第238話 リュー、ドロテアの魔法障壁をアッサリ破る

リュー 「正直にに言うが、俺は魔法が下手なんだ、手加減ができん。死ぬかもしれんぞ?」


ブラギ 「リンジット様、それは危険過ぎます、お止め下さい」


ドロテア 「あ、いや、スマン。私に向かってというのは語弊があったな。いや、いよいよとなれば正面から対峙する必要もあるだろうが、とりあえず今は……私がまとに対して、できうる限りの最高の防御障壁を張る。そこに向かってもう一度、魔法を打ち込んでみてくれないか?」


いくら冒険者ギルドの訓練場の魔法障壁を設計したのがドロテアであるとは言え、魔石を原動力に使った魔道具で発生させる障壁には限度がある。ドロテア自身が得意とする障壁の魔法の能力と同等の効力を発揮するわけではない。


かつて、ドロテアは隣国(フェルマー王国ではない)に攻められた時に、城壁すべてに魔法障壁を張り、敵の全ての攻撃を、援軍が来るまでの数日間、完全に防ぎ切って見せた事があるのだ。それによって “不滅の要塞” という二つ名で呼ばれるようになったのである。その魔法障壁には絶対の自信を持っていたのだ。


ドロテア (さすがに、私の本気の障壁は破れまい)


リュー 「考えてみたら、魔法で障壁を張るところを見たのは初めてだな。ちょっと鑑定してみてもいいか?」


ドロテア 「君は【鑑定】もできるのか、構わんよ」


魔法障壁を展開するドロテア。それをじっと見るリュー。(マスクの効果で目が光っているのは周囲からは分からなくなっている。)


リュー 「……………なるほど、物理耐性だけでなく、全属性魔法対応の障壁か。火・水・風・土、雷、さらに光と闇にも対応している…」


ドロテア 「私の十八番、絶対障壁だ。世界広しと言えど、全属性に対応できるのは私一人だろう。これを破れる魔法使いは居ない」


リュー 「時空属性はないようだが?」


ドロテア 「時空属性には攻撃能力はないしな。それに時空属性の魔法は使い手も居ない」


リュー 「魔法王国の王城には転移魔法陣があると聞いたが?」


ドロテア 「あれを駆動するためには、数百人の魔法使いが数カ月間休まず魔力を注ぎ続け蓄積し続ける必要があるんだ。それでやっと一回使えるようになるだけ。時空魔法は実用的とは言えないのだよ」


リュー (俺は自在に使えるけどな…)


リュー 「ええっと…じゃぁやってみようか?」


ドロテア 「ああ、頼むよ」


早速、リューが先ほどと同じ、火炎を放射してみる。だが、障壁に守られ、的は(壁も)無傷であった。


ドロテア (よしっ! ほれみろ、この不滅の要塞の障壁が破れるはずはないんだ)


リュー 「おお、凄い。じゃぁ、もう一回、今度は手加減なしでやっていいか?」


ドロテア 「ああ、何度やっても無駄……ってさっきのは全力じゃなかったのか?」


リュー 「あれでも必死で威力を押さえた結果なんだが……俺が本気で撃ったら、壁の向こう側の山が消し飛んでしまうからな」


ドロテア 「おいおい、さすがにそれは、大ボラが過ぎるだろう、やれるものならやってみせてぇぇええええええ?! 嘘だろ~~~~!」


リュー 「まだ全力じゃないけどな……」


リューが再び放った炎の奔流は、的を一瞬にして消滅させ、壁を消滅させ、訓練場の裏にあった山を削り、大空に抜けていったのだった……


リュー 「名付けて『波動砲』…なんちて」


※訓練場の中に設けられた魔法の射撃練習場は、一応、万が一を考えて、その壁の裏側に街などがない荒野に向く方向に設定されている。そのおかげで、貫通した炎による人的被害はないはずであった。山の中に居た野生動物に被害はあったかも知れないが、それは仕方がない。


そして、実は氷系の魔法には限界があるが、熱の魔法にはその威力に事実上上限がない。(※絶対零度がわずかマイナス273度であるのに対し、高温側の温度は天文学的数値となってしまい上限は未知である。魔力が無限に供給できるのであれば魔法で上限温度を実現する事も可能かもしれないが、それをやると星ごと消滅させるような温度領域の話になってしまうだろう。)


リューが膨大な魔力を注ぎ込んで放った炎は恐ろしい高熱となり、その輻射熱は訓練場に居る人間を火傷させてしまうほどだったのだが、そうならないようにリューは次元障壁を張り、目標以外の方向に輻射熱が行かないようカットしたのであった。(実は、ダンジョンの中で実験したとき、危うくリューも焼け死んでしまいそうになった事があったのだ……)


リュー 「だから言ったろう? 俺が魔法を使うと影響が大きすぎて、使えないんだ……手加減の練習をしてるんだけどな」


だが、ドロテアとブラギは口をポカンと開けたまま放心状態のようで、何も答えなかった。


リュー 「じゃあ帰らせてもらうぞ? ヴェラ、行こう、すっかり遅くなってしまった。宿の食堂に迷惑が掛かる」


リューとヴェラの足元に魔法陣が浮かび、二人の姿は消えてしまった。


それから10秒ほどして、ドロテアが我に帰った時には既にリューとヴェラの姿はなくなっていた。


ドロテア 「は、リュージーン? どこに行った? ブラギエフ?」


ブラギ 「そ、それが……消えてしまいました」


ドロテア 「消えた???」


ブラギ 「まさか、今のは…転移魔法?」


ドロテア 「何を言ってる、転移魔法は使い物にならないと言ったばかりではないか。ましてや個人で使うなど……」


ブラギ 「ではリュージーンはどうやって消えたのでしょう?」


ドロテア 「……姿を消す魔法? いや、やはり幻覚(幻術)?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ドロテア、根掘り葉掘り


乞うご期待!



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