冒険者編

第30話 待ち人(リュウジン)来らず

冒険者ギルドにリュージーンが現れるのを待つ間、キャサリンは、ギルド職員にリュージーンについて知っている事を聴取してみた。

 

この男―――16歳だそうなので“少年”と言ったほうが年齢的にはあっているか―――は、三年前に冒険者登録したが、その後、薬草摘みなどの無難な仕事しかしていなかったらしい。

登録時には13歳だったのだから、それも当然かも知れないが、何故かレベルがずっと1から上がらなかったという事も理由としてあったようだ。レベルがずっと1、クラス(職能)もスキルも何も持っていないという事で、冒険者の間では無能と蔑まれたりもしていたらしい。

 

だが、三年も居て、薬草摘みとは言え、毎日休まず真面目に勤めていたし、気弱だが礼儀正しく優しい性格から、職員からは悪い印象を持たれてはおらず、特に受付嬢のレイラは、リュージーンが冒険者に登録した時に担当した事もあり、ずっと気にかけていたという。

 

ギルド職員は皆、前ギルマスの仕打ちが酷いとリュージーンに同情的であった。

 

ただ、先だってのダンジョン攻略レイドに参加し、置き去りにされるという事件があってから、リュージーンは人が変わったという。

 

元々薬草採りしかしていなかったリュージーンが突然レイドに参加したのも、どうやら騙されての事だったとか。

 

レイドはダンジョンの深層でドラゴンに蹴散らされ失敗に終わったのだが、その時、レイドの冒険者達はこの少年を囮にして逃げ延びてきたらしい。

 

逃げられないように少年の足の筋を切り、結界石と偽って自爆石を持たせて置き去りにしたのだとか。酷い話だ。

 

レイドに参加していた冒険者達には罰を……と思ったキャサリンだったが、レイドに参加した冒険者達は、何故か全員街から姿を消してしまったという。

 

リュージーンが復讐のため殺したという噂話もあるようだが、Fランク冒険者が、CランクやBランクの冒険者を次々殺すなんて事ができるだろうか?いや、できるわけがない。

 

しょせん噂は当てにはならない。おそらく、リュージーンが生きて戻ったことで、冒険者達はバツが悪くて、あるいは罪を追求される事を恐れて街から去ったというところだろう。

 

その後、リュージーンはランクアップ試験を受け、合格したそうだが、なぜか登録ランクは初心者が最初に認定される“F”のままになっている。

 

試験には問題なく合格、それどころかCランクBランクの冒険者複数をリュー1人で打ちのめしてしまったという。

 

それでなぜFのままなのか? その理由をレイラに尋ねてみたところ、実は登録時のリューのランクはGであり、試験合格後も前ギルドマスター・ダニエルが難癖をつけて一つしかランクアップを認めなかったのだと言う。

 

その話を聞いてキャサリンは頭を抱えてしまった。最初のG判定はともかくとして、試験に合格したのなら、しかもBランクパーティを倒す実力があるなら、Bとは言わないまでも、最低でもEランクは認定しても良かったはずである。

 

その後さらにダニエルは、リュージーンが依頼を受注する事を禁止、さらにリュージーンからの素材の買取を禁止するという処分を下したのだとか。(処分の理由はよく分からなかった。リュージーンが隠し事をしているのが悪いとか、卑怯だからだなどと、ダニエルは意味不明な事を言っていたが。)

 

冒険者ギルドで素材を買い取ってもらえなかった少年は、商業ギルドへ向かったという。

 

結果、貴重なドラゴンの素材をすべて商業ギルドに押さえられてしまう事になった。冒険者ギルドにとっては大損害である。

 

しかも、依頼の受注を禁止されているリュージーンのためなのだろう、商業ギルドが冒険者に対して素材採集の依頼を出すようになったのだ。

 

ドラゴンを狩ってこられる冒険者がフリーになっているのだ、商業ギルドとしては確保に乗り出すのは当然すぎる判断だ。

 

そして、やがて、他の冒険者も、冒険者ギルドより条件の良い依頼が有るということで、みな商業ギルドに流れ、現在の状況にまで至ってしまったという事であった。

 

その後、随分後になってから、ダニエルはリューにランクアップの打診をしたそうだが。リュージーンはギルドの仕打ちにすっかりヘソを曲げてしまっており、ランクアップを拒否しているという。

 

話を聞けば、その反応は当然だろう。

 

だが、問題のダニエルは既に厳しく処分した。それを聞けばリュージーンも怒りを和らげてくれるだろう。完全に信用してもらうのは時間が掛かるかもしれないが、それは今後、前向きに努力していけばよい。

 

とりあえずキャサリンは、リュージーンが顔を出したらギルドマスターの執務室に案内するように職員に―――受付嬢だけでなく、すべての職員と、少ないがまだ出入りしている冒険者にも―――指示を出しておいた。これなら行き違いも起きないであろう。

 

 

 

だが……

 

 

 

リュージーンがいつまで待てども現れないのであった。

 

リューは最近、パッタリと冒険者ギルドに顔を出さなくなっていたのである。

 

おそらく商業ギルドで依頼を受けていて忙しいのに違いないとキャサリンは考えた。

 

そもそも、前ギルマスのこれまでの行状を聞けば、リュージーンが冒険者ギルドに見切りをつけてしまうのは当然と言える。

 

仕方がないので、キャサリンはリュージーンの家に人をやり、ギルドから呼び出しがかかっていると伝えてもらった。

 

 

 

伝えてもらったのだが……

 

 

 

やはり、いつまで経ってもリュージーンは来ない!

 

痺れを切らしてギルドの職員を直接迎えにやってみたが、

 

「忙しい。」「こちらの都合も考えず偉そうに呼び出すな。」

 

と応じて貰えなかったとか。

 

そうか、そこまで冒険者ギルドに敵意を持ってしまったのか……

 

……マズイ!!

 

非常にまずい状況である。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

リューの住む家はどこだ?!

 

乞うご期待!

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る