第153話 領主を救出せよ、バイマークの冒険者達!
ネリナ 「おそらく、領主の乗った馬車は、タイミング的にスタンピードの直撃を受けると思われます」
冒険者 「引き返せないのか?」
ネリナ 「もうかなり街に近いところまで来てしまっているようで、引き返すよりは街に逃げ込んだほうが良いと判断したようです。既に騎士団が護衛に向かっていますが、スタンピードにモロに巻き込まれたとしたら、騎士団も無傷では済まないと思われます」
冒険者 「緊急クエストというのは騎士団の応援か?」
ネリナ 「そうです。領主と騎士団を助け、街まで無事に退却して来る事、参加可能なのはDランク以上の冒険者のみとします」
冒険者 「だが、騎士団でも対処できないのに、少数の冒険者が行ってどうにかなるのか?」
ネリナ 「確かに、この街の冒険者は多くはないですが。でも、ここに居る者たちは全員、イライラの研修を乗り越えて冒険者になった精鋭ばかりです。騎士団は人数は多いですが“普通の”騎士しかいません。この街の冒険者達はきっと騎士団の力になれるはず。貴方達ならきっとクエストを成功させられると信じています」
イライラ 「ひとつだけ言っておく」
その時、イライラが口を開いた。
イライラ 「いいか、お前ら! 死ぬ事は許さん! 誰一人欠ける事なく、無事に任務を達成して帰ってこい! そんなヤワな鍛え方はした覚えはない、お前らならできるはずだ!」
冒険者達 「……やってやろうじゃねぇか!」
受付嬢 「騎士団から連絡がありました。騎士団は領主様の馬車と合流に成功、ですが、ダンジョンから出てきた魔物達と交戦中との事です」
領主が馬車で移動しているとしたら、通ってくる
イライラ (死ぬなよ……)
* * * *
領主の馬車を守るように囲んでいる騎士達。既に周囲には魔物が溢れいてるが、まだ危険度初級の魔物(ゴブリン・オーク・コボルト等)ばかりである。これならば撃破しながら街まで辿り着けるだろうと思われた。
だが、思った以上に数が多く、戦っているうちに時間がどんどん過ぎてしまう。やがて、急に魔物の種類が変わる。中層からの魔物に追いつかれてしまったのだ。
気が付けば、馬車の周囲を取り囲む魔物は
ワイラゴの魔物は階層毎に強さの落差が激しい。普通は巨人系魔物もトロールあたりから始まり、徐々に上級種になっていくはずであるが、ワイラゴではいきなりボス級のサイクロプスやギガンテス、アトラスが群れで出現するのだ。
巨体に似合わず動きの速いいサイクロプス、皮膚が異様に硬く、防御力が高いギガンテス。異常な回復能力を持っているアトラス。巨人は巨大な棍棒を振り回すだけでなく、巨大な岩を持ち上げては投げつけてくる。
怪力の巨人族の集団相手に騎士達は苦戦を強いられた。もう城門が見えるところまで来ているのに、進路をギガンテスに塞がれ進む事ができない。騎士達は果敢に立ち向かうが、巨人の振るう棍棒の一振りで何人か吹き飛ばされてしまった。
騎士隊長 「くそっ、ここまでか……?」
その時、城門の上から矢が放たれ、道を塞いでいたギガンテスの背中に刺さった。
そして街の城門が開き、高速で走り出てくる冒険者達。
背中に矢を受けたギガンテスが振り返り冒険者達を迎え撃つが、その攻撃を余裕で躱し、冒険者達の攻撃があっさりとギガンテスを倒す。
城門までの
冒険者 「さあ早く! 走れ!」
騎士 「すまない! 助かった!」
御者が鞭を振るい、一気に馬車が城門に向けて走り出す。妨害しようと巨人達が動き出すが、冒険者達によって次々倒されていく。岩を投げようとした巨人も、先に攻撃を加えて投げさせはしない。
冒険者達は強かった。巨人の攻撃を素早いフットワークで躱し、騎士達の剣が通らなかった巨人の皮膚もあっさりと切り裂いて見せる。サクロプスの巨大なひとつ目から放射される見えない衝撃波さえも、冒険者達は躱してみせた。
それもそのはず、バイマークで鍛えられた冒険者達は、他の街であればBランクやAランクになっていてもおかしくないほどに鍛えあげられているのだ。
無事、馬車が城内へと逃げ込んだのを確認し、冒険者達も即座に転身、決して無理はしない。騎士達と協力しながらケガした騎士を助け、撤退を開始した。
果たせるかな、冒険者達は誰一人欠ける事なく無傷で城内への帰還に成功した。
領主にバイマークの冒険者達の優秀さを見せつけた出来事であった。
再び城門を堅く閉ざし籠城の体制に入ったバイマーク。
街の外には続々と魔獣が集まってくる。
しかし、しばらくすると、より深い階層の高ランク魔獣がやって来て、前に居た低ランクの魔獣が散り散りに逃げていく。強い魔物はプライドが高く、逃げ出さずに戦いを始める。その様子はさながら怪獣大決戦のようである。
だが危険な魔獣同士が潰し合ってくれるので、何もしなくとも数が減っていく。そのため、スタンピードが起きても強力な魔物はあまり多くは残らないのである。(周囲に散っていった低ランクの魔物の駆除作業を考えると頭が痛いのだが。)
だが、やがて、急に情勢が一変する。
ダンジョン最奥から出てきた凶悪な魔獣「コカトリス」の群れが、他の全ての魔獣を圧倒していったのである。ダンジョンから溢れた魔物の最終グループである。
コカトリスは巨大な鶏の身体に蛇の尾を持ったような外観のモンスターで、石化ガスを吐く。
コカトリスの吐く石化ブレスに周囲の魔獣は為す術もなく、気が付けばコカトリスの群れ以外、動く魔獣は居なくなっていた。
街の周囲に居座ったコカトリスは、しばらくの間、石化した魔物や動植物を啄んでいたが、さらなる獲物を求めてか、やがて街の外壁に攻撃を開始したのである。
コカトリスが街の城壁や城門を嘴でつつく。だが頑丈に作られた城壁・城門はその程度の攻撃であれば持ちこたえられる。だが、つついても壊れないと気付いたコカトリスは、今度は石化ガスを城門へ吐きかけ始めた。
壁や門扉などの無機物相手にガスなどいくら浴びせかけられても問題ないだろうと高を括って見ていた騎士達だったが、やがて異変に気付いた。
どうやら、コカトリスの石化ガスは、浴びせた対象すべてを石化してしまうらしいのだ。
動物も、植物も、魔獣も……、そして、木材や石材、金属さえも。
石が石化するというのもおかしな話だが、コカトリスの石化ガスは、硬い石材を脆い軽石のような材質に変質させてしまうのである。
木材の芯材に分厚い金属の板が貼り付けられている門扉も、強固な石材で作られた外壁も、すべて脆い軽石状に変質してしまっていたのであった。
慌てて兵たちが城壁の上からバリスタや魔法で攻撃を始めたが、石化ガスのブレスを食らってあっという間に石にされてしまう。
やがて、コカトリスはガスを吐くのをやめ、再びツッツキ攻撃を開始する。外壁は10mもの厚みがあるので、それを掘り進むのは大変であるが、コカトリスは門扉が壁に比べて薄い事に気づいたのか、門扉に集中攻撃を始めた。
外壁や門扉には魔法による強化が施されていたが、コカトリスが攻撃を始めるとその魔法も何故か解除されてしまう。
その結果、街の門はあっさりと崩壊してしまったのである。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
バイマーク滅亡の危機
乞うご期待!
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