第190話 神とは……
不死王 「それはただの神の眷属に過ぎぬ。神とは、そんな小さなものではないのだ。人間のような個の人格を持つような存在ではない。
この世界、この宇宙すべての“法則”そのものとでも言えばよいか……
この世界の個々の生物程度の知性では認識できないほど巨大な存在なのじゃ。
人間のような小さな個性や人格もないし、性別もない。そんなものは意味がない。ワシだって、性別はとうの昔に忘れてしまったしのう」
リューはてっきり不死王は男性だと思っていたが、もしかして女性である可能性もあるのか? と驚いた。しかし、どちらでも良い、本人が言うとおり、何十万年も生きる者には性別など大した意味はないのだろうと、考えるのはやめた。
不死王 「神と人間の関係を分かりやすく言えば……お主は、目に見えないほど小さな生物の存在を知っておろう? お主の皮膚の上にも、今この瞬間にも、微細な生物が生きておる。じゃが、それをお主は意識する事はできない。微生物もまた、自分が乗っている巨大な生物の事を知ることはない。人間と、この世を創った創造神との間は、それほど離れていると考えればよいじゃろう」
リュー 「……」
不死王 「世界を造った創造神と地上の生物は、スケールが違い過ぎて対話などできないし、する意味もない。
その代わり、その間を橋渡しする存在が居る、それが神の眷属じゃ。お主が転生時に会ったのもそのような存在の一人じゃな。
まぁ、お主に分かりやすく言うと、受付嬢じゃな。冒険者ギルドに居るじゃろう?」
リュー 「だとすると、神はギルドマスター?」
不死王 「いや、神はそんなにちっぽけな存在ではない。受付嬢と対比するなら、神は “この世界そのもの” とでも言えるかの。
実際の神はこの世界よりももっと巨大な存在じゃ。本当の神に到達するまでに、中間の存在が無数に存在しておるのじゃ」
リュー 「なんだか中間管理職みたいだな」
不死王 「似たようなものじゃな、スケールは桁違いじゃが。」
リューは転生時の女神(改め神の受付嬢)との会話を思い出していた。あの時、リューはかなり無茶な要求をしたと思う。世界すべてを相手取っても負けない力を要求したからだ。その時、その受付嬢は即決できず、“上”に確認してくると言っていた。一瞬で戻ってきたから忘れていたが。その上というのが神(またはそれにより近い中間の―より上位の存在)であったという事か。
不死王 「まぁ、神というのはそれほど隔絶しているので、考えてもあまり意味はない。何が言いたいかと言うと……
人間が不幸になろうが幸せになろうが、世界を創造した神にとってはどうでも良い事じゃろう、と言うことじゃ。
じゃから、お主は自由にすればよいのじゃよ。人間ごときの矮小な善悪の基準では、神の考えは計れぬのじゃ」
リュー 「……」
不死王 「と、ここまで語っては見たが、あくまでワシの推論でしかないのじゃがの」
ちょっとずっこけたリューであった。
不死王 「神の考えなどワシには分からん。だからこそ、研究しがいがあるのじゃ。
まぁ、お主に先程言ったような力が与えられているのは本当じゃ。せっかく与えられたその力も、お主はまだ使いこなせてはおらんようじゃが。
勉強すれば分解だけでなく、新しい魔法を生み出す事くらいはできるようになるじゃろう、まぁ千年くらい勉強すればの」
リュー 「人間はそんなに長く生きられないから無理だな」
不死王 「何を言っておる、お主に与えられた肉体は人間ではなかろう? その肉体の寿命がどれくらいなのか知っておるのか?」
リュー 「う、確かに……八十年も生きれば死ねると思っていたのだが、違うのか……?」
不死王 「だいたい、お主は物質の時間さえも巻き戻す事ができるのじゃろうが……その気になれば永遠に生きる事も可能じゃろう?」
リューはそれを聞いた頭がクラクラする思いであった。リューは、この世界は仮の住まい、数十年生きたら人生を終え、また元の世界に戻れると思い込んでいたのだ。だからこそ、どこか腰掛け、仮住まいのような気持ちがあったのだが……
それが勘違いであったとすると、この世界での生活を一体どれほど続ければ良いのであろうか……
不死王 「まぁ、心配はいらんよ。お主はワシと違って不死身というわけではない。傷つけば普通に死ぬ身体じゃ。ワシのように永遠の牢獄に居るわけではない。お主さえその気になれば、いつでも牢から出られるのじゃからの……」
リュー 「もしかしてアンタは、俺に能力を極めて、自分を殺して欲しいと思っているのか?」
不死王 「別に。生き続ける事に執着はないが、死ぬ事にも興味はない。ただワシは研究を続けるだけじゃ、存在し続ける限り、な。
まぁ、ワシももし死にたくなったら死ねるよう、お主を研究させてもらおうかの。その前に、簡単に死ぬでないぞ」
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次回予告
エミリアの父、帰還
乞うご期待!
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