第450話 出禁解除してやってもいいぞ?

リュー 「話があるって? なんだい?」


サリに呼ばれて来たリューであったが、詳しい事情は一切説明されておらず、ただ “話がしたいという人物が来てる” としか聞いていなかったのだ。


ある程度は説明しておいてほしかったサリオであったが、リューの様子を見てすぐ察して自己紹介と訪ねてきた理由を説明した。


サリオ 「えっと、ああ、俺はサリオ。今日、俺の弟達がこの店に来て迷惑を掛けたそうで、その謝罪に来たんだ」


リュー 「ああ、あの三人組か。アンタはあの三人とはどういう…?」


サリオ 「俺は三人の兄だ。弟達が大変迷惑を掛けたようで、この通り、済まなかった」


サリオは腰を九十度折って頭を下げた。


サリ 「あ、オーナー、この人、あの三人の分もちゃんとお金払ってくれたんだよ。はいこれ、お釣りね」


サリオが頭を下げたままだったので、サリはテーブルにお釣りをおいた。


リュー 「三人とは随分態度が違うんだな? ああ、頭を上げていいよ、謝罪は受け取った」


サリオ 「許してくれるか?」


リュー 「許すも何も、あの三人にはそれなりにお灸を据えてやったしな。一体どういう教育をしてんだと言いたいところだが、あの三人も子供じゃない、アンタが謝る事でもないだろう」


サリオ 「三人も今、店の前で待たせている。謝らせるので、店に入れてもいいか?」


リュー 「それは駄目だ。あの三人はこの店には出入禁止だ。本当は村に出入禁止にしたかったんだが、さすがにそんな権利は俺にはないしな」


だが、どうしても謝らせたいというので、リューが店の外に出ていく事になった。


出てみると、店の前の道路に三人が正座させられており、街の人間から奇異の視線を向けられている。


リュー 「店の前でこんな事されたら営業妨害だろ…」


サリオ 「おい、謝れ!」


ラリオ・ワリオ・ヤリオ 「どうもすみませんでした~」


土下座で謝る三人。


リュー 「分かった分かった、迷惑だからもうどっか行っていいよ」


サリオ 「許してくれるか、ありがとう、申し訳なかった」


リュー 「言っとくが、出禁は解かんぞ」


ヤリオ 「ええ~そんなぁ~?!」


サリオ 「俺も先程食べさせてもらったが、あまりの美味さに驚いた。これを弟達が二度と食べられないというのは、ちょっと可哀想でな。弟達も反省している、もう二度と粗相はさせない。だから、なんとか許してもらう方法はないか?」


リュー 「そもそも趣味で開いたみたいな店だ、続けるかどうかも分からん」


サリオ 「…あんた、Sランクだと聞いたが?」


リュー 「冒険者ギルドで聞いたのか?」


サリオ 「いや、門番がそう言ってた」


リュー 「だとしたらなんだ?」


サリオ 「もし、俺がアンタと勝負して勝ったら、出禁を解除してもらえないか?」


ヤリオ 「兄貴!? やめておいたほうが、コイツは…いえコノカタハ、とんでもない強さだった。いくら兄貴でも…」


ラリオ 「いや、兄貴なら、もしかしたら…」


サリオ 「俺も多少は腕に覚えがある。正直に言うと、Sランクにどこまで通用するか、試してみたいんだ」


リュー 「断る。その勝負とやらを俺が受けるのに、一体どんなメリットがあるっていうんだ? 言ってみろ?」


サリオ 「う……む。ない、かな。。。」


リュー 「この間、余興で冒険者たちの模擬戦を受けてしまったが、あの時は自分に賭けて儲かったから、一応報酬はあった事になる、まぁ金貨十枚程度にしかならんかったがな。お前は、俺に挑戦するのに、報酬は何を出すんだ? 金貨十枚出すか?」


サリオ 「…高くないか? 俺の全財産くらいだぞ」


リュー 「全財産が随分少ないんだな。冒険者だとそんなもんか?」


サリオ 「馬鹿な弟達に金がかかるもんでな…。いいだろう、挑戦するのが冒険者だ、金貨十枚、乗ろうじゃないか」


リュー 「う、まさか受けるとは。もっとふっかけてやれば良かったな。まぁ仕方ない、自分で言ってしまった事だしな、手早く済ませよう。どこでやる? ルールは? ギルドの訓練場でも借りるか?」


サリオ 「いや、そこまで時間を取らせるのも悪いからな、ここでいい。周囲に迷惑が掛らんよう、魔法はなしで、剣で勝負だ。どうだ?」


リュー 「ここでって事は、真剣でやるってことか? お前は模擬剣持ってないだろ?」


サリオ 「大丈夫、殺しはしないさ。ちょっと怪我くらいはあるかもしれんが、終了後はポーションで治療できるって事で、どうだ?」


そう言うとサリオはバッグからポーションを出して店の前にあったテーブルの上に置いた。


リュー 「俺は治癒魔法が使えるからソレは自分で使うといい。怪我は自分持ちって事で。俺はコレを使わせてもらうが、いいよな?」


そう言うと、いつの間にかリューの手に模擬剣が握られていた。


サリオ 「俺は真剣を使うと言ってるのに、自分は模擬剣か」


リュー 「金属製だ、打ち込まれたら怪我では済まんかもしれんぞ?」


サリオ 「…言っておくが、俺のランクはAだ。舐めていると痛い目を見る事に…」


だが気がつけば、リューはいつの間にかサリオの背後に居て、模擬剣を首に突きつけていた。


リュー 「フライングだが、真剣勝負なら終わってたところだ」


サリオ 「…ばかな……まったく見えなかった」


それはそうであろう。リューは一瞬時間を止めてサリオの背後に移動したのだから。


リュー 「抜く前では納得行かないだろう、さぁ、もう一回やってみるか?」


リューが言い終わる前に、サリオは叫び声をあげながら剣を抜き、そのまま振り返ってリューの剣を打ち払うが……


サリオ 「なんだ?! この手応えは?」


リュー 「ああ、この模擬剣、重さが100kgくらいあるから。ほれ」


リューが剣を軽くサリオの頭上に振り下ろす。慌てて受け止めたサリオだが、片手で軽く打っているだけに見えるが、受け止めたその重さはとんでもない重量感があって押し込まれてしまう。


リュー 「どうした? 終わりか?」


サリオ 「う……うぉぉぉぉ!」


サリオが雄叫びを上げながら猛攻撃を開始した。その全てを剣で受け止めるリュー。この世界で一番頑丈で重い金属で作られた模擬剣である、剣を握るサリオの手には岩でも切りつけているような感触がしていた。それどころか、剣を受け止めながらリューは前に出て圧を掛けてくるので、攻撃をしているサリオのほうが徐々に劣勢に追い込まれていく。


実は、サリオも言うだけの事がある、Aランクの冒険者の中でも、その剣の腕は上位に位置する実力があるのだが……


リューは加速も強化も何も使わず、軽く全てを防いでしまう。素の状態でサリオの剣を受けているだけである。最近ランスロット相手に鍛錬している成果を試すのにちょうどよいのだ。


サリオ 「化け物か……」


ラリオ 「嘘だろ、王都の剣術大会で優勝した事もある兄貴の剣が通用しないなんて……」


やがて、息つきを起こしてサリオの動きが止まった瞬間、リューが軽く剣を振る。その剣はサリオの剣を握る親指を捉え、粉砕した。


サリオ 「うぉぉっ!」


剣を取り落したサリオの喉にリューの剣が突きつけられている。


サリオ 「…参った。さすが、Sランク…上には上がいるものなんだな。そんなつもりはなかったが、王都の武術大会で優勝などして、いつのまにか俺も調子に乗っていたようだ」


リュー 「ふん、納得したなら帰れ。ソイツらも連れて帰れよ、営業妨害だ」


そのまま店に戻ろうとしたリューであったが、ふと立ち止まって振り返った。


リュー 「おっとっと、金は置いてけよ、約束だからな。金貨十枚」


サリオ 「……」


サリオは一瞬躊躇ったが、すぐに諦めたのか、素直に財布を出して金を渡してきた。(手はポーションを飲んですでに回復していた。)


リュー 「……本当に…」


サリオ 「?」


リュー 「本当に反省しているなら、出禁解除してやってもいいぞ?」


ワリオ 「や、やったんだな!」


リュー 「だが、すぐには信用できん。そうだな、3年間、そいつらが一切悪さしないで真面目に過ごせたら、解除してやろう」


サリオ 「三年?!」


リュー 「まぁそれまで店があるかどうかは保証できんがな」


ヤリオ 「さ、三年は長いんだな…3日くらいにしてほしいんだな…」


リュー 「別に、この店に入れなくなって生きていけないわけじゃなし。何も問題なかろう?」


そう言い捨てて、店に入ってしまうリューであった。



― ― ― ― ― ― ―


次回予告


超兄貴来襲


乞うご期待!



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