第138話 空っぽになってしまったリューは旅立ちたい

その後、無事戴冠式が行われ、ソフィが女王に正式に就任した。

 

マルケスが王位継承権第二位となり、今後はソフィを支えていく事となる。ソフィの一つ歳下のマルケスはジョルゴ公爵の三男であり、ソフィの従姉弟いとこと言う事になる。

 

ただ、マルケスに公爵の位を継がせる事を不安視する意見があがっていた。王を暗殺したかどで公爵家は取り潰すべきだというのである。

 

しかし、王家の血族で残っているのはソフィとマルケスだけである。王族の血統を絶やすわけにもいかない。それに、毒親の悪行の責任を子が取らされるのはおかしいと擁護する意見もあった。

 

公爵家内部の浄化を条件として爵位を継がせるという方法も考えられた。家臣や使用人の中にジョルゴの悪事に積極的に加担していた者達がまだ居るはずである。それを徹底的に調べ上げ、膿を出し切る必要はあるだろう。

 

だが、まだ若いマルケスにそれは難しい仕事となるだろう。やはり、一旦キレイに全て排除して仕切り直したほうが禍根を残しにくいだろうと言うことで、結局、公爵家は取り潰す事になった。

 

しかしマルケスを下野させるわけにもいかない、ソフィにとっては残った唯一の親族であるマルケスに仕事を手伝ってもらう必要がある。そこで縁組をして王家に入り、ソフィの義弟という立場とする事になったのであった。もともと従姉弟同士で仲も悪くなかったため、収まりは悪くない二人であった。

 

 

 

 

公爵に解任された前宰相やラルゴ王派だった家臣達も呼び戻された。国内の混乱は収まっていないが、解任されていた間に宰相が下野していた優秀な部下や貴族を集めていてくれたので、なんとか正常化の目処はつきそうであった。

 

 

 

 

辺境に飛ばされていた近衛騎士団も呼び戻され、レイナードが王国の騎士団の総司令官としてソフィを支えてくれる事となった。

  

ちなみにワルドであるが、王の暗殺については関知していなかったとの事であったが、雇い主の命令とは言えソフィを殺そうとした罪を重く見て終身奴隷という身分とされる事になった。本来は死刑でもおかしくはないのだが、剣の腕を惜しいと思ったレイナードが庇ったので極刑を免れたのだ。今後は騎士団の奴隷剣士として生涯こき使われる事となったらしい。

 

ただ、騎士団の訓練に参加してレイナードに剣を教わる事ができると聞き、ワルドは意外と落ち込んではいないようであった。いつか剣聖を越えてみせると張り切っているとか。どうやらただの剣術馬鹿であったらしい。

 

リューも、公爵の命令とは言え一度は王族に剣を向けた、モラルに欠けるところが見えるワルドを生かしておくのは危険ではないかと心配した。

 

家臣からも「ワルドは二度と剣を持てないように処置した方が良い」という意見もあったのだが、レイナードが

 

「自分が責任を持って面倒を見る、なに、ワルドごときに死ぬまで負ける気はないので大丈夫だ」

 

と自信満々であったので、任せる事になった。

 

レイナードは何故かワルドを気に入っているように見える。もしかして、剣術馬鹿の性分が似ているからなのかも知れないとリューは思った。

 

 

 

 

リュー自身は、当然ソフィから打診はあったが、やはり国の運営に携わる気はなかった。それよりも、世界を見る旅に出たい。

 

リューはただ束縛されるのが嫌なだけで、この先どうしていくのかは、何も決まっていないのだが。ミムルに居た時は、苦労してきた生い立ちから、ただ幸せになるために無我夢中であったが、そのミムルも失くなってしまった。この世界での十数年の歴史が全てなくなり、しかし自由に生きられるチートな力を手に入れた。

 

自由に生きたいとは言ったものの、これから、特に目的や目標があるわけでもない。空っぽになってしまった気がするリューであったが、今後のことは世界を見て回ってから考えたいと思ったのだ。まだまだこの世界の事をリューは何も知らない。旅する中で、リューにも大切な何かが見つかるかもしれない。

 

 

  *  *  *  *

 

 

だが、その前にやる事がある。

 

それは、侵略してきた国への報復である。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

ミムルを滅ぼしたヴァンパイアの国に報復を

 

乞うご期待!

 

 


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