第338話 一方その頃王城では

王都ガレリア―ナの中央にある王の居城。


現在の王であるエドワードにグリンガル侯爵が謁見を求めてきた。なにやら若い女性を連れてきているそうだ。


グリンガル侯爵 「エドワード王陛下にはご機嫌麗しく・・」


エドワード王 「別に機嫌は良くはないがな。特に敵対する侯爵の訪問とあってはな」


侯爵 「これはなかなか手厳しい。王位を継いでからすこし根を詰めすぎではないですかな? たまには羽目を外して気分転換などしたほうがよろしいのでは?」


王 「余計なお世話だな」


侯爵 「まぁまぁ、そんな国王陛下のご機嫌がよくなりますように、今日は美しい娘子をご紹介にまいりましたぞ? さぁ」


侯爵の後ろに控えていた娘がすすと前に進み出てきた。


侯爵 「我が娘、アンヌでございます」


娘 「アンヌ・グリンガルと申します。陛下にお目にかかれて至極光栄にございます」


美しいカーテシーを披露する娘。歳の頃は十五歳程度であろうか。


(※この世界は十五歳で成人となる。女性は二十歳前後までに結婚しないと嫁き遅れと囁かれ始める。)


娘の顔は、エド王も見たことがないほど美しく整っていた。


王 「…侯爵に娘が居たとは初耳だが?」


侯爵 「ご存知なかったですかな、私の一番末の娘です、なかなかの器量でしょう? 礼儀作法・知識・教養も抜きん出たものを持っています。


長く辺境で冒険者をされていた陛下は、社交界の流儀・作法をご存知ないと思いましてな、アンヌから色々と教えて差し上げられる事があるのではないかと思いましてな」


王 「社交界の作法など、どうでもよい」


侯爵 「王になったのですから、これからはそうは行きませんぞ? それに…


陛下には身寄りがおりませぬ。ガレリア王族の血を残す義務が陛下にはある、それはおわかりでしょう?」


王 「つまり、俺に子供を作らせるために女をあてがいに来た、とそういうわけか」


アンヌ 「……!」


あまり露骨な言い方にアンヌは少し驚いたようであるが、表情は崩さなかったのはさすがというところであろうか。


侯爵 「まったく、国王ともあろうお方が、そのような言葉使いでは困りますな。その辺も含めて、このアンヌから貴族の作法や機微というものを学ばれたらよろしいでしょう」


王 「間に合っているよ、帰ってくれるか?」


侯爵 「ぐぬぬぬ……(このガキめが……)


…陛下が私を煙たがっておられるのは分かりますがな。王になったのに口うるさく言われて自由にできないとお思いなのでしょうが、それは経験の足りない若い王に、忠臣であるからこその進言なのですぞ? それに、私を嫌っていても、何の罪もない若い娘にまで冷たく当たるのは、少々大人げないと思われませんかな?」


『どこかで見た顔だと思ったら…』


その時、闖入してきた者が居た。ダヤンの街からリューの転送で王城へ送ってもらったドロテアである。


ドロテア 「アンヌ嬢は確か、ブトワネット子爵のご令嬢ではなかったか? なるほど、養子にしたというわけか」


突然乱入してきたドロテア。それを見たアンヌの表情が輝いた。


侯爵 「ど、ドロテア殿、出掛けていると聞いていたが。ドロテア殿はアンヌをご存知で……?」


ドロテア 「アンヌ嬢とは以前会ったことがあったな、私のファンの集いとかに無理やり参加させられた事があってな」


アンヌは目がハートになっていた。アンヌも男装の麗人ドロテアのファンクラブに入っていた一人だったのである。


侯爵 「ドロテア殿、今は私が陛下と謁見している最中です、勝手に入ってくるとは、いくら王の腹心の部下とはいえ、無礼ではないですかな?」


王 「構わぬ、俺が呼んだのだ。それともドロテアが居ると何か不都合でもあるのか?」


侯爵 「いえ……ですが、本日は、陛下にとってもプライベートな用件で参りましたゆえ……」


グリンガル侯爵は居丈高な人物である、自分の半分の年齢しかない若造であるエドワード王に対してぞんざいな態度で振る舞ってきたが、王になってからエドワードはみるみる威厳を増していき、その威圧感に今では侯爵がすこしオドオドして見えるほどになっていた。それがまた侯爵にとっては忌々しく歯噛みすることなのであったが……


王 「それに、“部下” ではない、ドロテアも今や王族に連なる者だ、無関係な話題でもあるまい?」


侯爵 「しかし、ドロテア殿は陛下と血の繋がりはないでしょう! 王族でもない者に【公爵】の位を与えるのが、そもそもおかしいのですぞ! 陛下、今こそ、我が娘を娶り、グリンガル侯爵家を公爵家に!」


ドロテア 「そしてゆくゆくはグリンガル家が王族にとってかわりたいというわけか。というか、我が娘とか堂々と言っているが、アンヌ嬢はブトワネット子爵の令嬢だろう?」


侯爵 「養子にしたからには、アンヌは血の繋がった我が子も同然です!」


王 「アンヌ嬢には申し訳ないが、私は、私に反対する勢力の貴族から嫁を貰う気はないのだ。グリンガル侯爵、用件がそれだけならば下がるがよい」


侯爵 「ぐぬぬぬ、そのような態度、後で後悔することになりますぞ」


捨て台詞を残し、侯爵はアンヌを連れて帰っていった。






ドロテア 「侯爵は追い返したものの、ガレリア王族の血を絶やすわけには行かないというのも一理ある、エド、その辺も早急に考えて行かなければな」


王 「私は、君さえよければ、私の妻になって欲しいと思っているのだがな。ダメだろうか?」


ドロテア 「ふふふ、何回目のプロポーズかな。幼い頃から何度も懲りないね。でも、悪いけど、赤ん坊の頃から知ってる、オシメを変えてあげた坊やと、そういう気にはなれないのだよねぇ……だいたい、年の差がどれくらいあると思ってるのだ?」


王 「ダークフォークである君は人間よりはるかに長生きだ。その長い人生を考えたら、私達程度の年齢差、何も気になるまい? それに、君の魔力と私の、ガレリア王族のスキルが合わされば、優秀な跡継ぎができるだろう?」


ドロテア 「ま、まぁ、私の事は置いといて。王族の血はできるだけたくさん残す必要がある。若い気に入った娘が居たらどんどん手を出して、子供を作ればいい、私は気にしないぞ?」


王 「私が気にするのだがな…」


ドロテア 「まったく困った子だ。だが、今やガレリアの血を継ぐ者はエドただ一人。もしエドの身に何かあったら、王家の血が途絶えてしまう事になる。それは分かっているのか?」


王 「……実はな、王族は私一人ではない。極秘事項になっているが、私には妹が居るのだよ……」


ドロテア 「へ?」



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


再びリュー達の馬車の旅

ミィが加わり、次の街行きます


乞うご期待!


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