第387話 なんとリューが負けた?!
いつの間にか、リューの手には光剣が握られていた。時間を止めて、周囲の戦闘奴隷全員の首をリューが斬り落としたのである。
次元断裂を使ったほうが簡単で手間もないのだが、光剣を使えば血が出て汚れる事がないので、最近はこちらを使うようにしている。
ヒショ― 「……へ?」
リュー 「言ったろ? 千人来ても相手にならんと」
ヒショ― 「そ、そんなアホなっ! なんでや~~~!! 何をしたんや~~~!?」
リュー 「剣で首を斬り落としたんだが?」
手に持っている光の棒をヒショーに向けるリュー。その光の棒は、振るとブンと音が鳴る。
ヒショ― 「まったく見えんかった……ゼヒロ、お前は見えたか?!」
ゼヒロ 「ひっひっひっひっこりゃあいいや! 最高にヤバイ奴が出てきたな!」
ヒショ― 「おお、見えたのか?! さすが元Sランクだな?」
ゼヒロ 「いや、何が起きたのか、俺にもまったく見えなかったぜ!」
ヒショ― 「ガクッ」
今度は自分の番だと、ゼヒロがリューの前に進み出てきた。
ゼヒロ 「楽しめそうだな? ワクワクするぜ! 強い奴と戦う、それが最高のギャンブルよ! 俺より強い奴がいないんで、つまらなくなって冒険者辞めたんだが、久々に楽しめそうだな?」
ゼヒロはリューのほうに腕を伸ばし、指を開いて掌を見せてきた。
リュー 「……?」
ゼヒロ 「おいさっさとしろ、まずは力比べからだ!」
周囲で見ている者達は、手を伸ばしたゼヒロが魔法でも放つのかと思ったのだが、ゼヒロはリューに手を組んでほしかっただけらしい。
リューも、危険予知にも反応がなく、神眼でも攻撃の意図が発せられたのを確認できなかったので動かなかった。どうやらこの男は本当に力比べがしたいらしい。
リュー 「変な奴だな…」
ゼヒロ 「俺の取り柄はパワーだけでな。他に特に能力はないんだ。だから、相手に実力を知るために、まずは力比べするのが手っ取り早いんだよ」
リュー 「そうなのか、まぁいいだろう」
リューは剣を納めると、手を伸ばしゼヒロの手を掴んだ。もう片方の手も握りあい、力比べが始まる。
だが、そこでリューは驚愕する事になった。確かに言うだけの事はある、一瞬にしてリューが力負けしてしまったのである。
握った両の手を上から押さえつけるように力を掛けてくるゼヒロに、思わず膝を着いてしまったリュー。
だが、すぐにゼヒロも驚いた顔をする事になる。リューが再び押し返して立ち上がったのだ。
リュー 「レベル上昇を久々に使った。さすが、元Sランクだな」
リューの竜人レベルは普段はずっとレベル1のままである。それでも基礎体力も上がっていて、人間相手では敵は居ない状態だったのである。そこからレベルを上げていけば飛躍的に能力が上昇していく。
レベルをどんどん上昇させていくリュー。
レベル2……3……
だが驚くべき事に、レベル4まで行ってもなんとかゼヒロは持ちこたえて見せた。顔を真っ赤にして、片膝突いた状態になってはいたが。
……レベル5。
ゼヒロ 「う、う、あイテテテて!」
堪らずゼヒロが尻もちを着くように後ろに転がり、掴んでいたリューの両手をそのまま引き込みリューの腹に足を蹴った。巴投げである。
だが、それも読んでいたリューは自分から地を蹴り、一回転して着地する。
ゼヒロ 「とんだ化け物だな、力比べで負けたのは始めてだぜ!」
ヒショ― 「んなアホな、ゼヒロが力負けするなんて……もしかして、ヤバイんちゃうか!?」
リュー 「パワーだけが取り柄だとか言ってたが、力比べは俺の勝ちのようだな。降参するか?」
ゼヒロ 「ああああ力比べは負けをみとめてやるぅぅぅぅだが、勝負はここからだぁぁぁぁぁ! テンション上げてくぜぇぇぇぇぇっ!」
ゼヒロが叫ぶと、さらにパワーが上がったように見える。テンションが上がるとパワーが上がるタイプのようだ。
ゼヒロ 「こぉぉぉんどぉはぁぁっ!
…スピード勝負だぜ?」
言った瞬間、ゼヒロが一瞬にして距離を詰めて来ていた。【縮地】というスキルがこんな感じであろうかとリューは思った。ゼヒロのそれは【スキル】ではなく、ただパワーに任せての突進であったのだが。
もちろんそれも読んでいたリューが余裕でゼヒロの放ったパンチを受け流す。
リューも久々に神眼の能力全開である。危険予知能力と読心能力をフルに発揮すれば、数秒先は完全に予知できるのだから、負ける事などありえない。もし、本当にヤバそうな危険を予知したら、時間を止めて逃げればよいのである。
リューはゼヒロのパンチに手を横から添えて
だが、ゼヒロは通過した後、一瞬にして反転して戻ってきた。再びリューに向かって突進する。だが、今度はリューの直前で、その膨大な脚力を使って方向を急激に変えた。どうやら背後に回り込むつもりらしい。
これだけの速度で突っ込んできて、急に横に方向を変えられれば、並の相手では姿が消えたようにすら見えるだろう。
だが先が読めているリューには通用するはずもなく。
リューは背後に回り込んできたゼヒロの動きに合わせてクルリと後ろを向いた。リューと目があったゼヒロは驚いてそのままもんどり打って倒れてしまった。
リュー 「スピード勝負か、付き合ってやろう」
リューが高速移動でゼヒロと勝負を始めた。リューには時間を操る
一瞬でゼヒロの背後に回ったリュー。まさか自分が背後を取られると思っていなかったゼヒロが慌てて引き離そうと走り始めるが、リューもそれに合わせてそれ以上の速度で追走していく。
ゼヒロ 「やるな! くそ! だが! 俺のマックスの速度なら!」
更に速度を上げていくゼヒロ。
草原でしばらくの間、目にも止まらぬ速さの追いかけっこが展開されるが、やがて、ゼヒロが立ち止まった。
ゼヒロ 「どうだ! はぁはぁ……これなら……ついてこられまい! …ハァハァ……ん?! んっふひゅあっ!」
だが、ゼヒロの背後にピッタリくっついてきていたリューがゼヒロの肩を叩くと、ゼヒロは変な声とポーズでひっくり返った。
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次回予告
ゼヒロ、奥の手を出す
乞うご期待!
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