


私の目はごまかせないぞ? やはり何かトリックを使ったんだろう!」


リュー 「やれやれ、何かズルをしたっていうのなら、どうやったのか、ちゃんと証明してみせろ。それができないなら、測定結果を受け入れるしかないんじゃないのか? まぁ、ブレーカー落ちてしまって測定できてないんだけどな」


ウテナ 「…確かに、言われてみれば、触れてから測定が始まるまで、少しだけだけど、不自然な間があったような気がしたわ。それについて説明してもらえるかしら?」


リュー 「やれやれ……別に何もおかしくはないさ。俺は以前、魔力ゼロって言われれたくらいだからな。大昔の記録を探せば残ってるんじゃないか? 俺は冒険者になりたての頃、魔力が測定できないほど少なかったんだ。そして、それは今でも実は変わっていない」


そう言うと、リューは再び測定器のほうに歩み寄り、水晶に触れた。


だが、今度は水晶は光を発する事はなかった。


ウテナ 「どういう事? ……待って、測定結果が出てる?!」


測定器に駆け寄り読み取った数値は「3」。


ウテナ 「魔力値3……?!」


リュー 「相変わらず、この国の測定器は性能がいいんだなぁ、俺の居た国では数値が小さすぎて測定できなかったらしいんだよ。おかげでゼロって結果になったんだ」


ウテナ 「説明してくれる? ロウフの言う通り、何かインチキをしたって事? だとしたら重罪よ?」


ランスロット 「インチキとか、さっきから失礼ですね。身体で分からせないと分からないのでしょうか?」


リュー 「いいから。


俺は、特異体質でな。体内には魔力がない状態だが、必要に応じて、必要な分だけ魔力を生成できるんだよ」


そう言うと一瞬だけ水晶に魔力を流すリュー。水晶玉が強く光り、だが流した魔力が一瞬だったのですぐに消えた。


リュー 「以前は魔法は生活魔法が最低レベルで使えるだけだったんだが、この能力を使いこなせるようになったので、魔法が使えるようになったんだ」


ユーセイ 「魔力を必要なだけ生成する……? そんな能力、聞いた事あるか?」


ウテナ 「ないわ……ちょっとまだ半信半疑というところなんだけど、他に、それを確かめる方法はないかしら……?」


ランスロット 「やはり、躰で分かってもらったほうが早いのでは? ああ、いやいや、警戒しないでいいですよ、単に魔力を直接してみれば、彼らも感じ取れるんじゃないかという提案です」


リュー 「魔力を直接?」


ランスロット 「はい、何かしらの属性魔法に変換するのではなく、純粋な魔力を放つのです。先程水晶に魔力を注いだのと同じで、空中にそれを放つ、リューサマならできると思いますが」


リュー 「なるほど、やってみるか……」


そう言うと、リューは魔力を空気中に向けて放出し始めた。


膨大な魔力が一気に室内に広がる。測定器が反応し、再び強い光を放ち、そしてすぐにダウンした。しかし魔力は収まらず、どんどん膨れ上がっていく。


実は、この測定室は、精密な測定を行うために魔力を通さないように特殊な壁が使用されたいた。それがアダとなり、リューの発した魔力がどんどん室内に充満して濃度を増して行ったのだ。


その圧倒的な魔力は、ついに物理的圧力さえも生じてユーセイ・ウテナ・ロウフ・リンダの四人を壁まで押しやってしまう。(ランスロット達は平気で受け流していた。)


ふと見ると、リンダが失禁しながら意識を失ってしまっている。リューが慌てて魔力の放出をやめた。


実は測定室の壁は、あと一歩で崩壊するところまできていたのだが、魔力放出が止まってすべての魔力がオリジンに帰されたため、部屋は崩壊を免れたのであった。


圧力が抜け、その場に座り込むように崩れ落ちるリンダ。股間を濡らしてしまっているリンダにそっとリューは【クリーン】をかけてやった。


さすがにユーセイとウテナ、ロウフは意識を保っていたが、ロウフはガタガタ震えている。ユーセイとウテナも酷く顔色が悪い。


ランスロット 「これで分かったでしょう、文字通り肌で感じて頂けたのではないかと思いますが? いかがですか? まだ疑問がお有りですかな?」


ユーセイ 「……いや、ない……」


ウテナも黙ってコクコクと頷いた。


リュー 「…顔色が悪いが大丈夫か? 純粋な魔力って、それ自体には害はないんだろう?」


ランスロット 「ええ、害はないですが。魔力を感じ取る能力が敏感な者にとっては、あれだけの魔力の圧力を感じたら、恐怖を覚えるかも知れませんね」


ユーセイ 「俺は鈍いほうだが、それでも十分恐怖を感じたよ……


……ウテナは大丈夫か?」


ウテナ 「ダイジョブ、ヂャナイデス……」


えっという顔でリューがウテナを見るが、ビクッと震えて目を合わせてくれないウテナ。


ウテナ 「ヒッ! スミマセンデシタ、ウタガッテ…」


よく見るとウテナは涙を流していた。


ランスロット 「分かってくれれば良いのですよ」


リュー 「それで……俺たちは昇格試験を受けに来たんだが……?」


ユーセイ 「ああ、それなんだが、Sランク認定というのは、正式に決まった手続きがあるわけではなくてな。そもそも認定できる試験官が居ないんだよ。Sランク認定するなら、それ以上のランクの試験官を連れてこなければならないしな」


ウテナ 「Sランク認定デ、良イト思イマス」


ユーセイ 「?」


ウテナ 「魔力量ダケデ、十分、Sランク認定で良いと思います……


…もともとこの国は魔力偏重主義ですから。


あれだけの魔力があるなら、国家戦力級なのは間違いないでしょう。これほどなら魔導師ランクでもトップレベルではないかと。あの、宮廷魔道士長のドロテア様だって、この測定器をダウンさせる事はできなかったのですよ?」


リュー 「ああ、魔導師ランクって、この国独自の魔法使いのランクだっけ? ドロテアになんか貰ったな、そういえば」


ユーセイ 「それは! 魔導師ランクの認定証、しかもランクは…S?! 認定者は……宮廷魔道士長ドロテア…様……」


ウテナ 「ソレヲ先ニ見セテクレレバ……」


ユーセイ 「そ、そうか……では、そのように中央に報告しよう。結果は中央の判断を待つことになるので、リュージーン、済まないがしばらく待ってもらえるか?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


侯爵からの招待状


乞うご期待!


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