第432話 代官と初対面

リューが冒険者ギルドに着くと、すぐにギルマスの執務室に通された。


ギルマスのGは自分の椅子に座っている。来客用のソファにはハンス、そしてもう一人、偉そうな人物が座っていた。


Gに促され、リューはその偉そうな人物の向かい側に腰を降ろした。ランスロットはリューの後ろに立つ。


代官 「お前がリュージーンか?  それに……ソレ・・が従魔で冒険者だというスケルトンか?」


リュー 「…アンタは?」


代官 「噂通り無礼な奴だな。儂はこの街の代官を任されている、ヒュラブゴだ」


リュー 「人に名前を尋ねる時にはまず自分から名乗るのが礼儀ってね。まっ、俺が人に礼儀をどうこう言える立場じゃないけどな。いかにも俺がリュージーンだ。俺の態度が無礼なのは許してくれ、俺は敬語が使えない呪いに掛かってるんだ」


ヒュラブゴ 「そんな呪いが…? まぁ冒険者の無礼な所作言動にいちいち目くじらを立てていては話が進まんな。それより…お前達、私の娘を殺人犯呼ばわりしているそうだな?」


ヒュラブゴの横に居るハンスは俯いたまま黙っている。


リュー 「もう話は聞いたか。俺のパーティの仲間の一人、ミィは以前、ダンジョンで死にかけたそうなんだ。聞けば、どうやらその原因が、オタクの娘、デボラだって話だ」


ヒュラブゴ 「ああ、聞いたよ。証人が出てきたそうだな。だが、昔の話だ。しかも聞けば、娘はただ嘘をついただけだそうじゃないか? たまたま結果的に冒険者が死ぬような事態になってしまったのは残念だが……しかし、出来心で軽い嘘をついただけで、殺人者呼ばわりも酷いのではないか? 貴族を殺人犯呼ばわりするなど、事と次第によっては名誉毀損で処刑されてもおかしくない話だぞ?」


リュー 「あんたも貴族なのか? そりゃそうか、代官をやるくらいだものな」


ヒュラブゴ 「一応、男爵の位を授かっている」


リュー 「デボラの嘘のせいで、ミィの仲間が二人死んだらしいじゃないか。ミィ自身も奴隷に落とされてその後辛い経験をする事になったんだ。軽い嘘なんて言って済ませられる話でもないと思うが? 若くて美しい娘が奴隷に堕とされてどんな目に遭うか、想像がつかないわけじゃなかろう? もし、あんたの娘や孫が同じ目に遭わされたらどう思うんだ?」


ヒュラブゴ 「……」


リュー 「…だがまぁ、ミィを嵌めた件は置いといてだ。あんたの娘は、立派な殺人者だよ、別件で、やってはいけない一線を超えてくれた」


ヒュラブゴ 「別件? 何の話だ?」


リュー 「実は昨晩、俺達の宿に暗殺者がやってきてな。全員返り討ちにしたけどな。その暗殺者が証言したよ、依頼者はデボラだとな」


G 「暗殺者だって? よく無事だったな……さすがSランクってところか」


ヒュラブゴ 「暗殺を依頼したのがデボラだと? 嘘だな。暗殺者が依頼主の名前をそう簡単に言うわけがない。依頼主を訊かれたらそう答えるようにいわれていたんろう。つまり、デボラを嵌めようとした誰かの陰謀だな。その暗殺者を連れてこい、真犯人を暴いてやろうじゃないか」


リュー 「暗殺に来た連中は一人を除いて全員自害したよ」


ヒュラブゴ 「それじゃぁ証拠はないって事だな」


リュー 「だが、俺はスケルトンを従魔にしている。ソイツらも、一度死んだあと、アンデッドにして全てを喋らせた」


ヒュラブゴ 「アンデッドにしただと!? 貴様、死霊使いネクロマンサーなのか?!」


リュー 「俺はあらゆる属性の魔法が使えるんだ、闇属性の魔法もな。当然、死霊術だって使える」


ヒュラブゴ 「非道な事を…、生きた人間を証言させるために殺してアンデッドにするなど、許されると思ってるのか? 重罪だぞ?」


リュー 「死んだ・・・人間をアンデッドにしてはいけないって法律はないだろ? 言ったろ、自害したんだ、自分で死んだんだよ。俺達が殺したわけじゃない。何も言われる筋合いは無いと思うが? というか、俺達は襲われて殺されかけたんだ。仮に、返り討ちにして殺したとしても正当防衛だろう?」


ヒュラブゴ 「それは…」


リュー 「死んだ人間には法律は適用されないよな? それとも、闇属性の魔法を禁じる法律でもあるか? ないだろ? 奴隷を普通に使っている国だしな」


ヒュラブゴ 「それは…、ない……だが! アンデッドは証人としては認められないぞ? アンデッドの証人しか居ないのなら、デボラが依頼したという証拠にはならん」


リュー 「やれやれ…。一人生かしてあるって言ったろ? 奴隷にされて暗殺を強いられていたようなので、隷属の首輪を外して解放した。それなら証人と認められるだろう? 裁判で、どうしても必要なら、嘘看破ライクラックのスキルを持つ神官を呼ぶか、証言用の隷属の首輪を使うなりすれば証人としては十分認められるはずだが?」


ヒュラブゴ 「隷属の首輪を外しただと? あれは奴隷ギルドの専門の技術者でなければ外せないのではないのか?」


G 「ああ、彼にはその能力と許可があるらしいです、先だっての王都での奴隷ギルドのマスターが逮捕された騒動、ご存知でしょう? あれをやったのが彼だって話ですよ」


ヒュラブゴ 「なんと……


…確かなのか? デボラが依頼したというのは……?」


リュー 「確かだ」


ヒュラブゴ 「……あの馬鹿娘が!」


リュー 「さて、それを聞いて、代官でもあり父親でもある男爵サマはどうする? 法律に則って娘を殺人者として裁くか? それとも、娘のために、貴族の権力を使って全部握りつぶすか?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


煽るリュー

青筋立てている代官

さてどうなる?!


乞うご期待!




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