第339話 アウェー感のある街

マルタンの街に泊まったリュー達。


翌日は、子供達と一緒に街の中を観光してまわる。特に見るべき観光スポットなどもないごく平凡な街であったが、のどかな街の日常を見るのもリューは嫌いではなかった。


この街では特にトラブルなども起きず。宿にもう一泊して翌朝、リュー達は次の街に向かって出発した。


最近トラブルが少ない理由は、高級宿に泊まっている事もあるだろう。格安で宿を利用させてくれているイルミン(ゼッタークロス商会)のおかげである。


安宿に泊まれば、客層も悪くなり、トラブルに遭う確率は高くなっただろう。そういうのも含めてリューは旅を楽しむつもりであったが、今は子供達も居て大所帯なので、トラブルの少ない高級宿は意外とありがたかった。


また、貴族用の通行証を発行してくれたドロテアにも感謝すべきだろう。


平民の冒険者として街に入城しようとすれば、(ダヤンのように)警備兵とトラブルが起きる可能性もある。どこの街にも意地の悪い警備兵は居るものだからである。


しかし国の最上位貴族である公爵の発行した通行証は、公爵と関わりのある人物である事の証明でもあるので、おかしな態度を取る人間は貴族を含めてほとんどいないのである。


また、この街ではリューは冒険者ギルドに一切顔を出さなかった。冒険者と関わらなければ変なテンプレ展開も起きにくいわけである。


まぁ、大きなトラブルはなくとも、おかしな同行者はできてしまったのだが。マルタンの街へ来る道中で拾ったミィが、王都まで同行する事になってしまったのだ。


ヴェラとモリーとミィの三人は女子トークに盛り上がってしまい、どうせ王都に行くのなら一緒に行こうと言う事になってしまったのである。


女三人、子供や男性陣そっちのけで会話に花が咲き、馬車の旅は賑やかなものとなった。






リュー 「やれやれ、女三人集まると姦しいと言うが……」


ランスロット 「カシマシイ?」


リュー 「ああ、俺が前世で生きてた国の言葉でな、女という意味の文字をみっつ合わせて、賑やかとかやかましいとか言う意味で使ったんだ」


ランスロット 「なるほど、どこの世界も変わらんのですな」


リュー 「そういえば、スケルトンはどうなんだ? スケルトンというのは元人間だったのだから、当然、女も居るのだろう?」


ランスロット 「人間ばかりではなく、亜人種や魔物もおりますが、もちろん女性もおりますよ。そして、三人集まると “カシマシイ” のも同じですね」


リュー 「スケルトンは人間のように声を出して会話するわけじゃないって言ってなかったか?」


ランスロット 「はい、我々は基本的には念話で通じますので、人間のように物理的に音が騒々しいと言う事はないのですが、念話が激しく飛び交いすぎるとやっぱり煩いものなのですよ」


リュー 「へぇ……しかし、スケルトンの女子トークって、シュールだな。何を話してるんだ?」


ランスロット 「基本的には、人間と違いはありませんね、どうでも良い話ばかりですよ」


リュー 「どうでも良いとか言ってると、女性陣に睨まれるぞ?」


ランスロット 「おっと。気をつけますデス……人間でもスケルトンでも、女を敵に回すと面倒ですからね」


リュー 「そこも変わらないんだ……」






ヴェラ 「…少し暑くなってきたわね」


幌馬車のサイド部分の布を巻き上げてオープンにしているので風は抜けるが、季節は初夏を過ぎ、夏を迎えようという頃である。風もかなり暑く感じるようになってきた。


ヴェラが魔法を使って涼しくする。この世界にはクーラーなどというものはないが、氷系の魔法は存在している。(氷系の魔法は水系魔法の派生魔法である。)これで周囲の空気を冷やしてしまえば、夏でも快適に過ごす事ができる。


ただ、氷系の魔法使いは少ないし、結構な魔力を消費するので、そんな風に使う人間はあまり居ないのだが……ヴェラは人間に化けているが、正体はケットシーである。いつもはリューの影に隠れて目立たないが、ヴェラもまた超一流の魔法使いなので何の問題もないのであった。


ミィ 「涼しい……氷系の魔法ですね、すごいですね。でも、魔力は大丈夫なんですか?」


ヴェラ 「疲れたらリューに変わってもらうから問題ないわ。リューの魔力は無限だし」


ミィ 「無限? ああ、無限と思えるほど魔力量が多いって事ですね、なるほど」


ヴェラ 「んーまぁそういう事でいいわ」


冒険者であれば、自分達の能力についてそう他人に話すものではない。ヴェラもそれは理解しているが、女同士の気安い話の中でついうっかり話してしまったのだった。


ミィはリューの能力について調べるためにリューに近づいてきたのだが、ミィがリューについてどれだけ有効な情報を手に入れる事ができるかは、ミィがどれだけリュー達に受け入れられるかに掛かっている。


そのために、思考を縛る命令によって、任務についてはすべて忘れ、単にリューについては何でも知りたいという気持ちにすり替えられていた。


(ミィはリュー達と離れると自動的に任務を思い出すように命じられている。)






旅は順調であった。途中、魔物が出たりもしたが、リューが一人で光剣で瞬殺してみせるとミィが感心してくれる。


ミィについて最初は違和感を感じていたリューであったが、美少女が自分に興味を持ち、何かと言うと凄い凄いと褒めてくれるのに、冷静なつもりであったリューもいつのまにか気持ちよくなって疑問を抱かなくなったのであった。


(モテ経験の少ないリューの意外な弱点であった……。 ※以前、ソフィ王女に気に入られていた事はあったが、あれはあくまで政治的な意図が含まれての事だと思っているので、リューの中ではモテた範疇には入っていない。)






そうこうしているうち、馬車は次の街、パラガンに到着した。この街を通過すれば次はいよいよ王都ガレリア―ナである。


ただ、このパラガンの街は、今までとは少し雰囲気が違う。


ヴェラ 「なんとなく、アウェー感があるわね、やっぱり。この街はグリンガル侯爵の直轄領だから仕方ないわね」


リュー 「ぐりん?」


ヴェラ 「あんたはほんとに地理が苦手よねぇ。ドロテアが言ってたじゃない、王都に隣接してグリンガル侯爵の領地があるって」


リュー 「苦手なわけじゃない、興味ない事は憶えたくないだけだ。メモリー容量を無駄遣いしたくないんだよ」


モリー 「領都グリンガルドとその両隣、パラガンとドルガンの街がグリンガル侯爵の直轄領になっているって言ってましたね」


※魔法王国ガレリアは、王都ガレリア―ナを中心に、放射状に街が広がっている構造になっている。


リュー 「ああ、そんなような事も言ってたな。グリンナンチャラは反王派の侯爵のリーダーとかなんとか?


王都を囲む領地は大半が反エド王派で、エド王は、ぐるりと周囲を敵に囲まれている状況だとか。


王なんだから、親エド派の貴族に領地替えしてしまえばいいのに」


ヴェラ 「そう簡単にはいかないでしょう、王都の周辺に領地を構えている貴族は、みな古くからガレリアに仕える貴族だそうだから。簡単に領地替えなんて納得しないでしょうからね」


リュー 「王の権限で問答無用の強権発動で……ってわけにもいかないか」


ヴェラ 「長い歴史を持つ貴族は権力も強いわ。強力な軍隊も持っている事が多いから、無理やりそんな事をすれば内戦になってしまうでしょうね。というか、反エド王派はクーデターを企んでてチャンスを伺っている節があるってドロテアが言ってたわよね。グリンガル侯爵は、エドワード王を殺して、自分が王になりたいんじゃないの?」


リュー 「まぁ、俺にとっては誰が王でもあまり関係ないんだけどな」


ヴェラ 「あら、エドワード王は色々とリューに権限も与えてくれたじゃない?」


リュー 「別にそんなものは、俺にとってはあってもなくても構わないようなものだ」


ヴェラ 「リューったら、なんだか最近、傍若無人な感じになってきたわよね」


リュー 「そうか? そうか…そうかもしれんな。あまり図に乗らないように、自重しないといかんな。油断は禁物、俺より強いヤツがいるかも知れないからな。謙虚さは大事だ」


ランスロット 「大丈夫ですよ、リューサマには我々がついています。なんでしたら、我々の軍隊レギオンで、この国を攻め滅ぼしてみせましょうか?」


リュー 「いや、そういう気はないから……」


ミィ 「軍団レギオン?」


ランスロット 「私の部下の軍団です。つまり、リューサマの部下でもあります」


(※実はリューが以前より少しだけ傍若無人気味に変わってきたのは、ランスロット達アンデッド軍団を使うようになってからなのだが、リューはその事に気付いていない。)


ミィ 「リューさんは軍隊も持っているんですか? 司令官とか大将とか言う感じ? 格好いいです!」


リュー 「なんか違う気がするんだけど……」






この街でもドロテアの通行証を使用して貴族用の門からトラブルもなくすんなり街に入る事ができた。


街に入ったリュー達は、またいつものゼッタークロス商会の「木洩陽の宿」に向かった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


幼女 「おみずをくだちゃい…」

オヤジ 「邪魔だ! スラムのガキが店の前を彷徨くんじゃねぇ!」


乞うご期待!



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