第611話 はやく帰りたいのに

冒険者A 「俺達はただの…善良な冒険者だよ。俺はジョン、こいつはジャック、こっちがジョー、三人合わせてトリプルJだ。俺たちは依頼クエストを受けてロック鳥の調査に来ていたんだ。もう村に戻るところだから案内してやろうか?」


エライザ 「方向さえ教えてくれればいいわ。どっち?」


ジョン 「方向? 村の方向は…」


トリプルJ 「「「あっちのほうだ」」」


だが、三人の指はすべて別の方向を指さしていた。


エライザ 「……からかってるの?」


ジョン 「いや、何やってんだお前ら? あっちだろ?」


ジャック 「いや、あの川沿いにしばらく歩いだろ? あの川は緩やかに大きく曲がってたからな、方向間隔がズレるんだよ。正しくはこっちだ」


ジョー 「いや、その後、尾根を迂回してまわり込んで来たんだから、方角的にはこっちになるはずだ」


エライザ(睨みながら) 「騙そうとしてる?」


ジョン 「違うって! ほら、俺達はここまで一直線に来たわけじゃないから! 方向と言われるといまいち曖昧なんだよ…」


ジャック 「人間が通れる道は限られているからな」


ジョー 「アンタと違って、空を飛べるわけじゃないんでな」


エライザ 「本当に? 方向が分からなくてどうやって帰るのよ?」


冒険者A 「いくつか目印があるんだよ。それを逆に辿っていけば帰れるのさ、一直線とは行かないがな」


エライザ 「そう…仕方ないわね。じゃぁ……案内して」


ジョン 「ああ、いいぞ」


エライザ 「じゃぁ行きましょう」


ジョン 「すぐにか?」


エライザ 「ええ、急いでるって言ったでしょ?」


ジャック 「このロック鳥はどうするんだ?」


エライザ 「どうするって?」


ジョン 「せっかく倒したのに持って帰らないのか? 貴重な魔物だ、街で売ればかなりの金になるぞ?」


エライザ 「そうか、冒険者は魔物を狩って素材を売って稼ぐんだっけ。でも急いでるから今日はいいわ!」


ジャック 「ちょ、捨てていくってのか? この貴重な素材を?」


ジョー 「いらないんだったら、俺達がもらっていく! いいよな?」


エライザ 「別にいいけど」


冒険者B 「よし、じゃぁ解体するからちょっと待て!」


エライザ 「ちょっと。急いでるって言ったでしょ? マジックバッグとか持ってないの?」


ジョー 「そんなたけぇもん持ってるわけねぇだろ。終わるまで少し待ちなって」


ジョン 「お前たち、素材を持って帰ってもきっと売れないぞ?」


ジャック 「なんでだよ?」


ジョン 「疑われるだけだぞ、俺達の実力でどうやってロック鳥を倒したんだ? ってな」


ジョー 「貰ったって正直に言えばいいだろ?」


ジョン 「バカ、誰がこんな貴重な素材をくれたんだって訊かれるだろ?」


ジャック 「じゃぁ、くれた本人をギルドに連れて行けば」(エライザを見る)


ジョン 「倒した本人が居るのに、それを関係ない俺達が売るのをギルドが認めると思うか? 倒した者に支払うって言うに決まってる。その辺、ウチの村のギルマスは堅いからな…」


ジャック・ジョー 「あ~なるほど確かに、そうなりそうだな…」


ジョン 「こうしたらどうだ? アンタ――」


エライザ 「エライザ」


ジョン 「エライザ…さん。俺達が解体して運んでやるから、手数料として素材の売上の一割くれ」


ジョー 「少なっ、一割かよ」


ジョン 「本来なら俺達では手に入らない素材なんだ、もらえるだけありがたいだろ? それに、ロック鳥なら一割でも結構な額になるはずだ」


ジャック 「そうか、まぁいいか…」


エライザ 「あの~急いでるんだけど…」


結局、三人の懇願に負け、エライザは解体を待つ事になってしまった。エライザもこれから冒険者になろうという身なので、冒険者の活動をあまり邪険にするのもどうかと思うところもあったのだ。


魔物を解体しながら、ジョン達が色々訊いてくる。


ジョン 「なぁアンタ、エライザさん。人間の世界の事はあまり詳しくないって感じだな?」


エライザ 「ええ、里から出てきたばかりよ」


ジョン 「ああ、なるほど…」



― ― ― ― ― ― ―

次回予告


冒険者にならないか?


乞うご期待!


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