第526話 息子の狩りの練習だが何か?
リュー 「地下牢なんかに……」
不機嫌なリューのオーラに受付嬢もちょっとビビる。普段、それほど感情を顕にはしないリューだが、動物を、特に犬猫を虐待する奴は許せないのだ。
不穏な空気を察知したキャサリンがギルマス執務室から出てきた。
キャサリン 「どうしたの一体?」
リュー 「子犬を集めるクエストがあるって?」
キャサリン 「え、ええ……そうみたいね……ってなんか怒ってる?」
リュー 「子犬達を地下牢に閉じ込めてるんだって?」
キャサリン 「いえ、それは、閉じ込めているというか、他に適当な場所がなかったものだから……」
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キャサリン 「どうしてこうなった…」
ギルマスの執務室の中を走りまわる子犬達。
結局、リューの剣幕に押され……子犬たちは全部、冷たく湿って窓もない地下牢から、ギルマスの部屋に移されることになったのであった。
キャサリン 「あ、こら、そこにオシッコしちゃ駄目ぇ~!」
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翌日、依頼した貴族が子犬達を引き取りに来るとの事だったので、そこに立ち会う事にしたリュー。だが、来たのは貴族の家の使用人であった。
リュー 「そりゃ貴族本人がわざわざ来る事はないか」
エリザベータ 「でも、わざわざ執事が来ているんだから、意外と重要なミッションという事よね」
執事は大きめの馬車でやってきていた。鉄格子の荷馬車などではなく、四面を木の壁で覆った馬車である。ただ、内部には座席はないので人間用ではないようだが。何のための馬車なのか不明だが、犬用の餌や水なども置いてあり、絨毯が敷き詰められ、居心地は悪くなさそうであった。
執事に話を聞いてみたのだが、選ばれなかった子犬もちゃんと領民に飼い主を見つける予定だと言っていた。酷い事はしないと言う執事の言葉に責任感を感じたリューとエリザベータは、これなら任せても大丈夫だろうと、馬車を見送った。
ただ、リューは受付で助けた子犬の事が忘れられなかった。子犬を抱いていたエリザベータも同様だったようで、結局二人は、子犬達が引き取られた貴族の屋敷へ、もう一度様子を見に行く事にしたのだ。
貴族は子供に子犬を選ばせると言っていた。選ばれなかった子犬は領民から飼い主を探すとも。ならば、あの子が選ばれなかったら、自分達に貰えるかも知れない。
依頼した貴族は、ミムルの街ではなく、隣町の領主であった。
隣の街はトロメである。トロメといえば……リューとソフィが殺したギット子爵が治めていた街である。
ギット子爵の事件の後、一時的にミムルの領主の管轄になっていたが、今は新たな男爵の領地として引き渡されたらしい。
ミムルからトロメまでは馬車で2時間の距離である。歩いてももちろんいける距離だが……二人は街を徒歩で出て、人目がつかないとこまで行くと、
ドラゴンスケイルの背中部分に翼が広がる。そして、二人は空へと舞い上がった。
トロメまでの道はリューがよく知っていたので迷うこともない。空から道を辿り、あっというまに街が見えてくる。再び人目がない場所に舞い降りた二人は、歩いて街へと向かったのであった。
街にはトラブルもなくすんなり入る事ができた。
現在この街を治めているのはザイラー男爵という人物。子犬を集める依頼を出していたのもこの男爵である。
男爵の屋敷は以前、ギット子爵が使っていた屋敷であった。地下で猟奇的な行為が行われていたあの屋敷である。内装の改修くらいはしただろうが、建物はそのまま使っているらしい。
リューは男爵の屋敷の門番に話しかけた。
いきなり行っても中には入れてはもらえないのは予想していたが、選定で漏れた子犬が欲しいという話を門番にすると、門番は顔を綻ばせて選定が終わるまで門の外で待っていて良いと言った。聞くと、門番は自分も犬を貰うつもりだとの事で、その時に一緒に聞いてくれると言う。その男もかなりの犬好きのようであった。
『キャインキャイン!』
だが、その時、屋敷の中から子犬達の悲鳴が聞こえた。
悲鳴はその後も断続的に続く。
門番が見てくると言って慌てて中に入っていったが、悲鳴は続くので待ってもおられず、リューは竜翼を開き、空へと舞い上がった。
上空から見えた庭では、許し難い光景が広がっていた。数人の騎士たちが、庭を逃げ惑う子犬達を弓で射ていたのである。
庭の奥、一段上がった場所には、それを面白がって見ている小太りの男と子供が居た。おそらく男爵とその息子だろう。
見れば、その子供の手は血で汚れており、足元には子犬の死体があった。
『男爵様! おやめ下さい! 一体何を…』
先程の門番が庭に入り込んで叫んだ。
男爵 「なんだお前は! 門番ごときが主人に意見するのか」
門番 「申し訳ありません、しかし、これはあまりに無体な…何故このような酷い事を?」
男爵 「何って、息子が面白がったからだが? 酷い? 狩りに行けばいくらでも動物や魔物を殺すだろう? その練習も兼ねているのだよ。と言っても息子はまだ武器を持てんのでな、まずは血に慣れる事からだがな」
門番 「子犬達が可哀想です、どうかおやめ下さい」
男爵 「たかが犬っころ、何も問題ないわ」
既に子犬はほぼ全滅……いや、一匹残っていた。それは、リューが助けたあの子犬であった。運の強い子である。
男爵 「まだ残っておるぞ、やれ!」
男爵の周囲に立っていた騎士数人が弓を引き絞った。
門番 「おい、やめろ…!」
門番が思わず子犬を抱きかかえて庇う。弓を構えた騎士達が一瞬躊躇するが…
男爵 「構わん、やれ!」
思わず背を向け身を硬くした門番。
矢が放たれた音がする。
だが、門番と子犬に矢が刺さる事はなかった。
突風が吹き、炸裂音がして地面が裂ける。
騎士達が放った矢はすべて弾き飛ばされていた。空中に居たリューが
ゆっくりと庭に降りてきたリューは、怒りに燃えていた。
リューは、人間を虐待する奴ももちろん好きではないが、それ以上に犬猫を虐待する奴を非常に憎んでいたのだ。
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次回予告
クズ貴族
処分に躊躇はない
後悔もない
乞うご期待!
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