第192話 不死王は色々教えてくれた

不死王の研究室。

 

リュージーンと不死王の会話はいつまでも尽きなかった。主に不死王が色々な事をリューに話して聞かせていたのであったが、不死王も、リューの過去世の記憶―――リューが生きていた異世界(日本)の話などを聞きたがったりもした。

 

最初は恐怖心・警戒心もあったリューであったが、話を聞く内に次第に引き込まれ、気がつけば結構長く話し込んでしまっていた。

 

不死王にとっても久々の話し相手であり、また長く続けた研究の成果を人に話す機会もほとんどなかったので、話が止まらないのであろう。

 

リューにとっては、いくつも貴重なアドバイスも貰うことができた。例えばひとつは魔法について。リューの能力ちからは、分解に使うのは容易であるが、そこから何かを新たに生み出す事は難しい。

 

魔法というのは、魔力を使って非常に難解・高度な術式(回路)を組み立てて初めて発動する。電化製品と同じである、組み上げられた回路を破壊するのは容易だが、それを一から組み上げるには、相当に専門的な知識が必要になるのだ。

 

専門的な知識のある不死王ならば一から魔方の術式を組み上げる事も可能であろうが、リューにはその知識がないのでできないと言う事である。

 

だが、時空魔法は既に使えている。これは、既に完成済みの回路プログラムが既にリューの中にあり、リューはそのトリガーを引くだけだからである。電化製品の中の回路を理解していなくとも、スイッチを入れればその製品を使う事ができるのと同じ事である。

 

この世界の多くの者が使う魔法も同様である。先人たちが既に完成させたプログラムを継承し、起動させているに過ぎない。何も、無から新たな魔法術式を組み上げる必要などないのである。

 

ただし、不死王ならば一から新たな魔法術式を組み上げる事も可能だそうだ。それも、戦闘中に新たな魔法を瞬時に作り上げて使用する事ができるレベルであるらしい。つくづく、敵に回したら恐ろしい相手である。

 

リューは全世界を敵に回しても勝てる力を持っているはずなのだが、不死王はその想定からは除外しておいたほうが良さそうである。

 

魔力をある程度以上持っている者なら、既存の魔法術式を学べば(継承すれば)、誰でも魔法はある程度使えるはずである。

 

(持っている魔力の性質に応じて、魔法の属性に得意・不得意は出るが。)

 

リューがそういう一般的な魔法を使えなかったのは、魔力がゼロであったからである。魔力を保持している事が前提の魔法術式では、発動しないのである。

 

だが、リューは時空魔法が使えている。それは必要なだけの魔力をその都度生み出し供給しているからである。そのメカニズムを薄々だが理解し始めたリューは、ライター程度の火種を出したり水を出したりするような、一般的な生活魔法であれば使えるようになっていた。

 

それを発展させ、時空魔法を使っているのと同じように魔力を供給してやれば、火球などの攻撃魔法も使えるようになるはず。むしろ、常に周囲に存在している“オリジン”から魔力をいくらでも生成できるリューならば、魔力切れを一切気にする事なく魔法が使えるようになるはずだと不死王は教えてくれたのである。

 

不死王と別れた後、リューはもう一度ダンジョンの中に入り、魔法の練習をしてみた。

 

コツさえ理解わかればそれはそれほど難しい事ではなかった。ライターの火程度の炎に、時空魔法を使っているときと同じ“感覚”で魔力を供給してみたところ、とんでもないサイズの炎が生成され、壁を激しく焼いた。ごく初歩的な火球ファイアボールを使ってみようとしたリューであったが、供給された魔力の量が多すぎて、巨大な炎を吹き出す火炎放射器になってしまったのだった。

 

不死王が最初の練習はダンジョンの中でやれと言った理由が分かった。これは、制御できるようキチンと練習しないと危険であろう。ダンジョンの壁は非常に頑丈なので問題ないが、制御の効かないリューの魔法では、山火事を引き起こしていただろう。

 

試しにリューはウィンドカッターを放ってみた。これまでは焚き火を起こす時に燃えている薪の根本に風を送り込む程度しか風魔法は使えなかったリューであったが、魔力を供給する事を覚えた結果、ただの初級のウィンドカッターのつもりが竜巻を引き起こしてしまい、危うくリュー自身が巻き込まれるところであった。

 

練習が必要であろう。制御できるようになるまで迂闊に使わないほうが良さそうであった。

 

 

 

 

不死王はもう一つ、リューが持っていた剣を改造してくれた。先日宝箱から出てきた実体を持たないレイスなどの魔物を斬る事ができる剣である。

 

改造は、リューの魔力分解能力を不死王がある程度解析した成果だそうだ。まだ完全に解明できたわけではないが、以前から不死王はリューの能力の解析を試みていたのである。

 

もともとこの剣には同系統の(魔力を断ち切る)魔法陣が刻まれていた。そのため実体を持たない幽体の魔物も斬る事ができたのである。だが、その魔法陣は不完全であった。それを不死王が補完したのである。その結果、その剣は、「魔法を断ち切る剣」として生まれ変わったのだった。

 

この剣を使えば、誰でも魔法を断ち切ってしまう事が可能になる。リュー自身は魔力分解能力を身に着けてしまったので必要ないが、これは使い方によっては面白い剣となりそうである。

 

 

 

 

不死王との対話をリューも楽しんでいたが、いつまでも話を続けているわけにも行かない。

 

不死王には永遠の時間があるので、下手をするとそのまま何年でも話につきあわされてしまいそうですらある。

 

頃合いを見て、リューは一度外界に帰ると言った。不死王もそれを快諾してくれた。リューは少しホッとした。不死王がその気になれば、リューの転移魔法を封じ、リューを研究室から出さない事も可能なはずだからである。

 

だが不死王は、帰るリューにいくつか約束をさせた。それは、また時間のある時に、時々話をしに来る事。それとリューの観察を続けさせてもらう事。必要になった時に、リューに研究に協力してもらう事の三つである。もちろんその程度の事であればリューに異論はなく、それを了承した。

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

不死王のくれたお土産

新しい旅の相棒

 

乞うご期待!

 

 

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