第542話 才能がないらしい…orz

不死王 「【入れ替え】方式ならば、転移先のモノが裂けてしまうという事はないが……転移先のモノがくり抜かれて転移元側にそっくり来てしまうのが難点じゃ。入れ替えたものが空気なら何も問題ないが。今やったように、土や岩だと、問題はない…こともないが、もし生き物だったとしたら……?」


リュー 「ああ、それは……」


リューは転移先の人間や動物の一部分が転移元に出現したグロい光景を想像して少し眉を潜めた。


不死王 「転移魔法では【融合】は発生しないようになっておるが、それでも事故は起こりえるわけじゃ。それを避けるためにも、確実に安全な場所である事を確認してから転移する必要がある。


転移魔法の術式によっては、事故を自動的に回避する処理が組み込まれているものもあるがの。


例えば、転移先に障害物があった場合、転移先の座標を安全な場所まで自動的にずらすとか、安全でない場合は転移そのものが発動しない、などじゃな。


じゃが、“発動しない” というのは緊急時に困る事があるので好ましくない。また、ズラすというのも、場合によっては際限なくズラす必要があるので、意図した場所とまったく違う場所に出てしまうケースもありうる。転移の事故は起きなくとも、出た先が安全であるとは限らんからの。


結局、一番多く採用されたのは、転移場所を予め設定しておいて、その場所にしか転移できないようにする方式、いわゆる設置型転移魔法陣や、ゲート型転移装置じゃな。


ゲート方式はかなり便利ではあるが、自力で移動する必要がある。動かないモノを転移させる事はできんわけじゃ。


物体を転移させるとなると、やはり、リューがやっていたように、転移先を視認してから発動するほうが使い勝手は良い。


そのためには、転移先の状況を発動前に確認する事がとにかく必須となるわけじゃが…」


リュー 「だが【神眼】が使えなくなってしまった。なんとか見えるようにならないか?」


不死王 「うむ。そのために、【空間探知】という魔法が開発されたのじゃよ、転移魔法にはセットで使われるのが普通じゃ。もちろんリューに渡した時空魔法の仮面にも組み込まれておるぞ?」


リュー 「え、そうなのか?!」


不死王 「これは、系統的には【鑑定】の上位の魔法に当たる。が、あくまで空間把握に特化されておる。お主が使っていた【神眼】ほど万能ではないが、極めれば、世界の裏側や宇宙の彼方でも探知可能になる……」


リュー 「なんだ、それを知ってれば、すぐにでも転移が使えたんじゃないのか?」


不死王 「レベルが低いウチは近くしか見えんがの」


リュー 「……」


リューは早速、時空魔法制御用の黄金の仮面を装着し、【空間把握】を試してみた。なるほど、そういう魔法があると知っていれば、仮面から使い方が感覚的に伝わってくる。発動すると、室内の空間の形状・配置・位置関係が感じ取れる。だが、狭い範囲だけであった。せいぜい半径30mといったところである。


不死王 「この魔法はなかなか繊細な技術が必要での。いくら無限の魔力があるリューであろうとも、慣れないウチは難しかろ?」


リュー 「おうふ……」


リューは無理して知覚範囲を広げてみようとしたが、遠く離れるほどに、映像が乱れて見えなくなってしまうのであった。どうやら、動力(魔力)の問題ではなく、感度の問題らしい。(つまり、リューのアンテナの精度があまり良くないという事らしい。)


そもそも、不死王がリューを呼び寄せて特訓する事にしたのは、【空間魔法】だけでなく、その他の魔法についても訓練するためであった。


不死王は、魔法を使っていればリューはすぐに仮面なしで自在に魔法が使えるようになる日がくると思っていたのだが、思った以上に上達が遅かったのだ。その原因を調査するためにリューに特訓を課しつつ調べてみたのだ。


だが、つきっきりで直接リューの魔法の訓練を観察してみた結果……リューはどうも魔法が苦手であるという結論になったのであった……。


リュー 「マヂか……」


不死王 「うーむ、この世界に生まれる前、魔法のない世界で生きていた影響があるのかもしれんのう……」


練習しただけ、上達はしている。だが、その上達速度は早いとはお世辞にも言えず。このペースでは、全ての魔法を極めるのには数百年は掛かりそうであった。


ましてや難しい魔法の術式を理解して自作できるようなレベルになるまでには、さらにその数倍の年月が掛かりそうであった。


まぁ、数百年など、不死王にとっては一瞬の事。竜人であるリューにとってもそれほど無理な年月というわけでもないのだが。


不死王 「まぁ、それでも、【神眼】がなくなった事は、お主にとって良かったかも知れぬがな」


リュー 「?」


不死王 「その昔、人の心や過去が見える特殊なスキルを持ってしまった者がおったのじゃ。そのスキルが発現したあと、制御できるまでに時間がかかっての。その間に、出会う人すべての暗い過去や心の闇を強制的に見せられ、人間不信に陥ってしまったのじゃよ。制御できるようになってからも、油断すると、見えてしまうのでな。なるべく人と関わりを持たぬように、隠れるように生きていたのじゃが……結局、最後には気が狂って自殺してしまったのじゃよ。人の心の闇を見すぎた結果なのじゃろう」


リュー 「ああ、分かる気がする。俺もなるべく見ないようにしていたからな。人の心の闇は、深すぎる……」


不死王 「儂が見たところ、生まれて死んで、生まれ変わるのを短いサイクルで繰り返す人間のほうが、寿命の長い種族よりも業が深いように思えるの。


儂のように、一度も死んだり生まれ変わったりした事がない者は、心は清くシンプルなもんじゃがのう…」


リュー 「清くシンプルねぇ……」


     ・

     ・

     ・


結局リューは、それから二ヶ月ほど、不死王の元で特訓を続けた。


おかげで、【空間把握】については数キロ程度の範囲であれば空間把握が可能になった。あとは使い続けて熟練度レベルを上げていくしか無いらしい。


ただ、そもそも、行き先が安全な場所だと分かっているなら、確認なしに転移しても問題ないのだから、つまり、安全な亜空間を作り出し、そこに転移してしまう事は可能なのである。出る時だけ、亜空間から “外” を確認すれば住む話なのだ。不死王の指導で時空魔法全般がかなり使いこなせるようになったので、それが可能になった。亜空間への転移は、緊急避難技としては十分であろう。


ランスロットのように、亜空間の出口をはるか遠い場所にまで繋げられるようになるには時間がかかりそうだ。ただ、念話が通じる相手の場所の周囲は【空間把握】が使える事が分かったので、ランスロットに先に行ってもらい、その気配を頼りに周辺の空間を把握するという事が可能になった。


リュー 「なんだ、これでいいんじゃん……」


ランスロットの協力が必要になるのが若干心苦しいのは変わっていないが、いずれ、自力で移動できるようになるまでは仕方がないだろう。


さらに、転移のためのアンカーポイントを設置しておく事ができるようになった。いわゆる設置型の転移魔法陣である。術式を理解していないので魔法陣を自力で描く事はできないが、自動的に魔法陣を描いてくれる術式を不死王が仮面に組み込んでくれたのだ。


ただ、転移魔法陣は起動に膨大な魔力を必要とするため、普通の人間の魔力では起動できないのだが。おそらくケットシーなど膨大な魔力を持った種族であれば、一日一回程度であれば起動可能だろうという事であった。(つまり、ヴェラならば使える。)


魔法の上達が遅い問題も、不死王のくれた仮面を使えば自在に魔法は使えるのだから、特に問題はない。






ちなみに二ヶ月の間、エリザベータは暇なので、不死王が研究所の中に用意してくれた宿泊室を拠点にして、ランスロット達と共に不死王のダンジョンでレベル上げに勤しんでいた。


だが、それもはじめのうちだけで、最近はエリザベータの体調が思わしくないようで、ダンジョンに行かずに休んでいるようになった。それを心配したリューが不死王に診てくれるよう頼んだのだが……


(不死王ならば服を脱がせて診察や検査をする必要もない。ひと目鑑定れば全て分かってしまう)


そして告げられたのは、なんと、エリザベータの妊娠であった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


子供誕生


リュー (なんだ、この可愛い生き物は…?)


乞うご期待!



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