第591話 偉そうな貴族の使い

実は、なんだか厄介そうな客らしかったので、ヴェラはアネットにリューを呼んでくるようにと指示したのだ。


アネットは言われた通りリューを呼びに行ったのだが、エライザがちょうど食事の時間でリューは忙しそうであったため、ランスロットが代役を申し出たのであった。


ランスロット 「リューサマ、代わりに私が参りましょう」


リュー 「ん? そうか? 悪いな、任せる…」


ランスロット 「場合によっては荒事になっても?」


リュー 「構わんよ、無礼な貴族なら骸骨にしてしまえ」


ランスロット 「御意」


というやり取りがあったのだが、果たして使いの運命は…?




  * * * * *




領主の使いはアネットの後ろから現れた、怪しげな人物を訝しげに見た。


使い 「…なんだお前は? 治療師ではないのか? ふざけた仮面を被りおって…」


(使いもまさか、仮面をとったらその下からまた骸骨が出てくるなどとは想像がついていない。)


ランスロット 「私は…」


だが、ランスロットは言い淀んでアネットに向かって首を傾げた。


ランスロット 「…なんでしょうね?」


問われたアネットも首を傾げる。


アネット 「…ランスロットはランスロット?」


ランスロット 「はっはっは。


まぁ、私は、執事兼護衛のようなものだと思って頂ければ」


使い 「執事だと? その治療師はもしかして貴族なのか?」


ランスロット 「さぁ? そういえば、ご出身の国ではどうであったか聞いておりませんね。まぁ人間の世界で言う貴族とは違うと思いますが」


使い 「何、その治療師は異国から来たのか? それに人間の世界ではとは、まさか、人間族ではない?」


ランスロット 「さあ?


…まぁ、目に見えるモノに騙されて本質を見失うというのはよくある事ですので、ご用心……」


使い 「…それで、その、治療師はまだ来ないのか? 領主の使いを待たせるなど、無礼だとは思わないか?」


ランスロット 「まだ治療を待っている患者さんが何人かおられるようなので。もう少し掛かると思いますよ。順番を守りましょう? 飛び込みのお客さんは、大人しく待つものです。さぁ、お茶どうぞ?」


ランスロットが使いにお茶を差し出す。言い方と所作は穏やかであったが、有無を言わさぬ迫力があった。その強烈な威圧感に使いは何も言えなくなり、冷や汗をかきながら黙って茶を受け取るしかないのであった。


そんなやりとりを後目に、アネットは治療院の手伝いに戻っていってしまう。


二人だけになってしまい、気まずい沈黙が流れたが、ふいにランスロットが言葉を発した。


ランスロット 「ところで、アレスコード子爵、いや、今は辺境伯になられたのでしたな、御領主サマはお元気ですか?」


使い 「……あ、ああ、もちろん、元気だ」


ランスロット 「どこか具合が悪いから治療師を尋ねて来られたのでは?」


使い 「ああそれは、御領主様の……いや、用件は治療師が来たら話す」


ランスロット 「ほう、私ごときには話せないと…?」


使い 「いや、その……」


ランスロット 「まぁ良いでしょう」


使い (なんなんだコイツは……失礼だと叱りつけてやりたいところだが、不気味な威圧感があって何も言えなくなってしまう……くそ、膝の震えが止まらんのはなぜだ……)








小一時間して、ようやく治療が一段落したヴェラがやってきた。


使い 「お前が治療師か?」


ヴェラ 「そうですが、あなたは?」


使い 「私はこの地を治めているアレスコード辺境伯の使いだ。辺境伯様のご用命だ、今すぐアレスコードへ来るが良い」


ヴェラ 「こちらの予定も考えず、問答無用で呼び出し?」


使い 「領主様に呼び出されたのだ、平民は何をおいても駆けつけるのは当然であろう?」


ランスロット 「やれやれ。いかにも貴族らしい横柄な言い分ですが……


…アレスコード辺境伯はそんな理不尽な事をおっしゃる方ではなかったはずですが?」


ランスロットに言われると何も言えなくなってしまう使いの者。


ヴェラ 「どなたか、急病の方でもいらっしゃるのですか?」


使い 「うむ…実はな、領主様の奥方様が少々病気を患っておいででな、腕の良い治療師を領主様はずっと探しておられたのだ」


ヴェラ 「そうですか、動けないほどお悪いのですか?」


使い 「普段は大丈夫なのだが、たまに発作が起きると激しい痛みで動けなくなる事がある。領主様が治療師を集めて治療したり、高い治療薬を使ったりしているが、一時的に良くはなるのだが、どうも完治はしないのだ。そこで、腕が良いという評判のお前に診てもらいたいとの仰せだ。まぁ私はどこの馬の骨とも分からん治療師に頼るのには反対したのだがな…」


ヴェラ 「その話だけではなんとも言えませんが……他の治療師の方も居るようですし、緊急性がないのであれば、こちらもまだ治療を待っている患者さんが居るので、何日か待って頂きたいのですが…」


ランスロット 「アレスコード様の奥様にトナリ村ここまで来て頂いてはどうでしょう、なんでしたら私が迎えに行きますが?」


ヴェラ 「そうね、それなら~」


使い 「何を言っておるか! 病気の奥方様に旅をさせる気か! ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと支度をしろ、すぐに出るぞ! アレスコード様は辺境伯であるぞ? その命令に逆らうのか? 貴族に逆らえばどうなるか……」


ランスロットとヴェラは亜空間を通って移動する事を念頭に置いて話していたのだが、それを知らない使いが激昂する。だが、その横柄な言い方にランスロットが少し怒気を孕んで向き直った。


ランスロット 「逆らえばどうするというのです? この私が居る限り、ここで無体を働くことなど許しはしませんよ?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


セルジュ 「骸骨の仮面を被ったふざけた野郎でして…」


領主 「分かった、私が行こう」


乞うご期待!


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