第147話 魔法職の二人、大躍進す

新人の二人の女性は、レオノアとアナスタシアと言った。レオノアは魔法使いマジシャン職能クラスを持っており、攻撃魔法が得意だという。アナスタシアは神官のクラスを持っており、支援魔法と回復魔法が得意であった。

 

二人とも魔法職なので体力はさほどない、とてもこの街の研修を乗り越えられないだろう。むしろ、ここまでよく頑張ったほうである。

 

実は二人は、かなり早い段階でイライラに呼ばれ、冒険者などやめておけと言われており、逆に反発心で辞めずに頑張ってきたのだ。だが、これほど体力偏重の研修では、さすがにクリアできそうにない。

 

馬鹿らしくなってきたので、素直に辞めて他の街で普通に冒険者を目指したほうがいいのではないかと思い始めたところだったそうだ。

 

そんな二人へのリューの助言は、魔力の使い方であった。

 

レオノア 「魔法を使うの? 支援魔法を自分にかけると言う事?」

 

リュー 「それでもいいが……二人は支援系の魔法は使えるのか?」

 

レオノア 「私はダメ、攻撃専門」

 

アナスタシア 「私は回復系、治療と解毒、状態異常の解除が得意ですが、支援魔法はあまり……」

 

レオノア 「でも、研修で支援魔法なんて使っていいの?」

 

リュー 「俺が聞き込みしたところでは、別に研修中に魔法を使うのは禁じられてないらしい。つまり、魔法で肉体を強化して乗り越えるのも有りという事だ」

 

アナスタシア 「でも、何を掛ければいいのかしら? 支援魔法というと、筋力アップ、スピードアップ、感覚強化、防御力上昇、攻撃力上昇、状態異常耐性強化、幸運度上昇なんてのもあったわね。」

 

レオノア 「どれもマラソンや筋トレには効果なさそうねえ」

 

アナ 「筋力アップ、体力スタミナ強化は効果あるでしょ。単純に回復魔法は疲れを取る効果も多少はあるし……」

 

レオノア 「仮に、効果があったとしても、そんなの何時間も掛けっぱなしにしてたら魔力が切れてしまうでしょ」

 

リュー 「いや、俺の予想では、合格した者達は、ほぼ全員が魔力を使って自分を強化していたはずだ」

 

レオノア 「どういう事?」

 

アナ 「……魔力? 魔法じゃなくてって事ですね?」

 

リュー 「そういう事だ。“魔法”という高度に組み上げられた術式ではなく、もっと原始的な……」

 

実は、リューは過去世の地球での記憶が蘇ってから、ずっと不思議に思っていた事がある。

 

この世界の人間は、地球の人間に比べると

異様に身体が強靭なのだ。物理構造そのものが地球の人間とは違うのかと思ったのだが、平民の一般人は地球の人間とさほど変わりないようなのである。

 

だが、冒険者や騎士などは、一般人とは比較にならないほど頑丈で強い。

 

不思議に思ったリューは、神眼を使って一般人と冒険者や貴族の身体の違いを観察してみたのだ。

 

その結果分かったのは、この世界の人間はどうやら魔力を使って肉体を強化しているという事であった。

 

みな、無意識のレベルで魔力を使って身体を強化しているのだ。だが、その仕組に気付いている者は多くはなく、その強化の割り振り方がマチマチなため、差や個性が生まれていたのであった。

 

(実は、その仕組みに気づき、積極的にそれを使う技術を磨いている剣術の流派などもこの世界にはあるのだが、その流派の技は極意として厳重に秘匿されているので、あまり知られていないのであった。)

 

つまり、魔力を上手く使えば、意図的に身体を強化する事ができるはずなのだ。

 

リューは冒険者志望の女性二人にそれを試して見るように助言した。

 

リュー 「支援魔法と考え方は同じだが、魔法として発動するのではなく、もっと原始的なレベルで、パッシブに自分の魔力を身体強化に直接回す、という感じだな、多分。

 

剣士や戦士のクラスを持ってる奴がやたら力が強いのは魔力を使って身体を強化しているからだ。逆に連中は、魔力を身体強化に消費してしまうため魔力が少なく、魔法が得意ではないと言うわけだ。

 

逆に、魔法が得意な者は魔力をより積極的に魔法の駆動に充ててしまうので、肉体強化に魔力が回らない。

 

だが、マジシャンやヒーラーは、もともと魔力が多く、魔力を扱うのが得意なのだから、意識的に肉体強化に魔力を回すようにすれば、戦士や剣士と同じように肉体の強化もすぐできるようになるんじゃないか?」

 

辞めるのは簡単であるし、魔法職や回復職を馬鹿にしたような態度だったイライラを見返してやりたい。そこで、レオノアとアナはもう少しだけ頑張って、リューの言うやり方を試してみることにしたのである。

 

    ・

    ・

    ・

 

最初はうまく行かなかったが、数日も鍛錬しているうちに二人は徐々にコツを掴んできた。

 

元々魔力量が人より多めで魔力操作に長けている魔法職と回復職である、コツを掴めば後は早かった。二人は魔力を体に巡らせ身体を強化し、高い身体能力を発揮しだしたのである。

 

気がつけば二人はマラソンでトップグループについていける程になっていた。

 

『貴様! あの二人に何をした?』

 

リューは突然イライラに声を掛けられた。

 

リュー 「何のことだ?」

 

イライラ 「とぼけるか。

 

ふん、まぁいい。結果が全てだ。

 

明日からは模擬戦をやるぞ」

 

 

   *  *  *  *

 

 

翌朝、イライラの号令で、研修生が全員集められた。

 

イライラ 「おい、出てこい!」

 

イライラが呼ばれて、出てきたのは2名の冒険者達。よく見たら一人は先日、登録初日にリューに絡んできた奴だ。たしか名前はパピコ、面白い名だったので覚えていた。

 

もう一人は何と言ったか……? リューが考えていると、二人が名乗った。

 

『おれはパピコ、冒険者ランクはEだ』

『俺はカイロ、ランクはDだ』

 

そうだ、カイロだ。

 

イライラ 「リュージーン」

 

リュー 「?」

 

イライラ 「聞いたところによると、オマエは4年も冒険者をやっていながら、長い間ランクはGのままだったそうじゃないか? 才能がないのに冒険者を諦めきれず、別の街でやり直そうってクチか?」

 

リュー 「ギルマスに嫌われてな、ランクアップさせてもらえなかったんだ」

 

イライラ 「ふん、嘘をついてもすぐに分かる事だがな。お前の事は少し調べさせてもらった、ずっと薬草採りしかしておらず、“無能”と渾名されてたらしいな」

 

無能呼ばわりにレオノアとアナスタシアの二人は怒った顔をした。二人はリューの助言で飛躍的に実力を上げる事ができたし、実はリューは障害物マラソンも余裕でついていっていたのも気付いていたからである。

 

だが、リューは怒るよりも不思議に思った。ミムルのギルドの登録情報は失われたはずではなかったのか? いや、イライラは独自の伝手を使って調べたのかも知れない。イライラも元Sランクの冒険者だ、冒険者の知り合いは多いだろう。

 

ミムルの冒険者は全滅してしまったが、昔、リューが薬草採りしかしていなかった頃に街に居て、その後、街を去った冒険者も居る。そのような人物から情報を得たのであれば……、情報が古い事―――リューが覚醒した後の事がすっぽり抜け落ちている事―――とも符号する。

 

イライラ 「俺は才能が無い癖に冒険者になりたがる奴が嫌いでな! 力の無い奴は冒険者など止めておけ、命を落とす事になるだけだ!」

 

 

― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

冒険者と模擬戦

 

乞うご期待!

 

 

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