第367話 王都のギルマスと模擬戦

ユーセイ 「いや、やっぱり模擬戦はやめとこうよ。面倒くさ……もとい私も忙しいからね」


リリィ 「ん? いま面倒くさいとか言いかけたか? まぁそう言わず、軽く慣らし程度でいいからさ! 私もリュー達が戦ってるところ見た事ないから、どの程度なのか判断つかんのさ」


ユーセイ 「リリィ、一緒に何か依頼クエストでも受けてみたらどうだい? しばらく一緒に行動してみれば、彼らの実力も人となりもよく分かるだろう」


リリィ 「ああ、それもいいね。まぁ、それはそれとして、模擬戦も見てみたい。さぁ、訓練場に行くよ?」


ユーセイ 「どうしてもらなきゃ駄目かい? ん~そうだ、まずはウテナが相手してみなよ!」


ずっと黙って話を聞いていたウテナであったが、突然話を振られ、真っ青な顔で首をブンブン振って拒否するのであった。


ウテナ (あんなとんでもない魔力を使える化け物と戦うなんて、命がいくつあっても足りないわよ……)




   * * * * *




ギルドの訓練場に移動したリューとユーセイ。リリィとランスロット達スケルトン三人組とヴェラ、それにウテナが観客席に入る。


さらに、後からギルド内に居た冒険者達が何人か、野次馬で入ってきた。この世界は娯楽が少ないので、面白そうな事があると野次馬するのは当たり前なのだ。


リュー 「一人で全員相手にするのか?」


ユーセイ 「さすがに、代表者一人でお願いしたいかなぁ~、Sランクになろうって者の相手に、私一人で全員はさすがにちょっと」


リュー 「そりゃそうか、じゃぁランスロット、代表で」


リリィ 「そこはリューがやるところでしょ! あなたがリーダーでしょ!」


リュー 「実質的に指揮官はランスロットな気がするんだが……軍団レギオン指揮してるのランスロットだし」


ランスロット 「ホネホネ団パーティのリーダーはリューサマですから」(きっぱり)


リュー 「俺がリーダーだっていうなら、まずパーティの名前変えたいんだけどなぁ……」


ランスロット 「それは不許可です」(きっぱり)


リリィ 「じゃぁリューよろしく!」


リューが訓練場の中央に出ていく。


ユーセイ 「よかった、スケルトンよりは人間を相手にするほうが少し気が楽だ。あ、人間じゃなくて竜人だったか」


リュー 「しかし…、さすが、王都の冒険者ギルド、訓練場も広くて立派だよなぁ…」


リューは訓練場の中央に進みながら、周囲をキョロキョロ見回していた。


ユーセイ (チャンス!)


まだ構えてもいなかったリューに向かって、ユーセイは開始の合図を待たず不意打ちに近いタイミングで攻撃を仕掛ける。


Aランクの中でもおそらくトップを競うレベルの実力があるユーセイ。だが、相手はAを一気に超えてSの認定を受けようという怪物である。当然、実力は自分より上である可能性が高いとユーセイは判断したのだ。


相手を舐めて掛からなかったのは、さすがAランクと言えたが…まぁ、前日の魔力測定の一件があったからこそなのだが。


ユーセイはリューの膨大な魔力を見ている。そこから、おそらくリュージーンは魔法使いなのだろうと判断した。特に魔法王国と言われるこの国においては魔力が重視される。あれほどの魔力、まともに魔法を使わせたら歯が立たない可能性が高い。


ならば、魔法を発動する前に勝負をつける、それが剣士が魔法使いに勝つセオリーである。ユーセイは魔法があまり得意ではない剣士だったのである。


卑怯と言われても、なりふりかまっていられない。不意を突いて、自分の全力を投入して、一瞬で勝負をつけたほうがいい。そうユーセイは決断し、攻撃を仕掛けたのだ。


そして実は、ユーセイの能力スキルは、【加速】である。魔力を消費することで、相手の数倍、瞬間的になら数十倍も速く動く事ができるのである。魔法が得意ではないユーセイが王都ナンバーワンとまで言われるのは、この能力スキルのおかげである。どんな魔法使いも魔法を発動するのには呪文詠唱などのタイムラグがどうしてもある。その間に相手を斃してしまうのだ。


ユーセイは一瞬に能力を全てを投入した。【加速】を全力で発動、瞬間的にだが、通常の百倍もの速度である。


ユーセイはその速度域で、まだ油断しているリューに向かって “突き” を放った。しかも、予備動作なしで最短距離を進む最悪の(最高の?)突きである。木剣であるが、この速度では人間の肉体など貫いてしまうであろう。


案の定、剣がリュージーンの身体を刺し貫く。


ユーセイ (しまった、やりすぎてしまったか?)


だが、確かに貫いたと思えるタイミングであったが、剣の先に居たはずのリューの姿は、気がつけば消えていた。


そして、リューが自分の後ろに立っている事にユーセイは気づいた。慌てて飛び退きながら振り返るユーセイ。


リュー 「最悪のタイミングで攻撃してきたなぁ。いや、最高のタイミング、か?」


ユーセイの攻撃は絶妙なタイミング、呼吸であった。並の相手なら確実に勝てていたであろう。


だが、リューには【危険予知能力】がある。


ユーセイが攻撃を決断した数秒前、予知能力が既にリューに危険を知らせていた。


ただ、予知に寄る危険信号をリューが認識し、反応するのにもややタイムラグがある。


油断していたリューの反応はやや遅れた。


そのままなら、攻撃が成功し、ユーセイが勝ったであろうタイミングであった。


だが、リューが予知した危険アラートは、“緊急” “重大” であった。そのため、リューは状況もよく分からないまま、咄嗟に時間を停止させたのだ。


リューが時間を止めた時、ユーセイの剣はリューの身体の数ミリ手前まで来ていた。


リュー 「おお? 危なかったな。油断大敵、反省しないといけないな…」


仮にリューに剣が当たっていたとしても、次元障壁の鎧によって守られているリューの身体にダメージはなかったとは思われるが。


リュー 「では、今度はこちらから反げ「参った!」」


リュー 「え?」


ユーセイ 「参りました、俺の負けだ。今ので十分分かった、俺の勝てる相手ではない」


即座にユーセイが降参し、模擬戦は終了となった。


ユーセイ 「…卑怯な真似をしてすまない。まともに戦っては勝ち目があるか分からなかったのでな。それでも歯が立たなかったようだが」


ランスロット 「相手に敵わないと判断しての奇襲攻撃。なかなか良い判断ですな。さすが王都のギルマス、Aランクの中でも抜きん出た実力がありそうです」







ユーセイは驚いていた。勝てないかも知れないとは思っていたが、善戦はできるだろうと思っていたのだ。


だが、自分の絶対の自信のあった最速の攻撃を躱され、しかも背後を取られてしまった。


何が起こったのか分からなかった。何か、縮地のような、瞬間移動的なスキルを持っているのかも知れない。


ユーセイは、面倒くさいなどと言いながらも、実はかなりの自信があった。自分の【加速スキル】を持ってすれば、今まで、負けた事はなかったのだから。


ユーセイ 「上には上が居る、か。世界は広いな…」


正直、これほど差があるとは……どれくらい力量に差があるのか実感がまったくないほど桁違いの相手である事をユーセイは理解したのだった。






ランスロット 「では、試験は合格と言う事で?」


リリィ 「まだね。…って元から不合格にする気はないんだけどね。物理戦闘能力も問題なし、と。ただ、もう少しだけ、確認させて欲しいかなぁ」


ランスロット 「なかなか甘くないですな」


リリィ 「そりゃ、Sランク認定だからねぇ、簡単に出してしまうと納得しない人が多いんじゃないかしら?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ところでリュー、気付いている? ミィは奴隷よ?


乞うご期待!


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