第525話 乱暴に扱うんじゃない

キャサリン 「そんな、もう行ってしまうの? わざわざ自分から挨拶に来てくれたし、てっきり、またこの街を拠点にしてくれるのかと」


リュー 「いや、街の近況を知りたかっただけだ。別の街に家を買ったしな」


キャサリン 「え? 場所はどこ?」


リュー 「魔法王国ガレリアの片田舎にあるトナリ村というところだ。その先はもう魔の山と魔の森しかないド田舎だ。その分、優秀な冒険者には稼げる場所ではあるけどな」


キャサリン 「そう……ガレリア、遠いわねぇ。そういえば、ガレリアでSランクに認定されたんだっけ? 今後はガレリアをホームとしてやっていくつもり?」


リュー 「別にガレリアに拘っているわけではないが、エド王には良くしてもらっている。子供達が大きくなるまでは、ガレリアの周辺を彷徨いているだろうな」


キャサリン 「子供が居るの?」


リュー 「ああ、孤児達だが。それと、俺の姉…と、孤児の面倒を見てくれているシスターだ」


キャサリン 「ああ、あなたはシスター・アンのところで一時期世話になってたのよね。そう、あなたも孤児達の面倒を見ているのね。じゃぁ引き止めるわけにもいかないわね」


リュー 「まぁそういう事だ……そういえば!」


キャサリン 「?」


リュー 「フェルマー王国で、イライラという元冒険者に会ったぞ?」


キャサリン 「あー、そういえば、前にイライラおばさまから問い合わせがあったわね、リュージーンって冒険者について教えろって」


リュー 「ああ、バイマークの街の冒険者ギルドで俺は(冒険者に)再登録したんでな。そこで、新人冒険者を鍛える研修の鬼教官をやってたのがイライラだった」


キャサリン 「鬼教官ね(笑) あの人、剣の腕はすごいんだけど厳しいから、新人達も大変ね。私も子供の頃扱かれたものよ」


リュー 「ああ、俺も扱かれたよ」


キャサリン 「リューが? 必要ある? 剣術だって、剣聖レイナードにすら勝ってたじゃない」


リュー 「新人のフリをしてたら見抜かれてな、意地悪されたんだ」


キャサリン 「あー、それで問い合わせがぁ」


よく考えたら、ミムルが復活した事によってイライラとの関わりも修正されている部分があったかも知れなかった事に後で気づいたリューだったが、修正は極力小さく抑えられているようなので、齟齬はそれほどなかったようだ。


リューがギルマスの執務室を出ると、依頼クエストを終えた冒険者達パーティが帰ってきたところだった。冒険者は獲物が入っていると思われる大きな袋を受付カウンターの上に乱暴に置いた。


『キャウン!』


袋の中から鳴き声が聞こえた。リューは気になって足を止めた。


素材なら受付カウンターではなく、素材引き取りカウンターに出すはずだし、そもそも倒した魔物が入っているなら、置いた時に悲鳴などあげない。


エリザベータ 「鳴き声がしたわよね?」


見ていると、袋から出されたのは何匹かの子犬であった。子犬達はほとんどが既に死んでいるようだが、よく見ると、かろうじて一匹だけ息があるようだった。だが、それもかなり弱っているようだ。


受付嬢 「スルブさん、子犬は生きた状態でって言ったじゃないですか」


冒険者スルブ 「あ? あれ? みんな死んじまってるな?」


受付嬢 「子犬は弱いんですから、そんな乱暴に扱ったら……」


スルブ 「あ、コイツ生きている! ほれ」


弱った子犬の頭を掴んで持ち上げて受付嬢に見せるスルブ。そのスルブの手をリューが掴んだ。


リュー 「おい!」


珍しく怒っている様子のリュー。


実は、リューは前世でも犬と猫を飼っていたのだ。前世の日本では、人間とはあまり良い思い出のないリューであったが、その分、犬猫をとても可愛がっていたのだ。そのため、犬や猫を乱暴に扱う奴が許せないのであった。


リュー 「乱暴に扱うんじゃない! …丁寧に優しく扱え! 分かったか?」


スルブ 「あいてててて分かった、分かりました!」


リューのとんでもない握力で握られ、スルブは思わず子犬を離してしまうが、エリザベータがそっとキャッチし抱きかかえた。エリザベータがすぐにポーションを取り出して飲ませてやると、弱っていた子犬は持ち直した様子だった。


スルブ 「ってなんなんだよ! これは俺の獲物だぞ! 横取りする気か?! それもギルドの受付の眼の前で!」


リュー 「どういうことだ?」


リューは受付嬢の方を睨みながら尋ねた。これはごく普通の子犬だったからである。魔物などではない。


※魔物(魔獣)が居る世界であるが、当然、魔物ではない普通の動物も居る。


リュー 「いつから冒険者ギルドは普通タダの犬や猫を獲物として受け取るようになったんだ?」


受付嬢 「あ、いえ、違うんです。とある貴族の方からの依頼でして。子供が子犬を買いたいと言っているから、たくさん捕まえて来てくれと。その中から子供に選ばせるとのことで…」


リュー 「…それで、選ばれなかった子犬はどうなるんだ?」


受付嬢 「さぁ、そこまでは……」


スルブ 「おい、てめぇ、さっきからなんなんだよっ! 分かったんだったらその犬を返しやがれ!」


ジロリとスルブを睨むリュー。目から殺気が溢れている。その圧力に少しビビったスルブだったが、それでも苦労してとってきた獲物である、取り上げられたくはない。


リュー 「…いくらだ?」


スルブ 「?」


リューはスルブから目を離し受付嬢に聞いた。


リュー 「子犬一匹いくらの報酬だったんだ?」


受付嬢 「一匹につき銀貨五枚、五千Cセラです」


リュー(スルブに向かって) 「その分俺が払おう。6匹分で3Gでいいな? どうだ?」


受付嬢 「あ、あの、依頼は生きてるのが条件ですから、死んでる犬はカウントしなくてもいいんですけど…」


リュー 「構わん、他に依頼の違約金などもあるなら払おう」


受付嬢 「あいえ、これはオープン※の依頼なので、違約金はないです」


※誰でも何人でも受けられ、特に受任手続きが不要な依頼クエスト。期限のある常設依頼のような扱い。


リューが金貨三枚を渡されたスルブは受付嬢が言い終わるより前に喜んで行ってしまった。本当なら銀貨五枚しか貰えなかったはずなのだから、金貨三枚なら大儲けである。スルブに特に文句はないのは当然であった。


リュー 「既にたくさん納品されているのか?」


受付嬢 「はい、ギルドの地下牢にとりあえず入れてあります」


地下牢と聞いてリューからまた怒気が出た。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


貴族は子供に子犬を選ばせた後、残った子犬は領民から里親を探す予定だと言う。


リュー 「…俺も貰えるかな?」


乞うご期待!



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