第379話 ゴードン「正直スマンかった」

最初から部屋の中に居たのか? あるいは、部屋を暗くした後に現れたのか? 部屋の隅に立っていたのは、金色の骸骨だった。


幽霊?! いや、魔物スケルトンだ!

 

戦わなければ……だが、奴の放っている悍ましい邪気のあまりの圧力に身体は動かず、声も出ない。緊張で、酒もすっかり冷めてしまった。


身動きできないでいると、ソイツは、人間の言葉を喋った。


ランスロット 「ゴードンさんですね?」


ゴードン 「ど、どこから入った?」


ランスロット 「どこからでも……我々は闇の中を抜けてどこへでも行けますので」


ゴードン 「俺に、何の用だ?」


ランスロット 「用があるのはあなたのほうではないのですか? 我々の事を探っていましたよね? 私達について、知りたいなら教えてあげましょうか?」


ゴードン 「何の事だか……」


リュー 「とぼけなくていいんだよ」


影の中から現れたリューに驚くゴードン。


ゴードン 「お前は…リュージーン!」


リュー 「何故俺の事を知ってるんだよ? 会った事ないだろ?」


ゴードン 「いや、その、そう、見かけた事があったんだよ、以前……」


リュー 「とぼけなくていいって言っただろう? ミィからすべて聞いているよ。奴隷ギルドの命令で、俺の情報を探ってた事をな」


ゴードン 「馬鹿な、ミィが喋るはずがない。喋るなと命じてあるのだから」


リュー 「語るに落ちてる、それじゃぁ認めたも同じだ」


ゴードン 「ぐ……」


ゴードンは戦っても勝ち目はないと思い、なんとかドアを抜けて外に逃げようと考えていた。下の食堂にはまだ大勢人が居る。階段を降り、食堂に転がり込めれば、コイツラも迂闊な事はできないはずだ。


ゴードンは一度、気付かれないように静かに深呼吸をすると、一気に走り出した。


だが……


部屋のドアがあったはずの場所には、何もなかった。宿の部屋に居たはずなのに、気がつけば、周囲に何もない、洞窟のような空間に居た。


不思議な事に、壁や天井がうっすら光っており、周囲を見る事ができる。この感じは、見覚えがある。昔、冒険者だった頃、何度も潜った事がある洞窟型のダンジョンの中が、こんな風だった……


ゴードン 「これは……


…転移魔法……」


リュー 「そういう事だ。そしてここは、とあるダンジョンの中、お前とのお話し合いのために特別に作った空間だ。入口も出口もないから逃げられはしないぞ?」


ゴードン 「ふ、はははは……報告通り、本当に規格外なのだな。完全にお手上げだ。Sランクになったそうだな? 元Cランク程度の俺ではまったく歯が立たんだろう、降参だ。…何が訊きたい? 俺に分かる事なら何でも答えよう」


リュー 「別に、訊きたい事など何もないが」


ゴードン 「何? 俺をこんなところまで攫ってきて、じゃぁ一体何が望みだ? 一介のエージェントの俺にできる事は少ないぞ?」


ランスロット 「別に、何も望みなんかありません」


リュー 「ただ、俺の姉さんがえらく怒っていてなぁ。ミィを弄んだエージェントにお仕置きしたいんだってさ」


そして、床に魔法陣が浮かび、ヴェラとミィが転移してきた。


ゴードン 「ミィ! おまえ、一体……


…そうか、おまえ、奴隷から解放されたんだな……?


そうか……良かった……」


ランスロット 「勘が良いですね、説明する前に…」


ゴードン 「お前達の規格外の力が分かるにつれて、こんな事もあるんじゃないかと薄々は想像してたんだよ。


何にせよ、ミィが解放されたのなら良かった。仮にお尋ね者になったとしても、お前達と一緒なら大丈夫だろう」


ヴェラ 「良かった? 散々ミィを弄んでおいて、良かったなんて言う資格があるの?」


ゴードン 「う……済まない。ミィの魅力に負けてしまったんだ。いけない事とは分かっていたのだが……」


ヴェラ 「今更そんな言い訳で、許されると思ってるの?」


ランスロット 「ちなみに、ランドというエージェントをご存知ですか? 冒険者でもあったようですが」


ゴードン 「ああ、知っている。エージェントの中でも特に下衆な奴だった。ミィの身体を傷つけて楽しんだと吹聴してた奴だ」


ランスロット 「よくご存知で。そのランドですが、今、こんな感じです」


ランスロットがいつの間にか手に持っていた物体を掲げる。よく見れば、それはランドの生首であった。


ゴードン 「! …殺したのか……」


ランスロット 「いいえ、死んではいません。ほら」


ランスロットがランドの生首を回して首の断面をゴードンに見えるようにすると、その断面には魔法陣が浮かんでいた。


ランスロット 「首はまだ、亜空間を通じて繋がったままです。まぁ、身体のほうは、ミィさんの身体を傷つけた報いで、同じ様に痛みを味わって頂いていますが」


ランド 「ご……ごべんださい……もう許してください、反省じでまず……」


ゴードン 「ちょっと頭がついていかないが……俺にも同じ様にお仕置きが待ってるわけだな?」


リュー 「それは、ミィ次第だ」


ミィが前に進み出てきた。


ミィ 「私は奴隷から解放されました。違法な隷属契約だったので、解放は合法だそうです。借金もなしになるそうです」


ゴードン 「そうなのか? そうか……借金奴隷の逃亡は極刑だからな。そうでないなら、良かった……」


ミィ 「見て下さい」


ミィは突然服を捲くりあげた。ぎょっとしたゴードンだったが、ミィの体を見て、また別の意味で驚く。


ゴードン 「……傷が、ない?」


ミィ 「はい、リューさんに治してもらいました」


ゴードン 「そうか…良かったなぁ」


ヴェラ 「何を喜んでるのか知らないけど、ミィを弄んだ奴は、見つけ次第切り刻んでやる事になったのよ。当然、あなたもね」


ゴードン 「…分かった。覚悟はできてる。


…できたらひと思いにやってくれるとありがたいが、そうはいかないんだろうな」


ヴェラ 「……」


ミィ 「あなたは、私を、何度も抱きましたよね」


ゴードン 「ああ……済まなかった……許してくれ」


ミィ 「…好きでもない男達に抱かれるのは辛かったです」


ゴードン 「…ミィ、多分最期だろうから言わせてくれ。俺は……お前に本気で惚れていたんだ……悪いとは思ったんだが……」


ミィはつかつかとゴードンに近づくと、ゴードンの顔面にパンチを叩き込んだ。


ミィ 「謝って済むか!」


ゴードン 「ぐ……済まん」


ミィ 「だけど……


…あなたは他のエージェントと違って、暴力は振るわなかった…。


私の身体についた傷を見て、可哀想と言ってくれました。だから……苦しめないで一思いにやってあげます」


ミィは剣を抜くと、ゴードンの胸に向けた。もう覚悟を決めているのか、目を閉じるゴードン。


ミィの剣がゴードンの心臓を貫いた。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リリィの特殊能力スキル


乞うご期待!



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