第17話 冒険者になったリュージーン

受付嬢レイラ「こ、これは……!?」


リュー「?」


一人で生きていくために、冒険者になる事にしたリュージーンは冒険者ギルドにやって来た。受付で、言われるままに登録用の申込書を書いて提出したのだが、受付嬢が少し困ったような顔をしていた。


レイラ「得意な技能はないんですか? 剣術とか、弓術とか……スキル、職能クラス加護ブレスの欄もあるならちゃんと書いて下さい?」


冒険者の登録書類には、名前、年齢、連絡先のほかに、得意な技能や、スキル・クラス・ブレスなどの能力について書く欄があるが、名前と住所以外すべて空欄だったのを見て、レイラは訝しい目をリュージーンに向けていたのである。


リュー「いや、ありません」


レイラ「何も・・・? それだと、冒険者になるのは難しいんじゃないかと思いますが……?」


リュー「でも、冒険者には、希望した者は誰でもなれるんですよね?」


レイラ「まあそうですが……危険な職業ですよ? 見たところ、身体も小さいし……ああ、魔力が強いとか?!」


リュー「いや、魔力もないです、魔法の才能も全然で……」


レイラ「測ってみましょう! 謙遜しまくってて実はすごい実力を隠し持ってる超大型新人だったなんて話もよく聞きますからね!」


受付嬢レイラは部屋の奥から大きな水晶玉を持ってきた。


レイラ「これに手を乗せて下さい」


言われたとおりにするリュー。だが、水晶玉には何も反応がない。


レイラ「……? 壊れているのかしら?」


レイラは自分で手を乗せてみると、僅かに紫色の光を発した。


もう一度手を乗せるように言われて乗せたリューだったが、やはり、何も起きない。


レイラ「これは……どういうこと?」


ダニエル「それは、魔力がまったくない、ゼロってことだよ」


奥から白髪交じりの男が出てきて言った。


レイラ「そんな事、あるんですか? 私ですら少ないながらも反応があるのに?」


ダニエル「珍しいが、まったく居ないわけじゃない。たまに居るんだよ、魔力がまったくない、ゼロって言う人間が」


レイラ「でも、魔力がないと、魔法が使えないどころか、魔導具も使えないじゃないですか?」


ダニエル「まぁ、魔導具はたいてい、魔力が弱い人間でも使えるように魔石がついているから、全く使えないって事はないが……本人の魔力を流して使用するような魔導具は使えないだろうな。。」


ダニエルはレイラの持っていた申込書を奪い取って見ると、リューのほうに向き直った。


ダニエル「力は……その体だ、強くはなさそうだな。魔力はまったくない……何か特技はないのか? 剣が得意とか、弓が得意とか……?」


リュー「多少剣や弓の練習はした事がありますが……」


ダニエル「試してみよう。着いてこい」


リューの言葉をすべて訊かず、行ってしまうダニエル。リューは慌ててついていくと、ギルドの裏手にある訓練場であった。


ダニエルはこのギルドのマスター(通称ギルマス)であるという。


ダニエル「本当は冒険者登録に試験はないんだが、こうないないづくしではな……」


ダニエルは、引退したとはいえ元Bランク冒険者だとの事で、大丈夫だから好きに打ちかかってこいとリューに言った。


木剣を振り上げ、打ちかかっていくリュー……だが、剣はかすりもしない。最後にはダニエルに剣を打たれ、落としてしまった。


ダニエル「これじゃぁ、冒険者などやめたほうがいい。帰りな」


リュー「でも、冒険者登録は、希望をすれば誰でもなれる事になっているはずでは……?」


ダニエル「建前はそうだが……冒険者というのは危険は仕事だ。力のない奴は死ぬだけだ。オマエのようなガキが死ぬのを見逃すこともできんのだよ」


リュー「お願いします!ここで冒険者になれないなら、どちらにしても、野たれ死ぬだけです……」


リューは、襟をひらいで首を見せた。そこには輪が嵌められていた傷跡があった。奴隷の首輪の痕跡である。


ダニエル「奴隷だったのか? 今は首輪をしていないということは、解放されたのか……?」


リューは頷いた。


ダニエルはそれ以上、何も聞かなかった。


リューが冒険者になろうと思ったのは、奴隷出身であるという事、年齢が若いと言う事で、どこで雇ってもらうにしてもまともな対応をしてもらえなかったためであったのだ。商人の下働きとして奴隷以下の生活をするか、あとは、冒険者にでもなるしかなかったのである。


リューの境遇を察したのか、リューの覚悟を認めたのか、冒険者登録を認めてくれたのだった。


こうして、リューの冒険者としての生活は始まった。


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― ― ― ― ― ― ― ―


レイラ:「良かったんですか? 鑑定結果もレベルは“1”でしたよ? 1 なんて人、ここに来て初めて見ましたよ……」


『鑑定』は相手のステータスを見ることができる魔法である。リュージーンに何か冒険者として役立つ能力がないか、念の為、専門の職員を呼んで鑑定してみたのである。


鑑定では、相手の持っているスキルやクラス以外に、だいたいの強さも数値によって表される。


普通は、日常生活を送るだけでも多少は成長とともにレベルは上昇するのである。レベルは優れた冒険者であれば2桁は当たり前である。一般人であれば一桁台という例は少なくはないが、さすがに1というのは赤ん坊でもない限り見る事はない。


ダニエル「ふん、仕方あるまい? 冒険者には、誰でも登録できるんだからな。まだ若い、成長したら化けるってこともないとは言い切れん」


レイラ「そうですね……」


『それにまぁ、無能な冒険者にも使い途はあるしな……』


ダニエルは小さな声で呟いたが、レイラには聞こえなかった。。。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュー、元同級生とパーティを組む


乞うご期待!



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