第635話 人質は取るのがこの街の流儀です
マヅン 「やれやれ…大人しく従うなら、少なくとも領主の元に行くまでは、五体満足のまま連れて行ってやろうと思ったのだが。しかし抵抗するなら…殺すなと言われているが、手足を切り落とすくらいは構わんと言われている。まぁ、領主の元に行った後、どうなるかは知らんがな」
マヅンが顎で合図し、騎士と兵達が一斉に剣を抜いた。
だが、リューがゆっくりを腕をあげ、そして鋭く腕を振る。ドラゴンクロウである。
見えない竜闘気の斬撃が騎士達を襲う。
そして、攻撃範囲に居た十数名の騎士の首が胴体から切り離されていた。
草原が血に染まる…
マヅン 「なっ!」
リュー 「言ったろう? 大した数ではないと」
リューの次のスイングで、囲みの反対側が血に染まる。
マヅン 「なんだ? 風刃?! それにしては、魔法防御が付与された鎧ごと切り裂くなど…」
リュー 「…お前は一つ、決定的な間違いを犯した」
もう一度。リューが手を振るたび、騎士の首が飛んでいく。何人か、思わずしゃがみ込んで斬撃を躱した者も居たが、盾や剣を掲げて、あるいは魔法障壁を張って受けようとした騎士は、盾ごと(剣ごと/障壁ごと)両断されてしまうのであった。
マヅン 「…っ、間違いだと?」
リュー 「エライザを脅しに使った事だ。その時点で、全員殺す事が決定した。そうしないとエライザがいつどこで襲われるか分からんからなぁ?」
弓兵がリューに射掛けるが、リューの姿が消えてしまう。そして、背後から放たれたドラゴンクロウが弓兵の首を刈る。囲みの外に転移したのだ。
弓兵が死んでリューがそこに居るのに気づいた騎士達。魔法兵が慌てて攻撃魔法を放つが、再びリューが消え、そして顕れては騎士を斬り飛ばしていく。神出鬼没のリューに騎士達は為す術もない。
騎士達があっさり殺されていくのを見て、後列に居た衛兵達は逃げ出し始める。
そもそも、街の衛兵達は訳も聞かされずに呼び集められただけなのだ。もともとこの街の衛兵達の領主に対する忠誠心は高くはない。それが分かっているのでリューも逃げていく者については見逃してやる事にした。
マヅン 「くそ、歯が立たんとは……これがSランクの力なのか! 正直、舐めていた」
リュー 「普通に呼び出せば素直に応じてやるつもりだったのになぁ」
マヅン 「だが、詰めが甘いな!」
リュー 「?」
マヅン 「確かにお前は騎士達を相手に一人で戦えるほど強いようだ。だが…お前が泊まっている宿には別働隊が向かっている! 今頃はお前の娘を捕らえている頃だ! 娘の命が惜しかったら大人しくしろ!」
リュー 「ふん、そんな事だろうと思っていたよ、そっちもちゃんと手は打ってある」
マヅン 「なんだと?」
リュー 「というか、昨日来た連中にも言ったが、自分たちより弱い者じゃないと人質に取るのは無理だぞ? エライザも十分強いし、他にも戦力は居る。お前ら程度がどれだけ来ようが負けるわけがないだろうが?」
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襲撃を予期していたエライザは、宿に迷惑にならないよう、外の通りに出て待っていた。
そこに、騎士達がやってくる。前回は十五人で失敗したので、今回は精鋭三十人である。今回はリューが居ないはずなので苦戦はしないだろうという予想であったのだが、それでも用心して一応数を増やしたのだ。
迎え撃つは、エライザとわんこのエディ、ドリアードの亜種のドラ子である。
仁王立ちのエライザに向かって騎士が言う。
騎士 「お前がエライザか?」
エライザ 「あら、私も冒険者として有名になったものね。ってまだ依頼のひとつもこなしてねぇっつーの」
一人ノリツッコミしてみるエライザ。幼い頃からリュー(とランスロット)に育てられたエライザは、常にジョークを忘れないのだ。
だが、ドラ子とエディはキョトンとした顔をしているだけである。彼らには人間のジョークは今ひとつ分からないので仕方がない。
騎士 「冒険者ギルドのマスターからの情報だ」
エライザ 「そうか、別に口止めしてなかったしね。で何か御用?」
騎士 「恍けるな。領主様の息子のルイ様を害した件で、貴様を逮捕する」
そう言いながら騎士達は剣を抜いた。
エライザ 「私は何もしてないわよ? やったのはリューだし。私はむしろ痴漢の被害者なんですけど?」
騎士 「そんな事は知らん、俺達は捕らえてこいと言われただけなんでな。事情は領主様に説明するがいいさ。大人しくついてくるなら手荒な真似はしない。馬鹿みたいに強い保護者が居るらしいが、その保護者は今日は居ないんだろう?」
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次回予告
騎士 「フェン…リル?」
乞うご期待!
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