第522話 おめぇ、リューだよな?
冒険者ギルドに入ったリュー。朝、少しゆっくりしてから出てきたので、早朝の混雑時間は終わっている。
受付嬢に声を掛けようと思うが、昨日の受付嬢は居ない。代わりに、カウンターの中には見たことのない受付嬢が一人だけ座っていた。ただ…
受付嬢と言えば若くてキレイどころが揃っているのが定番だが、その受付嬢は
カウンターに近づき、その受付嬢に声を掛けるリュー。
リュー 「ギルマスを呼んでもらえるか?」
だが、その受付嬢は表情を一切変えず、何も反応しない。
訝し気に見るリュー。ふと見ると、カウンターのネームプレートに何か張り紙がしてある。
『綺麗なお姉さんと呼びかけると反応します』
リュー 「……おほん
…キレイなオネーサン?」
途端にマネキンのように微動だにしなかった受付嬢が笑顔で動き出した。
受付嬢 「いらっしゃいませぇ、冒険者ギルドへようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうかぁ?」
リュー 「いや、だから、ギルマスを呼んでくれるか」
受付嬢 「アポイントメントはお有りですかぁ?」
リュー 「…約束はしていないが」
もちろんリューも、俺様が来たんだから最優先で対応しろ、などと言うつもりはない。だが、知らない仲でもない。せっかく立ち寄ったのだから、声くらい掛けてみてもいいではないか。
嫌な予感がしながらも、再度取次を求めたリューだったが…
受付嬢 「あなた……見掛けない顔ね? 若そうだけど、登録したばかりの初心者? 居るのよねぇ時々! 初心者の癖に大物ぶってギルマスと直接話ができると思ってる勘違い君が」
嫌な予感が当たってしまったようだ。
受付嬢 「いい? ギルドマスターっていうのは、あなたみたいな駆け出しの冒険者がおいそれと会えるような存在じゃないのよ?」
リュー 「いや、駆け出しの冒険者ってわけじゃないんだが…」
やれやれと言う顔で、リューはラメ入りの黒いギルドカードを取り出して見せた。しかし…
受付嬢 「なぁにそれ? まさかギルドカードのつもり? そんな見たこともない色のカードで誤魔化されるわけないでしょう」
リュー 「いや、本物のギルドカードなんだが…?
…まぁ見た事ないのは仕方ないのか? これはSランクのカードだからな」
すると、リューの後ろに居た冒険者が吹き出すのが聞こえた。若い冒険者と受付嬢が揉めているのを面白がって、聞き耳を立てていた冒険者である。
冒険者の男A 「プッ…! おめえみたいなヒョロい若造が…しかもよりによってSランクだと!」
冒険者の男B 「適当なカード持ってくりゃランク詐称できると思ったか?」
リュー 「…ランクの詐称は重罪なのを知らんのか?」
チラと振り返り、笑ってる男達にリューは言った。
リュー 「そんな馬鹿な事するわけないだろう? カードが偽造かどうか、読み取り機に掛けて確認してみればいいだろう、ほれ…」
再び受付嬢にカードを差し出したリューであったが…
受付嬢 「そんな怪しげなカードを入れて機械が壊れたら困るでしょ~。今なら見なかった事にしてあげるから退散しなさい、今後はそういう事しちゃだめよ~?」
しっしっと追い払うように手を振る受付嬢。リューはやれやれと肩をすくめた。
リュー 「後で叱られる事になるかも知れんぞ?
…なんて言っても無駄か」
受付嬢 「しっつこいわねぇ、あなたこそいい加減にしなさいよ? せっかく見逃してあげるって言ってるのに! カード偽造は重罪よ? 衛兵に突き出されたいの?」
男A 「衛兵なんかいらんさぁ、しつけのなってない若造を躾けるのも先輩冒険者の役目だ」
男B 「おい若造、こっちで俺達と話をしようか? 冒険者のイロハを教えてやるぜ、
リュー 「やれやれ、定番イベントは避けられませんてか」
エリザベータ 「…あなた達、やめておきなさい。人も魔物も見掛けで判断するのは冒険者としては三流よ?」
男A 「…おう? よく見りゃあいい女じゃねぇか。俺達のパーティに入らねぇか? こんなガキと居るよりいい思いさせてやるぜぇ?」
エリザベーダ 「キモ。あなた達みたいな三流と組むわけないでしょ」
男A 「ガキと一緒で女も生意気かよ!」
男B 「俺達の強さを見れば気が変わるさぁきっと。よぉ兄ちゃん、裏の訓練場にちょこっと付き合え。拒否は認めねぇ。なに、ちょっとした鍛錬だよ」
エリザベータはため息をつきながら、自分のギルドカードを出して見せた。
エリザベータ 「彼のランクは本物よ、痛い目見る事になるだけよ?」
男A 「!?」
男B 「Aランク……」
エリザベータが手に持っている金色のカードは、さすがに見た事があったようだ。男達と受付嬢の顔色が変わった。
エリザベータ 「私が本物だって証言するわ、それでも信じられない?」
リュー 「だいたいおまえら、Sランクのカードを見たことないんだろう? だったらこのギルドカードが本物か偽物か判断できんだろうに。もし本物だったら後悔する事になるのはお前らのほうだぞ?」
男B 「おい…、やべぇんじゃねぇか…?」
男A(受付嬢に向かって) 「おいヴァネッサ…、確認してみろよ…」
だが、
『ハッタリだよ!』
リューが振り返ると、ニヤケ顔の中年の冒険者の一団が居た。
冒険者の入れ代わりというのは意外と激しい。危険な職業であるし、生き残れたとしても、基本的に冒険者というのは旅人気質の者が多いのだ。気に入らない事があったり、別の街で儲け話の噂でもあればすぐに移動してしまう。一つの街に長期間留まっている冒険者というのは意外と少ない。
数年ぶりに戻ってきたものの、リューも昨日からキャサリン以外の知った顔を見つけられていなかった。だが……
男 「おめぇ、リューだよな?」
ニヤケた冒険者達の中に、見覚えのある顔があった。
リュー 「……
…すまん、顔は覚えているんだが、名前が出て来ないな」
男 「ヤッチマだ! 忘れてんじゃねぇよ」
リュー 「仕方ないだろ、何年も前の事だ…」
ヤッチマ 「ふん! しかし笑えるな。数年ぶりに戻ってみりゃあ、万年Gランクの薬草取りだった奴が、Sランクを騙ってるところに出くわすとはなぁ…?」
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次回予告
俺達が実力を確かめてやろう
乞うご期待!
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