第431話 アリサのトラウマ

アリサが生まれたのは、陰気な雰囲気の漂う街だった。


その街が陰気なのは、近くにアンデッド系のダンジョンがあり、そこから漏れ出る瘴気が街に流れ込んでいたためである。


そう、アリサが生まれたのは、不死王城を望む街、ロンダリア であった。


だが、そんな暗い雰囲気の街でも、アリサの両親は明るく楽しげに頑張っていた。特にアリサが生まれてからは、忙しいながらも充実した幸せな日々を送っていたのだ。夫婦はいつも明るい笑顔を絶やさず、街の人も、アリサの両親が来ると明るい気持ちになるのだった。


だが、そんなある夜、アリサの家の扉を叩く音がした。街の人間だったらドアを開けなかったかも知れない。だが、他の街で生まれ育ったアリサの父親は、ロンダリアの常識をよく知らず、ドアを開けてしまったのだ。


ロンダリアでは、たまに不死王城ダンジョンから幽霊レイスが来て夜中に町中を彷徨く事があった。レイスは街を彷徨った後、朝には帰っていく。レイスのドレインタッチで生命力を吸われ体調が悪くなる者が出る事はあったが、その程度であれば死人が出る事はなかった。だが、極稀に、レイス以外の魔物も街に来る事があったのだ。


アリサの父親はよその街から来た商人だったのだが、ロンダリアでアリサの母親を見初め、猛アタックの末、結婚して街に残ったのだ。そのため、街の事情をあまりよく知らなかったのである。


深夜、アリサの父親がドアを開けた先に居たのは、どうやって街に入り込んだのか、一体の魔物―――スケルトンであった。


スケルトンはいきなり持っていた剣でアリサの父親を刺し貫いて殺すと、そのまま家の中に入ってきて、アリサの母親も殺したのだ。


アリサは母親の咄嗟の判断でベッドの下に押し込まれていた。またアリサの母親は刺されながらもベッドの下を塞ぐように倒れた。おかげでアリサは魔物に見つからず、死を免れたのだった。


その後、駆けつけた街の冒険者によってスケルトンは退治された。だが、母親が骸骨に刺し殺されるのを幼いながらもその目ではっきり見てしまったアリサの心には、骸骨に対する強い恐怖心が宿ってしまったのだ。


その後、アリサは親戚の家に引き取られた。


だが、親戚はアリサを養育する事を嫌がり、こっそりアリサを処分した。アリサは奴隷ギルドの商人に買い取られたのである。(アリサの転移能力は母親の腕の中に飛び込む事にしか使われていなかったため、親戚の家に居る間は能力が発覚する事はなかったのだ。)


その後、奴隷ギルドによる鑑定によって特殊な才能を持つ事を見いだされたアリサは、高額で暗殺者ギルドへ売却された。そして、奴隷ギルドによって暗殺者として育てられたのだ。


   ・

   ・

   ・


リュー 「ということだったようだぞ」


リューはアリサが証人になり得るかどうか、暗殺の依頼者が誰なのか知っているのか確認したかったのだが、異常に口数の少ないアリサから詳しい話を聞く事を諦め、アリサの心の中を覗いたのだ。


アリサ自身は両親が殺された時の記憶ははっきりとは残っておらず、恐怖心だけが心に染み付いて残っている状態だったのだが、神眼を使ったリューは、アリサの心の奥に封印されていた記憶を読み取ったのである。


ランスロット 「はぁ、なんだか責任を感じますなぁ」


(※ランスロットはリューの神眼の能力をある程度知っている。)


リュー 「そのスケルトンは、お前の部下か?」


ランスロット 「いえいえいえ! 違います! 私の部下にそんな粗相をするような者はおりませんよ。軍団レギオンの兵士と、ダンジョンの中を彷徨いているスケルトンはまったく別物です。


おそらく、ダンジョンの中で生み出された、ダンジョンで生まれたばかりの者でしょう、死んだ冒険者の成れの果てかも知れません、おそらく意識もハッキリとは指定ない状態でしょうが、なんとなく、人間だった頃の記憶で街に向かってしまったのでしょうね。


そして、人間を見て恐怖した。人間がスケルトンを見て恐怖するように、生まれたばかりのスケルトンもまた、人間に恐怖心を抱くものなのです。


ダンジョンで生まれたばかりのスケルトンは何の教育も訓練も受けておりませんからね…


…とは言え、スケルトンが原因であるとは……少し、気まずさはありますね」


リュー 「骸骨に対して恐怖心があるようだから、姿を見せないほうがいいかもしれんな」


ランスロット 「とほほ……」




  * * * * *




さて、リュー達を暗殺するよう依頼を出したのはデボラである。アリサはそれを知っていた。


暗殺者ギルドはあまり横の繋がりは強くなく、町ごとに独立採算の傾向が強いので、街によってやり方は色々なのだが、この街では、仕事に必要な情報として、仕事を受けた者に依頼者についての情報も教える方針だった。そのほうが依頼者の要望により沿った仕事ができる、と言うのは建前で、実は以前、間違って依頼主をターゲットと一緒に殺してしまった事があったからなのだが。(もちろん、依頼者側には、依頼者の情報は誰にも話さないと嘘を言って安心させているのだが。)


デボラの失敗は、ミィだけでなく一緒にリュー達の殺害まで依頼してしまった事である。もし、狙ったのがミィ一人だけで、なおかつ、護衛の居ない宿以外の場所で襲ったのであれば、あるいは成功したかも知れない。


だが、余計な事をハンスに吹き込んだリュー達にムカついていたデボラは、つい、一緒に殺してくれと言ってしまったのだ。


まぁ、ミィもリューのパーティの仲間であるので、狙われたのがミィ一人だけであったとしても、リューはやはり許さなかったであろうが。


暗殺者ギルドを絞めようか、それとも先にデボラを絞めようかとリューが考えていると、冒険者ギルドの職員がリューを呼びに来た。


なんでも、代官が街に戻ったのですぐに冒険者ギルドに来て欲しいという事であった。


リュー 「代官、と言う事はデボラの父親か?」


職員 「そうですね。リューさんはデボラさんをご存知なんで?」


リュー 「まぁな。ミィと一緒に会った事がある」


職員 「そうなんですね」


とりあえず、すぐに来てくれと言うのでギルドに向かう事にした。その道すがら、父親にデボラのしでかした事を報告してみるのも一興かとリューは意地の悪い事を考えていた。


リュー 「代官はどう出るかな? まぁ、娘を庇うんだろうかな。ま、そんな代官なら、対応次第では、デボラと一緒に死んでもらうか…」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


「アンタの娘、ヤバくね?」


「し、証拠はあるのか?!」


乞うご期待!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る