第378話 ゴードンの憂鬱

リュー 「次は、ゴードンとか言うヤツか」


ヴェラ 「いいえ、それだけじゃないわ」


リュー 「?」


ヴェラ 「ミィに非道い事をした奴隷ギルドのエージェントは見つけ次第、片端からお仕置きしてやる!」


ヴェラの怒りはまだ収まっていなかったようだ……


リュー (なんかコワ……)


ヴェラは怒らせないようにしようと思うリューであった。




  * * * * *




転移で冒険者ギルドに戻ってきたリュー達をリリィが出迎えた。


リリィはギルドの中で少し離れた場所に居たため、リュー達がランドに絡まれ冒険者ギルドを出ていった時、出遅れてしまったのだった。


リリィが慌てて後を追って扉を抜けた時には、すでに転移ゲートは解除されており、リリィはただギルドの外に飛び出しただけであった。当然、リュー達の姿はどこにもない。


周辺を少し探し回ってみたものの、リュー達が見つからないので、しかたなくギルドに戻り待っていたのだった。


リリィ 「ちょっと! アタイを置いていかないでよ! アタイもパーティ登録してよね!」


リュー 「え、お前もするのか?」


リリィ 「これから一緒に奴ら・・と戦う仲間でしょ」


リュー 「ま、いいけど」




  * * * * *




王都のとある宿。その食堂で一人の男が酒を呷っていた。ゴードンである。


先程、ミィから連絡があった。それを聞いて、飲まずに居られなかったのだ。


なんでも、リュージーンターゲットのパーティに入れてもらう事ができたそうだ。


さらには、パーティメンバー公認で、リュージーンの恋人として認められたと言う。


任務としては極めて順調に進んでいるという事だ。喜ばしい事だが……


…その報告は、ゴードンを苛立たせた。


ゴードンは焦って、ミィに、ターゲットと親しくなるのは良いが、肉体関係にはならないようにと注意した。


股間の奴隷紋を見られないためだと理由をつけたが……本当は、ミィが他の男に抱かれるのが腹立たしかったのだ。


今夜もまたミィを呼びつけて可愛がってやろうと思っていたのに、ミィはターゲットと同じ宿に泊まる事になったという。


夜中に抜け出して来いと言ったのだが、ターゲットに疑われないために当分は離れられないと言われてしまった。任務を成功させるためだと言われると、ゴードンも強くは言えない。


そろそろ本部にも現在までの成果を報告しなければならない。ミィのおかげで多少の情報は入っているので、ある程度は誤魔化せるが。


ゴードン 「…しかし、何なのだ、あのリュージーンとか言うガキは…」


ミィの報告によれば、三体のスケルトンを従魔として従えているとか。しかも、そのスケルトンは冒険者登録もしているという。


さらに、リュージーンは転移魔法を使うという事だ。とても信じられない。転移魔法など、子供向けのおとぎ話に出てくるだけの絵空事だろうと思っていた。


確かに、王宮には王族の緊急脱出用の転移装置があるという噂はあるが、もちろん誰も見た者は居ない。仮にあったとしても、国宝級の古代超文明の遺物アーティファクトだ。それを個人で自由に使える者が居たら、まさに伝説級という事になる。


それだけじゃない、奴は光り輝く剣を使い、一騎当千の騎士や兵士を一人で蹂躙・瞬殺してしまうほどの実力があるとか。なんだその光る剣というのは? 伝説にある聖剣か? 奴は【勇者】なのか?


いや、本部から与えられた、冒険者ギルドから取り寄せたという資料の中に、奴が犯罪を犯した勇者を倒して捕らえたという記録があった。つまり奴自身は【勇者】ではないという事になる。というか、勇者より強いってどういう事なのだ?


さらに記録を見れば、複数のダンジョンを攻略した記録がある。つまり、恐ろしく腕が立つ冒険者であると言う事だ。


ミィの最新報告によると、どうやら王都でSランク冒険者として認定されたらしい。しかも、宮廷魔道士長のドロテアと知り合いで、ガレリア魔法士ランクでもSランクを認定されているとか。


ゴードン 「信じられない事だらけだが……、記録だけ見れば、記録が本当なら、手を出してはいけない相手だと俺にも分かる。だが……」


だが、本部から求められているのはそんな報告ではない。本部からは情報を探れとしか指示されていないが「凄い奴でした」などと報告して済むはずがないのだ。


指令の真意は、奴の弱みを探し出せという事である。弱みを掴み、それを利用して相手を脅し、言う事を聞かせる。今まで何度もやってきた事だ。


ミィの報告からは、本人についての弱みは見つかっていない。ただ、周辺の情報につてはそれなりの成果が上がっている。奴には従魔のスケルトン以外に、二人の女と二人の子供を連れて旅をしているらしい。


転移が使えるはずなのにのんびり旅をしているという事は、情報はやはり誤りなのか? いや、転移には何らかの制約があるのかも知れない、その可能性は高いだろう。これも報告には付け加えておこうとゴードンは思った。


一緒に居るという二人の女のうち、一人は情報がほとんどない。ただ、もう一人はシスターであるとの事。そのシスターと子供二人は、奴隷商に売られていたのを奴が助け出したらしい。


その際、奴は、手足の欠損まで完全に治せるほどの治癒魔法を使ったらしい。なんだそれは? 転移魔法だけでも十分伝説級なのに、治癒魔法も教皇級だとでも言うのか? 規格外にも程があるだろう。


とりあえず、一緒に居る女と子供は奴の弱みになりそうではある。


ただ、どうやら常にスケルトンが護衛についているらしい。三体のスケルトンは指揮官で、配下にスケルトン兵士が大量にいるのだとか。しかも、姿を消したまま常に護衛しているので、女子供に下手に手を出したらタダでは済まないだろうと言う事だった。


付け入る隙がない。


強いて言えば、弱点はやはり女か子供だろうが……。


誘拐して、どこかに隠して人質にして奴に言う事を聞かせるか。転移が使えるとは言っても、どこに連れ去られたか分からなければどうする事もできまい。


問題は、スケルトンの護衛を掻い潜って、どうやって攫うかだ。そのスケルトン軍団の情報が欲しい。


ゴードン 「ミィにスケルトンについて調べるよう、追加の指示を出しておくか……」


少し飲みすぎたようだ。今日はもう寝よう。そう思ってゴードンは部屋に戻り、ベッドに横になった。そして、魔導ランプの明かりを消したところで、部屋の中にソイツが居るのに気づいた。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ミィ、怒りの鉄拳


乞うご期待!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る