足を斬られてダンジョンに置き去りにされた少年、強くなって生還したので復讐します（習作２）

第118話 暗殺者侵入

城で生き残った騎士、王都内を警戒していた騎士、非番だった騎士など、できる限りの騎士が王宮にかき集められたが、しかしやはり、人手不足は否めない状態であった。

王都内の警戒も街の治安が悪くなるので無くす事はできない。かと言って、前線に応援に出した王宮騎士を呼び戻す事もできない。

防衛の要であったビエロの街をほぼ無傷で乗っ取られた挙げ句、逆に侵攻の拠点として整備されてしまったのだ。前線も、戦力は少しでも欲しいだろう。

既に、王国中の貴族に対し招集が掛られてはいるが、戦争の準備には時間が掛かるものである。戦力が集まるには、今しばらくの時が必要であった。

ただ、クーデターに賛同した貴族達が恩赦を期待して前線に参加・奮闘する事が期待できる。本気で恩赦を期待する者の動きは早く、近日中に前線に加わると見られた。そうなれば、これ以上押し込まれる事は防げるだろう。

ただ、それでも戦線を拮抗させるだけ、押し戻すには至らないだろう。

そのような状況で、王宮の護衛に割ける戦力は少なく、リューに頼らざるを得ない状態は今しばらく続く事になるのであった。

無敵のリューである。どんな敵が来ても問題などあるわけがない。王宮の護衛など簡単な事である。そうリュー自身も思っていた。

だが、やってみるとそう単純な話でもなかったのである。

そもそも、リューは護衛に関しては素人である。自分以外の人間を護衛するというのは、初めての経験なのだ。

敵が目の前に居て、そいつらと戦えと言われるのであれば簡単であるが、護衛の場合、敵はいつ来るのか分からない。

自分が襲われるのであれば危険予知能力があるので問題ないのだが、一緒に居ない者の危機にまでは予知能力は作動しないのである。

冒険中のパーティのように、常に一緒に居るのであれば良いのだが……

日常生活の中で、24時間片時も離れずに一緒に居るのは難しい。

それに、守るべき対象は一人だけではないのだ。任務は「王宮の警護」である。王と王女の身辺警護だけではなく、王宮全体を守らなければならないのである。

交代要員が居るわけでもなく、どんなにリューが強くとも、一人では無理があるのであった。

実は、神眼を使って王宮全体を監視する事がリューならば可能である。また、リューは一週間や二週間、寝ずに活動することも可能である。だが、神眼の能力は秘密であるし、人間の生活習慣に慣れてしまっているリューは毎日ちゃんと眠りたいのであった。

王とソフィもリュー一人で王宮全体の警護など無理がある事は理解していたので、リューはあくまで緊急時における王城の戦力と位置づけ、必要な時に呼ぶので駆けつけてくれれば良いという事で、携帯型の通信用魔道具が渡された。

通信用の魔道具というのは非常に希少で高価であるのだが、さすがは王宮だけあって、いくつか携帯できるものが用意されていたのである。端末を持っているのは王、王女、宰相、王宮騎士の指揮官、王宮の侍従長。

この方式は、転移で移動できるリューには向いている。呼ばれればどこに居ても瞬時に駈け付けることができる。実際に実演してみて宰相達も納得してくれた。

リューは宿泊用の部屋を用意してもらい、そこに寝泊まりしながら、あるいは自由に城の中を（時には城の外を）散歩しながら、呼び出しを待てば良い事になった。

ただ、この方式には一つ大きな問題があった。呼ばれた時に駈け付けるのでは、不意打ち―暗殺者に対応できないのである。

リュー自身を狙う暗殺者であれば問題ないが、王や王女、宰相などを狙われた場合、リューを呼ぶ前に被害が発生してしまう可能性があった。

通常であれば、24時間交代で騎士が城内を見守っているので侵入は容易ではないのだが、その騎士が足りない状態なのである。

（実は王はこの問題にも気づいていたのであるが、あまり我が侭を言っても仕方がないと黙っていたのであった。）

そして、実際に刺客が送り込まれてきた事で、その問題をリューも認識する事となった。

深夜、王宮に刺客が侵入してきたのである。

侵入者は、クーデター派の貴族が雇った暗殺者である。

クーデター派の貴族でも、騎士団を持っているような力のある貴族は、武力を率いて前線で活躍する事で恩赦を期待する事ができた。だが、騎士団を持たないような弱小貴族はそれもできない。つまり、このまま処分を待つだけとなってしまう。そうなる前に、王を暗殺し、クーデターを成功させてしまえばよいと考えたわけである。

王城の警備が手薄になっているのをクーデター派の貴族は知っている。この隙に、暗殺者を侵入させるのは難しくないだろう。

そう考えた貴族が闇ギルドに金を積んで暗殺者を雇ったのであった。

狙うは王の命、次に王女の命……

深夜、王宮に忍び込んでくる影。

ただ、本当に偶然だったのだが、刺客が侵入してきたのは偶々リューがトイレに起きた時間であった……。なんともツイテない侵入者である。

深夜の王宮内は暗い。ところどころ松明があるだけである。

この世界では、周囲を明るくする魔法はほとんどの人間が使える。だが、その明かりは自分の周囲だけを照らすのみで、あまり遠くまでは見えない。むしろ、自分の近くに光源があるせいで、遠くはより暗く見えて不気味である。

そこで、城内の地理に疎いリューは、暗闇でも先が見通せるよう神眼を発動して厠に向かったのである。そのおかげで、凶行に及ぶ前に侵入者を発見できたのであった。

侵入者を発見はしたが、はやく小便をしたかったリューは、侵入者をそのまま亜空間に収納してしまった。生きた人間をそのまま収納したのは初めてであったが、問題なくできた。

空気のある亜空間に収納したので死にはしないだろう。次元を超える能力がある者であれば脱出可能であるが、そんな者は今の所見たことがない。

厠で用を足すと、リューは部屋に戻り、そのまままた寝てしまったのであった。

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次回予告

リューがついに戦争に参戦？！

乞うご期待！