第248話 村の正体

小さな村の小さな宿屋。


部屋は三部屋しかなく、ひとつは四人部屋、残りは一人部屋であった。


だが先客が居て四人部屋と一人部屋は既に埋まっているという。女将おかみは一人部屋でよければ二人で泊まっても構わないというのでそうする事にした。


夜はヴェラには猫の姿になってもらい、リューと一緒に寝ればいい。むしろ、そのほうがリューには嬉しい。リューは意外とモフモフ好きなのだ。ヴェラも猫の姿で抱かれて撫でられるのも慣れてきた。魂的には前世で姉弟であったが、今は違うのだしとヴェラは自分に言い聞かせつつ、猫的には撫でられて悪い気分でもないのであった。


小さな宿なので、食堂はあるものの、大きめのテーブルが一つ、それを他の宿泊客と一緒に囲む形であった。


そして…、先客は顔見知りであった。


リュー 「貴族様がこんな宿によく泊まる気になったな」


騎士がジロリとリューを睨んだ。


ガーメリア 「他にないのだから仕方あるまい。戦争にでもなれば野営も当たり前だ、この程度は気にしないさ」


リュー 「急ぎの用があるんじゃなかったのか?」


ガーメリア 「あ? ああ、いや、それはもう、その、大丈夫になったんだ」


急いでいると口を滑らせた手前、先に進まなくてはならなくなったガーメリア達。だがそのまま先に進んではリュー達の監視任務がこなせない。


どこかに隠れてリュー達が通過するのを待つか……? 思案していた時、ちょうど村の看板を見たガーメリアはそこに宿泊する事にしたのだった。


リュー達がダヤンの街に行ってしまう可能性もなくはないが、そうなったら仕方ない、後方から追跡を再開する。


だが、ガーメリアは、リュー達がこの村に宿泊する可能性は高いと踏んだ。


リューは盗賊を退治してから行くと言っていた。リューに師であるドロテアを超える実力があるなどとは思っていないガーメリアであったが、ドロテアが評価するのだから、それなりに実力はあるのだろうから、盗賊たちに負ける事はないだろう。


だが、盗賊を追って殲滅するのには、いくら凄腕であってもそれなりに時間を食うはずだ。当然ダヤンの街まで行く時間はなくなり、途中で野宿になる。その時、ちょうど良い場所に村があり、宿があるとなれば、当然そこに泊まるに決まっている。


ガーメリアの予想は半分当たりであったが、半分外れであった。リューの盗賊退治はそれほどの時間は掛かっていない。普通に移動しても、リューはダヤンの街に行くことができる時間であった。(そもそもリューはその気になれば転移で移動できるのだから時間など関係ないのだが。)


だが、あえて、リューはこの村に泊まる事を選んだのだ。

  

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宿の食事は粗末なものであった。ただ、ビールを一杯サービスしてくれると言う。非常にまずいビールであったが。


そして……


そのビールには睡眠薬が入っていた。


リューは危険予知能力によってその事に気づいていたが、ガーメリア達は気づいていない。


ガーメリア 「うーむ、まずいビールだな……」


薬が入っているせいで味が変わっているのだろう。あるいは、薬を誤魔化すため、あえて癖の強いビールを出しているのかも知れない。


騎士A 「平民の飲む安酒など、こんなもんでしょう」


騎士B 「いやあ確かに不味い……しかし、せっかくサービスしてくるというのだから、飲まないのももったいない…」


そう言うと、グビグビとビールを一気飲みしてしまう騎士B。それを見て、ガーメリアも不味いビールを口にした。


リューはと言うと、やはりビールを一気飲みしている……フリをして、転移を使って中身を全部宿の裏に捨てていた。


宿の人間に見えないように自分の空のグラスとヴェラのグラスとを交換し、それも空にしておく。


本当に飲んでしまったガーメリア達は、すぐに薬が効いてきたのだろう、瞼が重くなってきたようだ。


騎士s 「腹が膨れたら眠くなってきたなぁ」


ガーメリア 「そうだな、もう寝るか……」


ガーメリア達が部屋に引き上げたあと、リュー達も部屋に戻った。


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宿の女将 「…大丈夫、全部飲み干していったよ」



   *  *  *  *



時は少し遡り、リュー達が宿に入った少し後。


村の一角にある小屋に宿の女将とオヤジ、そして村人達が集まっていた。(夕食の支度にはまだ時間が掛かると言ってリュー達とガーメリア達は部屋で待たせてある。)


村の女 「確かなのかい?」


門番 「ああ、確かに、峠の盗賊を返り討ちにしたと言っていた」


村の女 「うちの人、帰ってきてないんだよ!」 「うちもだよぉ」


門番 「今、峠に確かめに行かせてるが、おそらくは……」


村の女 「ちっ、唐変木だったけど、居なくなると寂しいもんだね。仇を討ってやらないと……!」


門番 「まぁ待て。親分達がやられたってことは、相当腕が立つはずだ、迂闊に手をだすと返り討ちにあうぞ」


宿の女将 「そうだよ、こういう時こそ慎重に、いつも通りにやるんだよ」


実は、村は盗賊たちのアジトだったのだ。一見普通の村だが、村の男達は峠に罠を張り、旅人を襲っては金品を奪っていた。


リューは盗賊たちを殺した時、最後に一人だけ生かしておいて、アジトの場所を尋ねた。アジトには金品を隠し持っている可能性がある。盗賊を殲滅したら、そいつらが蓄えていた財宝は殺した者のモノにしてよいのがこの世界のルールである。


ただ、盗賊がいつも莫大な貨幣財宝や資材を溜め込んでいるとは限らないので、毎回確実に儲かるわけでもないのだが……中には持っている武器すら売り物にならないような貧乏盗賊も居るのだから。


稼ぐならば長く活動している大盗賊団が狙い目であろう。もちろん、それはリューに関してだけの話であるが。


そういう大盗賊団は当然手強いので、冒険者達や騎士団も、討伐するとなればかなりの大部隊を投入する必要があるので、危険を犯した割には経費が掛かり元が取れない事もあるのだ。(リューのようにソロで討伐可能ならば、元手がゼロなので赤字になる事はないのだが。)


リューが詰問した盗賊は答えはしなかったが、思い浮かべただけでリューは心を読んでしまう。そこで、この村の事を知ったのだ。奪った財宝もこの村に溜め込んでいるようだ。そこで殲滅して財宝を貰ってしまおうとリューは考えたのである。村ぐるみの盗賊団らしく、村に泊まった客も殺して金品を奪うのが常だったようだ。放置しておけば、また旅人に被害が出る。退治しても感謝される事はあっても責められはしないはずである。



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次回予告


村を殲滅する


乞うご期待!



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