第491話 ヘレンとジャカール

学園女子寮のベアトリーチェの部屋。


室内に居るのは、ヘレンとアルバとベアトリーチェ、そしてマグダレイアである。


ベアトリーチェはマグダレイアを友人として扱っているが、マグダレイアは学園の生徒ではなく、ベアトリーチェの護衛として雇われている。護衛なのである程度学園内で自由に行動する事を許されているが、一応立場を意識して、マグダレイアは少し離れて窓際に座っていた。


ベアトリーチェ 「それで、ジャカールは見つかったの?」


ヘレン 「いいえ、見失ってしまいました」


アルバ 「まったく、レイア様を呼んでくるから待ってって言ってるのに、ヘレンたら一人で行ってしまうんだもの」


ヘレン 「だって、待っていたら彼を見失ってしまうじゃない…」


アルバ 「だいたい旧校舎に入っていったんでしょ? やっぱり不良の仲間になったんじゃないの?」


ヘレン 「そんなはずないわ、彼は、行方不明のマリク様を探してるんだと思う」


ベアトリーチェ 「ジャカールとはあれ・・からずっと?」


ヘレン 「はい、あれから……婚約破棄を宣告されてから後は、話しかけても無視されるばかりで…。その後しばらくして姿が見えなくなって…」


アルバ 「ジャカールと、マリク様も? 失踪・・してしまったのかしらね。消えた生徒達は全員、成績が悪い事を気にして自分から消えたって説もあるみたいだけど…」


ヘレン 「失踪した生徒達は全員、書き置きを残していたって噂だけど、でもジャカールは、もちろんマリク様も、何も残していないわ。


それに、二人共出奔するような性格じゃないわ。あの二人なら、出ていくなら堂々と宣言して出ていくと思う」


ベアトリーチェ 「…ねぇ、ジャカールは、ヘレンを巻きこまないようにしてるんじゃないかしら?」


ヘレン 「もちろんそうだと思います。婚約破棄の件もそうですが、一連の失踪事件について、何かを掴んだんじゃないかと思います。そして、一人でそれを解決しようとしてる……」


ベアトリーチェ 「…そう、やっぱり、西棟旧校舎をちゃんと調べないといけないわね」


アルバ 「そんな事、ベアトリーチェ様が首をつっこむ事ではありませんわ! 危険ですし、私達の仕事ではありません。失踪事件を捜査に来ている騎士が居るという噂ですから、その騎士に言って捜査させたらどうですか?」


ベアトリーチェ 「調査が入ってるというのは非公式情報なんだけどね」


ヘレン 「それらしい騎士が学園内を調べて回ってるって目撃情報が多いですし、事情を聞かれた生徒も居るって話しですから、全然バレバレですよね」


アルバ 「公爵令嬢のレイカ様は、マリク様が一連の失踪事件や暴行事件の犯人なんじゃないかって言ってたわ。それを理由に、弟分であるジャカールとの婚約を解消した。


まぁもともと、侯爵家の自分がなんで男爵家に嫁がなければならないのかって不満たらたらだったって話だから、婚約破棄のための体のいい理由に使われただけなのかもしれないけど?」


ベアトリーチェ 「マリク様は暴行事件を起こした生徒達とは関係ないんじゃないかしら。彼らは大分前から、マリク様と敵対して新たなグループを作ってたって情報を聞いたから」


アルバ 「分からないですわ、敵対それだって偽装工作だったかもしれないじゃないですか」


ヘレン 「いい加減にしてアルバ! マリク様もジャカールも悪事を働くような人間じゃないわ! マリク様も、不良達のリーダーだなんて言われてるけど、彼は面倒見が良いから、落ちこぼれた不良生徒達を放っておけなかっただけよ」


アルバ 「面倒見が良い、ねぇ…。つまり、成績が悪くて出奔したい生徒達を手助けしていた、という可能性も…」


ヘレン 「う、それは……」


ベアトリーチェ 「たしか、ヘレンとマリク様とジャカールは幼馴染だったのよね?」


ヘレン 「ええ、そうです。私の父(ミシア子爵)と、ジャカールの実家のリード男爵家は、マリク様の父上、カルステ侯爵の寄り子なので。年齢も近く、領地もすぐ隣だった事もあって、私とマリク、ジャカール、それにジャカールの妹のエイミの四人で会う機会が多かったんです。


私達は頻繁に会っていて、兄弟姉妹のように仲が良かったんですよ? だから私は、マリク様とジャカールの事は良く知っているのです。二人共、正義感が強く、優しい性格で……頭だって決して悪くはなかった。自分に興味ない勉強は嫌いだったけど…イタズラする時は、恐ろしく知恵が回るんです、憎たらしいくらいに。

マリク様、本気で勉強すれば、Zクラスなんかに居る人じゃないはずなんですけどね……」


アルバ 「ジャカールは、エスピリオン公爵令嬢に婚約破棄された事で、自暴自棄になって不良達の仲間入りしに行ったんじゃないの?」


ヘレン 「そんな事で動じるジャカールじゃないわ。もともと公爵令嬢との婚約だって乗り気じゃなかったんだし」


ベアトリーチェ 「婚約破棄の件は、そもそも諸々の事件が起きた後の話だから、それで自暴自棄にっていうのはおかしいわね」


ヘレン 「そうですよね。そもそも、彼が婚約破棄を言い渡されたのは、マリク様が今回の事件の犯人の黒幕じゃないかって噂が囁かれていたのが理由なのだから。彼らの無実が証明できれば……」


アルバ 「でもだからって、不良の巣窟となっている西棟旧校舎の捜索を私達だけで行うのはちょっとね…。レイア様が居れば不良共になんか負けないでしょうが、レイア様はリーチェ様の護衛なんだから、リーチェ様から離れられないしね。だからって、リーチェ様をそんな危ない場所に行かせるなんて、それこそできないし」


ヘレン 「…そうだ、彼に手伝ってもらいましょう!」


ベアトリーチェ 「彼?」


ヘレン 「転校生なんです、私が西棟に行って、不良達に襲われた時に助けてくれた。武器を持った不良達を一瞬で倒して…すごい強さでした。彼なら…」


アルバ 「強い? あんな線の細い男が? 見間違いじゃないの?」


ヘレン 「いいえ、本当よ、この目で見たんだから。それに、レイア様だって、可憐な外見からはまったく想像がつかないほど、とても強いじゃない?」


アルバ 「そりゃ、レイア様は伝説の竜人族の姫なんだから当然でしょ。一緒にしないでよ!」


ずっと黙って話を聞いていたマグダレイアが微妙な顔をしているが、アルバはお構いなしである。


ベアトリーチェ 「…そう言えば、近況報告のついでに、一連の事件と婚約破棄の件を義父様おとうさまに報告したら、“探偵” を寄越してくれるって言ってたんだけど、音沙汰がないのよね…」


アルバ 「……あ!」


ベアトリーチェ 「?」


アルバ 「すっ、すみません、忘れてました! 手紙を預かっていたんです」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


女の敵は成敗してやりますわ


乞うご期待!


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